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「吹奏楽?」
「そう、吹奏楽部にした」
「一緒に運動部に入ろうって言ったのに!」
「言ってないよ。……音楽好きだし」
まだ不満げな優太を置いて初の音楽室に歩き出した。
吹奏楽部を選んだのは、もし、先生が来たとき、一番傍にいれると思ったから。
古屋先生は音楽教師で、吹奏楽部の顧問だった。
前回は遠くから見てるだけだったけど、今回はちょっとでも近づきたい。
先生が赴任してくるか分からないし、確信もないけど、少しでも近くに感じられるところにいたかった。
用意周到にも、ピアノ習わせてもらってたんで、楽譜は読める。
楽器は……何がいいかな。
そんなことを考えてるうちに音楽室に着いて、何人かの希望者と一緒に挨拶する。
全ての楽器を見学させてもらって、楽器を決めた。
金色のキレイなトランペットに引かれて、トランペットを選んだ。
にこにこ優しい先輩に楽器のことを説明してもらっていると、音楽室の扉があいて、希望者がまた数人はいってきた。
その中の一人に息をのんだ。
見た瞬間に世界の時間が止まったかと思った。
柔らかい栗色の髪と、瞳。
すこし子供っぽさを残した覚えのある顔。
聞き覚えのある声には遠いけど、似てる。
恥ずかしがるときの右手を耳に当てる癖。
「古屋徹です」
部長に自己紹介した時は、ほんとに倒れるかと思った。
彼もトランペットを選んで、よろしくねって言ってくれたとき、本気で運命かと思った。
胸が苦しくて、逢えた嬉しさで体が熱くて、前回よりもひどい動機と息切れに死ぬかと思った。
あの時は。
そう、逢ったばっかりの時は。
あれから三年。
最高学年になりました。
「トランペットのファーストは紺野さんね」
先生から発表された配役に隣から鋭い視線を投げられた。
いいです、あたしセカンドでいいです……
だって隣恐いの。
ライバル意識なのか、セカンドに選ばれた彼の目が怖いんです!!
「頑張ろうね、紺野さん」
「…う、うん。…古屋君」
ニッコリ笑ってるのに笑ってない。
どんどんあたしの夢が壊れて、こんなはずじゃなかったって思いが募る。
古屋先生は先生のままが良かった…
この3年間思い続けたつぶやきをまた胸中でつぶやいた。
「なんで、君がファーストなの」
「な、なんでですかね」
「君は下の子たちをまとめていけるとは思えないんだけど」
「そうですね」
栗色の瞳が不愉快そうにあたしを見る。
怖い……
「じゃ、古屋君、パート交換し」
「先生が決めたことだ」
全部言い終わる前に切られました。
「高校では覚えてろよ、絶対に俺がファーストを頂く!今年は我慢してやる」
え、確かに持ち上がりですけど、中高一貫ですけど。
ずっと張り合う気なの、この人。
嬉しいようで、嬉しくない。
学年順、または上手い順にファースト、セカンド、サードとパート割があって、ファーストは主旋律に関係することが多いです。
分かりにくいでしょうか……




