第五話目『全て遠き理想郷(安全面的な意味で』
――視線を、感じる。
その視線がなにものかはわからない。でも、その視線は熱いものだ。
それを俺は感じ取り、振り向く。
誰もいない。
あきらめては、ダメだ。
恐怖に震える足の一歩、そう、ただの一歩だ。
だがその一歩は勇気をたくさん使う。
だけど、ここで立ち止まって意味があるのだろうか?いや――ない。
諦めるな、とぎれるな、ただ、踏み出せ。
心はまっすぐ前に
歩き出せ。
「最近寒気を感じる。」
「そうか、それはご愁傷さまだ。」
試験前日、ファイにそう話すと手を合わされて南無、といった感じでそう言われた。
――ここの世界の宗教は仏教に近いのだろうか。
まぁそんなことはどうでもいい。
最近試験前の勉強をしていると、背後から視線を感じ、その視線が、なんだろう、ぬめっとしているのだ。まな暖かい感じで、その生暖かさが異常に気持ち悪い。
なにが起こっているのかわからない俺はとになく後ろを振り向いた何もないことをホッとし、ルビーが散歩から帰ってくるのを待つばかりなのだ。
ルビーがいれば視線はなくなるわけで、それは背後に誰かいるのを完全に悟らせるものだと、俺はまだ気づいてなかった。
「試験か――自信がない。」
そうポツリともらすと、ファイは苦笑する。
「森の奥深くにいたんだっけ?ま、そりゃそうだろうな。一週間で合格したら異常だよ。」
森の奥深くという説明をしたので、ファイはそれを信じている。まぁ、常識がなくてもそれでごまかせるからそういう説明をしたのだからしかたがない。
いつかこいつに話せることがあるかな、俺の秘密。
俺は『転生or憑依』というカテゴリにはいると思う。
憑依といっても転生といえるのだろうが、厳密にいえば憑依なのだろう。
俺は死んだ=転生
死んだかどうか不明、だけど俺は別人になっている=憑依
そんなものかな。
死んだことも不明、だが死んだという記憶はある。
あのブラックアウトはなんだったんだろうか。
植物状態で、これは夢、そう考えたこともあった。夢であれども痛みは再現できる。
ならば頬をひっぱるといった行為は無意味で、その事実を考えてみて、俺はハァとため息をつく。
「ん、どうしたんだ?」
おっと、少し思考に落ちていたらしい、ファイになんでもないと返すと、俺は立ち上がる。
「ファイ、ありがとな。」
「なんだ今更。」
中年と、少年と青年の境である俺の年齢で、ここまで友達のように話せるこの男性はすばらしい人だと思う。
「ファイにあって、俺は一歩を踏み出せることになった。俺の問題に蹴りがついたら高級料理をふるまってやるよ。」
「くっくっく、それは楽しみにしてるよ。俺の妻もよぶことになるぜ?」
…ぇ?
「お前、結婚してたのかよ!」
「ぷはははは!お前の問題にけりがついたら紹介してやるよ!美人だぜぇ」
そうやってケタケタと笑うファイをみながら、こいつを選ぶなんていい目をしているなんて心の中で普通に考えないことを考えていると、気配を感じ取る。
「イリス様ァ、剣の練習するんでしょう?」
近づいてくる赤髪の妖精、ルビー、それを聞いて俺は立ち上がる。
「なんでぇ、お前剣術の練習してたのか?あんなに強いのに?」
「俺は肉体の経験からできるようになっているけど、心は弱いのさ。」
「だったら、俺が打ち合ってやろうか?」
「え?」
打ち合う、と言われて思わず意外そうな顔をしてファイをみた。
ファイは不服そうな顔をした。
「おいおい、俺はこれでもBランクを倒せる程度の腕前ではあったんだぜ?」
「昔は学院に入りたくて金がなくて断念して、昔は剣術がすごかった…その答えは?」
「騎士団の試験にはいるほどの金がなかった。だから門番やっているんなこれが。腕前をもって騎士団の推薦をとるやつはいるんだけどな、そいつらは門番程度みやしねぇ」
最悪だ…金ばかりの世の中最悪だ…
「破ァッ」
ガキィンッという金属音をたてて剣を打ち合う、といっても鉄製の刃を潰したものだ。
それでも当たれば痛いし、剣程度に重い。
ガィィンッギィンッという金属音がさらに加速していく。
それに追い着いていく。
一週間程度だが、目が慣れてきた。もともと慣れていたのだろうが、その目に思考がちゃんと追いつくようになっている。
俺の戦い方というものは軸というものをつかってやる戦い方。
避けるのは回転、それもみきって、それで回転しながらその遠心力を味方につけてふっとばす。
ちょっと違うかもしれないが、『FINAL FANTASY』のセフィロスみたいなものだろう。
あの人はなんであの長い刀であそこまでふっとばせるのだろう。
折れぬ曲がらぬそれでいて切れ味は最高峰のもの、それを日本刀というものは目指していたのだろうが…っと、あまり考えてもだめだ。
そうしているとファイがボスッと倒れ込む。
ぜぇぜぇと息を荒くしているところをみると、疲れているようだ。俺も汗がでてきている。
「くっはー、ブランクは隠せないな。」
そういって手をひらひらさせるファイに、正直ブランクなんても微塵も感じなかったと思った。
隙あらば突っ込んでくる、ちょっと手の力をゆるめれば剣は吹っ飛ばされるほどの力。
ならばと隙をつくって、その突っ込みを吹き飛ばすほどの力の準備をすれば、それの裏をかかれる。
やりにくい相手でありながら、こいつの剣術はやっていてすがすがしいもの。
「やっぱ強ぇ、一撃も与えられなかったくせに俺は何撃もくらった。」
そういって笑うそいつは、昔はどれだけ強かったのだろうか、なんて思った。
そして、こいつが騎士団というものに入れないことに、残念な気分になった。
「ふぅ、じゃ、これ以上疲れるとだめだし俺はいくな。」
そういうと、ファイは俺の小さく手をふって、疲れたような声で「あぁ」と返した。
――次の日
万を超えるであろう試験者をみながら、前日に買った黒を強調した正装に身をつつみ、俺は試験会場へと到達した。
【魔法学】倍率38.8倍(採用人数:140人)
【魔法薬学】倍率38.9倍(採用人数:100人)
【魔法剣学】倍率40.1倍(採用:80人)
【魔法科学】倍率31.2倍(採用:60人)
【魔法歴史学】倍率34.2倍(採用:40人)
どんな人数だよ。
ついでに学科は一年目終了時に決めるらしい。
採用人数140名
その人数に俺は驚きながら、倍率の高さに心はドキドキだ。
さて、どうしようか。
ピラッと宿屋にいつまにか置いてあった受験票をみると、8階の821号室と書かれており、受験番号は408720だ。
学部があり、俺はそれがさっぱりよくわからなくて適当にだした。
たしか――魔法学というところだったか。
魔法を知りたいのでそのまま魔法とかかれているものをとったのだが――。
なぜ、俺の教室には机が二つしかないのだろう。
倍率をみて、教室をみる。
――なんなのだこれは。
その机がぴったりとおさまり、受験番号は二つともある。
えっるぅぃぃぃーとの子供たちと薄汚い俺とはいっしょにしたくあるぃませぇぇんってか?
それだったらムカツク!と勝手に心の中で叫んでみると
ポンッと肩を叩くものがいた。
試験管か?と思い後ろをみると
「あ…セレミアさん。」
茫然としながらそういいはなつと、セレミアさんは嬉しそうに笑う。
どうしよう、寒気がする。
「で、なんでここに?」
「私も試験を受けにきましたの。」
「え、でも君、ここの生t「あ、時間ももうすぐですし座りましょう。」――え、あ、はい」
俺が瞬時にツッコもうとしたが、それはセレミアさんにさえぎられる。
なんだろう、逆らったら死ぬという生物的本能が判定を降している。
試験管がはいってくるのをみて、ちゃんと席にすわると。
セレミアさんが体を近づけてくるのを感じた。
椅子がちょっとずつ地面に擦れ、ガリガリという音をたててその音が拡大しているのを感じ、バッと横をみる。
――ドアップのセレミアさんがそこにいる。
「え、ちょっとちk「キミ、私語はつつしむように」あ、はい。いや、ちょっとちかすぎると思いま「キミ、私語はつつしむように」いや、でも「キミ!」わかりました。」
誰か注意しろよ!この光景に注意しろよ!お願いだから誰か注意してくれ!
必死になって横をみずにガリガリと答えをかき連ねる。結構簡単だ。
ズンズン進んでいき、魔法知識による項目は終了。
時間は2時間を予定されており、トイレによる退出はいつでもよいというものなので、急がなくてもいい設定だ。
魔法知識の次は歴史について、それを書き連ねていく。
横のガリガリという音と腕になにかが触れる感触がしたが俺はなにも感じてないぞ!知らないッ!知らないよ!
歴史も終了し、次は基礎薬学に対しての問題だ。
それを書き続ける、なにか柔らかい――なにも知らないッ!
心の中で男性がサンバを踊っている光景をが再生される。――なぜだろうとても落ち着く。
「(誰か助けてェェェ!)」
この試験の間、試験管に目を合わせると、ものすごい気まずそうに目をそらされ続けた。
合格したら、魔法実習とかがあって、この人が担当だったらとりあえずこの人に向けて魔法をぶっぱなそうと思った。
こうして俺の魔法学院入学試験は終了した。
口から魂がでているような気がしたと、ここで記しておこう。
この試験で合格すれば、魔法による実力審査だ――
――魔法学院教員側
今現在、丸漬けを行っている。こういうのは魔法でなんとかしてはいけない、生徒の努力を感じる場所なのだから。
そうすると、ふと、イリスの名前で手が止まる。
○、○、○――続けて言ってみる。
魔法学、そして歴史学、歴史は不得意のようだ。魔法に関しては全問正解という快挙を成し遂げている。
歴史学は勇者の物語は全問正解だが、その他は間違いがみられる。
そして――魔法薬学、ここは点数の捕れる場所だ。
だがみたとき、私は驚愕した。
あったのは、古代の魔法薬学についてのものばかりなのだった。
どれだけ傾いた勉強をしていたのだろうと思う。
だが、古代のほうとてらしあわせると全問正解という快挙。
合格最低点数を大幅に超え、私はとりあえず点数を表に書いておいた。
――三日後 side主人公――
合格通知が着ていた。
いつのまにか宿に置いてあることから、これが普通なのかもしれないと思った。
ファイに伝えると、自分のことのように喜んだ。
実施試験は明日、ファイは「お前なら大丈夫だって!」とニカッと笑う。
俺はその笑顔に救われた。
―次の日―
試験会場はただっ体育館のような場所、万にも及んだ人数が、すでに数千へと変貌している。
半分以上落とされたか、なんて思いながら俺の名前を呼ばれるのをまった。
試験は個室だった。体育館の横にあった個室。たしか魔法に対して耐性をもつ魔法がかけられているとか。
大きな個室をもって、黒いマジックミラーが左右に貼られている場所で試験管が説明を始める。
試験管がマジックミラーの向こうにいるらしい。ルビーはそう聞いてガラスをずっと不思議そうにみつめていたが、俺は気にしないことにして、言われた通りにする。
「では、なんの魔法が得意ですか?」
そういわれて、迷わず火とおしえる。だいたい可能だが、得意なのは火。
といっても、魔法は一通り使ったときには、光がしっくりときたが、だが光に対しては異常なほど強くなってしまう。
たぶん抑えきれないのだと思う。だから得意なのは火。
「では、打ちましょう。」
そういわれて、俺は魔法を構成しぶちかます。
吹っ飛ばした場所にはひびが入っているが、とくにそれ以上にひどくなっている場所はない。
耐性というものがなにかはわからないが、すごいものなんだな、と思って試験管をみると、呆然とした後ハッとしてこちらをみてくる。
「はい、これで…試験は終了です。」
はやいな、なんて思ったが、さすがに俺は喜んだ。
なぜかさっきから寒気がするのだ。
俺は逃げるように退出すると、セレミアさんがにっこりと笑顔で待っていた。
心の中で悲鳴をあげたのはいうまでもないだろう。
――無理やり終わらせようと急ピッチでかいたため、誤字がめだつかもしれません。教えてくれるとうれしいです。