第一話目『おそらくそれははじまりだった』
―前回のあらすじ―
死んだと思ったら草原にたっていた
何がおこったんだ。
誰でもいい、いきていいてくれ!
そう心の中で叫びながら俺はひたすらに走り続ける。
それが願望だ、それは理解している。
だけど俺は心の底からで叫んでいる。
こちら、武、生きている人、いますか。
「誰もいいから助けてくれ!」
それは心の中での最高の叫び。
息はきれていない、体が羽のごとく軽い。
風のような疾走。だけどそれも限界がある。
その限界に恐れながらも走り続ける。
きっと俺は、諦めない。
きっと俺は、走り続ける。
限界すら超えてみせる。
「うひゃああああああ!」
どっかのゲームで出てきそうな魔物たちが俺を追いかけてくる。
―一時間前
現実逃避しながら俺はこの現状を理解しようと務めることにした。
きている鎧、腰に挿したさやに収まる剣。
それらふたつだけでも現実逃避は容易。
それに拍車をかけてこの草原。
そう、とりあえず現状を整理してみよう。
・鎧をきて、剣をもっている。
・草原につったっている。
・俺は死んだはず
この三点が重要だ。
さて、みんなもわかったかな?俺は簡単にわかった。
そう、俺はコスプレイヤーに拉致されたのだ!(意味不明
しかし、それに臆する俺じゃない、なにか案を考え、一刻も早くここから逃げ出さなければ!
幸いにも敵は油断している、なぜならこんな草原に放置するほどのバカなのだ!
ならばどうする?俺はどうすればいい?
ガリガリと頭をかいて案をだそうと考えるが、とりあえず逃げるとしか考えつかない、それからどうすればいのだ!?
そのときだった、頭の上からパラリと髪の毛がおちている。
それを思わずひろうと、色に気づいた。『金髪』そう、金髪なのだ。
本格的だなぁ、なんて現実逃避をかまして、とりあえずさっさとこのウィッグだかカツラだかわからないやつをはずそうなんて思い立ち、引っ張ったのが関の山。
この現実逃避はバラバラに崩される。
頭皮との結合を確認。
いつ染めた!なんて考えても意味はない、さすがに気絶していようとキヅクモノダ。
俺は深呼吸をし始める。動悸が激しい。
落ち着いてきたところで手足の震えを感じる。
「これは――よくある異世界来訪系のようなものではないか!?」
やっと現実がみえてきた。異世界来訪、それは小説の中でしかないものだと思っていたが、まさかこの身に起こるとは。
現実逃避を二重にかましてやろうかと思ったが、それでは解決にならない。
もう一度深呼吸をして俺は気を付けをする。
鎧をきている、剣をもっている。という観点から俺は憑依というものを経験しているのだろう。
この体が何者かはわからない。
だが今は生きることを考えるべきだ。死んだらこの体の人にも申し訳が立たない。
荷物を後で確認するとして、今は街を探すべきだろう。
今確認しても後で確認するのと同じだ。
だががむしゃらに探してもそれは自滅していくのみ、ではどうすればいい?
「とりあえず、高いところから見渡してみるか。」
そう思いおかのうえを見上げる。なかなかの高さだ。
異世界というし、ここまでなにも手をつけられていないのをみると、文明はあまり進んでないとみる。それならば過去あったみたいに城みたいなものも建設されてしかるべきだと思う。
高いところにいけば木も邪魔にならない。
そう思って歩きだす。
その足取りは軽い、とりあえず丘の上へと走り出す。
「よっしつい…」
いきなりエンカウントした。
正直もう嫌になってくる。
いきなりのエンカウント、そして敵はみたことがない魔物っぽいもの。
もうあれだ、さすが異世界とかふざけんなよ。
そして冒頭にもどるわけだ。
すでに一時間は走っている。
それでいて疲れがみえないこの体に驚いているが、精神は疲れるものだ。
いいかげんにしてほしいと心の中で思ってるし、いいかげんにししろよといってみるものの、相手は魔物、通じるとは思わず。走り続ける。しかもこの魔物ども、増えている。おいオマエラ、鬼ごっこの横入りはやめようね、いや本当に、っていうかもう一抜けだから、お願いだから。
そのときだった。
城が見えた。
ほんっとうに救いだと思った。
全力疾走を開始し、二時間、すでに長距離マラソンをフルで走る距離は走っただろう。
門が目の前にみえ、全力疾走もさすがに疲れてきた。
さて、問題だ。
魔物の軍勢をつれた俺が城へと走っていってみる。
さて、兵士はどう思うでしょうか?
正解
「魔物の軍勢をつれて攻め込んできたぞぉ!?」
「いや、違うんです!襲われているだけなんです!」
「貴様、そうやって門を開けたところで国に攻め入るつもりだろう!?剣をもっているならば戦え!」
無茶言うな、一般ピープルな俺にどう剣をもって戦えと、目をつぶって「えーい!」なんていいながら上下に降るのが関の山だぞ。
そうやって降っている自分を考えてみる。果てしなく気持ち悪かった。
「貴様ァ、体格をみて、鎧をみれば力量があることはわかっているんだ!」
いやまてこの野郎、俺の心を読めよ、俺のチキンハートを読めよ。
心の中でパニックになって頭の中でサンバの音楽がなっている俺の心を読めよ。
向かえば三秒で敗れること間違いなしだからな?
警戒をやめない門番に、俺はもうやるしかないと剣を引き抜く。
その輝かんばかりの剣をもって、俺は構えてみる。
「(…?)」
すぐに、剣がぶれることなく構えが出来上がる。それはまるで慣れているかのように。
体が慣れているのだろうか、憑依したものはどこぞの剣士だったのだろう。
一体目が襲いかかってくるので、それを除け、回転しながら遠心力を利用し引き裂く。
それはまるで溶けかけたバターをきっているかのような感触。
そしてそこまでの動作にはいるまでの体の判断力。その二点に驚きを隠せない。
ニ体目が来る。
それを剣でおし止め、はじき飛ばしたあとに上からまっぷたつにたたッきる。
血飛沫に思わず目をつぶりそうだったのだが、反射とは裏腹に、その体は血を除ける。
「(なんだこの感覚…!っち、もうやけくそだおらぁぁ!)うおおおぉぉ!」
咆哮は獅子のごとく、突進は猪すら凌駕する。
かかってくる魔物を空中で一刀両断すると、飛び上がり、重力を利用して力を倍増させ叩き切る。
横からかかってきた魔物は再度回転し、空中で分断する。
「すげぇ…」
後ろから門番の声がする。あなたも戦ってほしいと思うのは間違いなのでしょうか?
飛び上がる魔物は振り下げた剣を振り上げ、はじき飛ばす。
振り上げた剣をさらに振り下げてかかってくる魔物を叩き切る。
横からかかってくる魔物は軽く後ろにとび、よけた瞬間に足のバネをつかって突撃する。その力をつかって引き裂き、魔物はみるみると少なくなっていき、ついにはいなくなる。
「疲れるな…。」
二時間走り続けたとしても、少々のつかれしか感じなかったこの体が大量の汗をかく、それほどまでの重労働だったのだろうか、無我夢中で剣を振っていた俺にはあまり感じなかったものだが、汗を腕で拭い、顔をふって汗をふるい落とす。
門番のほうをみてみると、こちらにやってくるのが見える。てをふってやってくるその様子には、何故助けなかったし、ということに対する憎悪を自分の中に感じた。
「お前すごいなッ!」
その暑苦しい笑みには殺意が沸いた。
――そのときだった。
『ヴォアアアアァァァッ』という獣の雄叫びを感じる。その獰猛そうな声にはさすがに冷や汗を流す。
後ろをみると、真っ黒な怪物がその存在感を振り向きながら俺を見ている。
かおをみればわかるものだ、あれは怒っている。なにかはわからない、俺が切り捨てた中に同種族でも混じっていたのだろうか、だが俺はゆっくりと剣を握った。
強く強くもつ、冷や汗を流し続けるが、逃げられはしないだろう。
「うぁ、うああああ、手配魔獣だ!し、しかもAクラスのッ!」
門番の叫びの『手配魔獣』というものに疑問をもったが、俺は剣をぐっと握ったまま、飛び出す。
「ハァアアアアアアッ!」
魔獣は雄叫びを上げながら攻撃を繰り出す。ただの殴り、ただの殴りなのだが――それは、当たれば死を意味するもの。
それを感覚で流す。かすった剣がビリビリと痛むが、それは一瞬で消える。
「亜ァッ!」
懐に入った。縦に思い切り切りつけると、キレイに引き裂いて行く。
だが、相手もよくわからないがAランクといったことに恥ずことはない強さ、飛び退いてよける。
だが切り裂きはした。
ダメージを与えられたことにちょっとホッとするもつかの間、相手は――
突撃を、はじめた。
それは異常なほどの速さ。
だが、見切れる。
飛び上がると、その頭を台にして回転しながらよける。
そして――反射的に唱えた。
「火を放て、焼き尽くせ。」
命令するかのごとく、そう言い放つ。
すると火炎の竜巻が発生する。
獣の叫び声が巻きおこる、振りほどこうとするがその炎は無限にで続ける。
そしてついに――動かなくなった。
「うぁ――ハァッハァッ」
緊張のとけたことにより、息を吸っていなかったことに気づき、息を吸い始める。
立ち上がると、俺の手を握るものがいた。
みると――門番がキラキラとした気色の悪い目で俺をみているのをみた。
嫌な予感しかしない。
「すげぇ、すげぇよ!」
歓喜するそのおっさんは、俺の手をブンブンとふる。
「手配魔獣、しかもAランク、そしてあの魔法!あれほどの魔法、国一番の魔術師くらいしかつかえねぇ!」
そう歓喜するおっさんに、俺は肩をがっしりとつかむ。
「――と、とりあえず説明してほしいことがある。」
「なんだぁ?教えてほしいことがあるなら教えてやろう!お前さんほどの剣士はじめてだ!」
「とりあえず、この世界について」
「――は?」
素っ頓狂な声をあげて、門番は俺をみている。
俺はワラにもすがるような思いで、門番へと質問を始めた。
クッ、話の入り方も終わりかたもわからない…!