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「なんで逃げるの」
「あんたが訳わかんないこと言ってるから!」
「隠したってわかってるよ。覚えてんでしょ」
「わかりません」
放課後の廊下を全力で駆け抜ける。
笑顔で追ってくる。
「待ってよ、せっかく覚えてる仲間にあえたんだ、話くらいしてよ」
「知りません」
「前回みたいには絶対しない。約束するから!」
階段を下りて中庭を突っ切ってまた階段登って廊下を進んで突き当りを右に
「捕まえた」
待ち伏せされました。
つかまれた腕が痛い。
「一応、ここの卒業生なんだよ。ついでに君のこともよく知ってる。ね、降参して?」
すがるような目に、脱力。
ってかもう走れない。
「長距離苦手だもんね」
にこにこ笑うこいつから早く逃げたい……
「なんかね、気づいたら幼稚園の年長さんだったんだよね。全てが同じ訳じゃなくて、ちょっと違うとこもあるんだけど。この時期の転校も親の都合で4年間海外にいってたから」
みんなが帰った教室で、彼は少し泣きそうだった。
「前回はさ、上手くいかないことばっかりで、こんな世界どうでもいいって思ってた。そしたら急にやり直しの人生みたいに、記憶もって若返ってるし、どうせなら楽しく過ごしてやろうって」
がりがりと頭をかく彼は嬉しそうにあたしを見た。
「杉崎にあったら、今度こそ、ずっと一緒にいれるくらい仲良くなろうって思ってたんだ。まさか覚えてる同士だとは思わないだろ」
嬉しい誤算。
4年生が使わないような言葉を使って、語りかけてくる。
「いいよ、まだ信用しなくて。いじめてた張本人が何言ってんだって思ってるだろ。……ゆっくりさ、また友達になってよ」
なんて言っていいか分からなくて、あたしは俯いた。
「帰ろう、杉崎」
「あたしは紺野笙子なんだよ」
つぶやくように言った言葉に、「なんか嫌な響き」って言った後、紺野って呼んだ。
「あんまり話はできないと思ってね。今日須藤があたしに構ってきたことだって、火種になるかもしれないんだから」
「え、なんで」
「クラスの男子と女子が仲悪いからだよ」
「なんで」
「ちょっとね、色々あるの。ほら、先に帰って。あたしもう少しいてから帰る」
「一緒に帰ろうよ」
「だから、対立関係にあるみんなの目に留まったら面倒でしょ」
「ふーん……じゃ仲良くなったら良いんだ」
「そういう訳でもない。できることならずっと近寄らないで」
「そっかー、作戦練んないとね」
「ちょっと、聞いてんの?近寄らないでって言った、って、おい!」
「情報収集と計画立案しなくちゃいけないから、また明日…」
言い終わらないうちに去って行った。
「なんなの」
一週間後、原因の男子が女子に謝り、だんだんに対立は治まっていった。
「一体どんな手を使ったのよ」
「必死だったんだ。笙子と話したかったから」
「名前呼びを許可した覚えはありません」
なんだか、男子全員が怯えたように首藤を見てるのは、多分気のせいじゃない。




