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紺色のブレザー、赤のリボン、白のプリーツスカート。
二つに結んだ三つ編み。
……伊達メガネ。
「なんでそんなかっこしてるの?」
優太が不思議そうに聞いてきた。
「……地味に過ごしたい理由ってもんがあるのよ」
「笙子ちゃんは、地味にしてても可愛いよ。むしろ、そんな格好したほうが気になってみんなの目に留まっちゃうんじゃない?」
え?!
前回とおんなじ格好なんですけど!
いじめ怖くて中学校時代は地味に行ってました。
地味に、地味にって考えて逆に目立ってたのか?!あたし!
「ぶっはっ!!」
中学校までの道を歩く後ろから吹き出す声……
「須藤」
「笙子、お前、マジで(今回も)そんな格好するわけ?」
「っク……ちょっと、なんで教えてくんなかったの?(前回目立ってたって)」
「(前回は)そんなに仲良くなかったじゃん?」
()内は言葉には出しません。出せません優太がいるからね。
若干機嫌の悪くなった優太が、須藤と話してる間に三つ編みをほどく。ちょっと迷って、てぐしでハーフアップにした。
地味に行きたかった理由は、いじめがやだったのと、もう一つ。
あの人が、静かな文学少女がタイプだって知ってるから。
気づかれないように、ため息をついた。
「え………」
無い。
名前がない。
入学式後に渡された入学案内に、あの人が、いない。
何度も見直した。
先生の話なんて聞いてなかった。
少し涙の浮かぶ視界で何度も探した。
全教師の名前が書かれているページを最初から、最後まで……。
新任で、来てる筈だった。
入学式で見当たらないから、見逃したんだって思って名簿を開いた。
隣のクラスの副担任になるはずで、恥ずかしそうに生徒に囲まれてる筈だった。
古屋…透先生…
いつもニコニコ笑ってて、生徒の立場を考えてくれて、いつも一人でいるあたしをしょっちゅうかまってくれた人。
逢えるって信じてた。
この学校に来れば、絶対いるって思い込んでた。
前回とは違う流れって、分かってたはずなのに。
それでも、いないなんて考えられなかった。
いえ、考えたくなかった。
先生の情報なんて、手がかりなんて、名前と中学校位しかなかった。
「笙子」
須藤の声がする。
上から降ってくる。
「大丈夫か」
顔をあげれない。
お先真っ暗すぎて、くらくらする。
「……古屋、来年かもしんねえし」
須藤は前回を知ってる。
中学校時代を知ってる。
あたしをいじめてたくらいだ、あたしが誰を見てたか位しってるんだろう。
優しくそっと頭に置かれた手が、小さな声が、まるであたしを慰めてるみたいで、
「須藤のくせに……」
こいつも本当に変わったなって実感した。
「おい、須藤。笙子ちゃんから離れろ」
「お、隣のクラスの杉崎君。そっちのクラスはどう?」
クラスに飛び込んできた優太と須藤の声を聴きながら、浮かんだ涙を拭った。
「なんで僕が違うクラスなんだ」
「先生に言え。残念だが、笙子のことは俺に任せとけ」
「は?!誰が任せるか!」
「うっさい!」
だんだんエスカレートする言い合いに止めに入る。
こいつらに挟まれてるとシリアスする暇もない!
……助かったなんて思いたくないけど、今回は助けられた…かな。




