第十四話目『勇者』
―イリス
「で、あるからして――魔法という構成の――」
魔法学の授業中、ガリガリと書き込み続けていると外が騒がしいことに気づく。
「黒い鎧たちの魔力?」
「――はい、感じます。」
近い――いや、遠い?
距離がわからないために人数がわからない、遠ければかすかしか感じないし、近ければ弱ければそれもかすかしか感じない。
――考えるに20人くらいだ。『目の前にいれば』
そう考え、人数の多さに気づいた。
バッと立ち上がる。
「――むー、君は、イリスくんだったな、どうしたのかね?」
「イリス様、どうかなさいまして?」
「…来た。」
―sideセレミア
イリス様が突然立ち上がる。
魔法の授業は一際努力するイリス様が、先生が不思議そうに彼をみるが、彼は何も言わない。
「イリス様、どうかなさいまして?」
ためしに聞いてみたところ、たいへん険しい顔をしながら、イリス様はいった。
「…来た。」
来た?来たとは――
『緊急事態発生です。生徒は直ちに非難を…!』
――!?
――side イリス
場が騒然となる。先ほどの緊急事態警報、なにか――
「君!なにかね!門番が入ってきていいところだと――」
「ファイさんがっファイさんが危ないんだ!」
――ファイが危ないだって!?
驚きながらすぐにそちらに顔を向ける。
「ファイがどうしたんだ!?」
「あ、あぁ!一人で向かって言って…」
それを聞いただけで十分だった。俺はポケットの中にいるルビーに声をかける。
「ルビー!」
「はい!」
その一言でルビーはひょっこりでてきて、空間の魔法を構成、展開し、鎧が出てくる。
それをまとって、俺は窓から飛び出し、魔法を構成、風の魔法で、吹き飛ばす。
「うぉおおおおおおおお!ファアァアアアアアアイ!」
剣を引き抜き、杖を掴み、魔法を構成し続けて――見えたッ!
魔法を構成、遠くの光景をみる。――ファイが危険なことがわかった。
――どうする?
魔法では、あれほどのファイの周りにいる大群を倒せるわけがない。
ならば――
「賭けるしかないってことだなッ!ルビー!」
「はい!」
すぅっと息を吸い、――吐く。
剣が振り下ろされた。
心を焦らせるな。
逆境を――味方につけろ。
「共鳴せよ。」
なにか、いつもと感覚が違った。
混ざる感覚――この剣と、自分が。
『水の剣は圧力の剣、単体では強くはない、ですが水とは最も弱く最も強い――それは外部の力というものと受けやすいから――ならば水とは使うものの力――』
なにか、声が聞こえたような気がする。
――まざれ、まざれ――そして、力を…注ぎ込めッ!!
思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ
『アイツ』の剣を
ゴウゴウと鳴り響く水の剣を
―sideセレミア
シィンという音が聞こえた気がした。
みんながイリス様が飛び出して行った窓をみていた。
歴戦の勇士を思わせる鎧、そしてあの剣――聞いたことがあるような、見たことがあるような。
――イリス様、あなたは…
「勇者…」
先生がポツリと声にだした。
それにより、カチリとピースが当てはまる。
「勇者…?」
ありえない、でも――なぜか納得してしまう。
どうして…?
なぜ…?
――sideイリス
―ファイが諦めたような顔をした。
「ごめん、シーナァ…」
その言葉がかすかに聞こえた。
それを聞いた瞬間、思わず、叫んだ。
「終わらないよな?ファァァァァァイ!」
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ――
ビリビリと響きわたる水の剣の一撃と、自身の声に驚いた。
――全くファイの奴、結婚しているのに死ぬなんてねぇよ。
俺なんて、結婚もしてないのに、告白する日に死んじまったんだからな。
「こらイリス!当たったらどうするつもりだったんだ!?」
ファイの声にニヤリと笑い、すぐに顔をかえて
ぶっつけ本番で成功したんだからいいじゃないか!」
そういって、笑った。