試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました
「神聖な試験でカンニングを行うとは見損なったぞ!!」
私はカンニングなんかしていない。
だけど高位貴族の子息が言う言葉に、平民の身分である私では止められない。
周囲も疑惑と同情の目を向けている。
ああ、こんなことなら、あの時、彼の妹に声をかけるんじゃなかった。
1か月ほど前。
私エリカは、プラチナ帝国の魔法学園の校舎を歩いていた。ちょうど、貴族棟と平民棟の間にある渡り廊下だ。
そこで、うずくまっている女子生徒がいたのだ。
辛そうだったので思わず声をかけると、
「うう、急に、おなかの調子が悪くて・・・・」
顔色も悪い。
私はあわてて保健室へ連れて行った。
彼女はある高位貴族の令嬢で、大変感謝された。
そこから妙に懐かれ、機会があるたびに声をかけられるようになったのだ。
その縁で、彼女の兄、高位貴族の子息とも良く会話をするようになったが、周囲の貴族令嬢は平民で地味な私が人目を引く彼女のお兄さんと私が一緒にいること自体許せないみたいだった。
正直、面倒に巻き込まれたと思う。
私はいまでは平民だけど、元は亡国の貴族令嬢だ。
国が滅んで、その宗主国であるプラチナ帝国に逃げてきた。
だから、色恋にうつつを抜かしている隙間はいっさいない。
しかし周囲はそう見なかった。
それに私が助けた高位貴族令嬢も・・・・
「また、やっかいごとに首を突っ込んじゃったわね」
呆れたように言うのは、おなじく亡国の貴族令嬢で、私の妹分のリナリア。
血のつながりは無いが滅びゆく国から命からがら脱出し、2人手に手を取り合ってなんとか逃げ延びてきたのだ。
「そんなつもりはないのだけど。それに困っている人を助けないのは貴族の矜持にかかわるわ。・・・・もう貴族じゃないけどね」
そんな私をリナリアを困った顔で眺める。
今の私の目標は、1か月後に卒業したあと、この中央平原三強の一角であるプラチナ帝国の皇太子宮で文官試験に受かり、採用されること。
できれば上位の成績で受かりたい。
後ろ盾もない平民の小娘である私にはそれしかないのだ。
妹分のリナリアも同じく文官試験を受ける予定。
でもこの子、私と違って華美な容姿をしているし、頭もいい。
ついでに要領もいいのよねえ。
だけど事あるごとに私を遊びに誘う。
ついでに兄までついてくる。
時には、おしゃれカフェへ。
時には、観劇にも誘われる。
そして、
「あれ?今日はお一人ですか」
妹さんからのお誘いのはずだったのに、その日は妹さんはおらず、兄の高位貴族の子息だけがいた。
「そうだよ。妹にお願いして、今日は僕と君のデートをしたいんだ」
それからは、たびたびデートをするようになった。
彼が私に好意をもってくれるのは鈍い私でもわかった。
でも、
「私は平民よ。あなたとはこれ以上、付き合えないわ」
「そんなことを言わないで。僕はエリカ、君を愛している。このプラチナ帝国は身分差にそこまでうるさくない。それに家族も君のことを気に入っている」
「できたら、卒業後、僕と・・・・」
その晩は、柄にもなく浮かれてしまった。
同じ部屋にいるリナリアは、にまにました表情で、
「あれえ~。いつもだったら机に向かっているエリカ姉さまが今日はずっと上機嫌ねえ。デートで良いことあったのかな~」
とからかわれる始末だ。
ところが急展開を迎えた。
ある時を境に、高位貴族の子息はそっけなくなっていったのだ。
最初は試験も近いし、気のせいかと思っていたのだが。
だけど、浮かれてはいられない。
大事な大事な卒業試験。
子息の態度に一抹の不安はあったが、私はその分を試験勉強に注ぎ込んだ。
そして、魔法学園の卒業試験が終わり、結果発表の日。
学園の大広間で結果が張り出される。
一位
エリカ
努力が報われた瞬間だった。
その時だった。
大きな声で私を断罪する声があがった。
その声は私に好意をよせてくれたあの貴族の子息のもの。
「教官殿に申し上げます!彼女、平民のエリカは試験で不正を行いました。これは決して許されることではありません!!」
「神聖な試験でカンニングを行うとは見損なったぞ!!」
周囲の生徒は私を見る。
その視線は疑惑と同情が混じっていた。
声のするほうに目を向けると、子息の隣には挑発的な目を向ける一人の貴族令嬢が立っていた。
教官の一人が私に近づいてきて、
「本当か?」
「そんなこと・・・・してません」
「嘘よ!その平民は嘘をついているわ」
彼の隣にいる貴族令嬢が鋭い声を出す。
彼も冷たい目で私を見る。
「平民が不正とはな」
胸が少しだけ痛む。
・・・・少しだけ、期待していたからだ。
「言い訳はあるか?」
私は一瞬だけ考え、そして首を振った。
「ありません」
その時だった。
「違います!」
かつて私が助けた令嬢が声をあげた。
「エリカさんはそんなことしません!全てエリカさんの力です。それに辛くて動けなかった私を助けてくれたのもエリカさんだけ。そんな彼女が不正をするはずありません!!」
「口を出すな!」
「でも!お兄様、その人に騙されているわ」
彼女は必死だった。
その横で、私は静かに口を開いた。
「もういいです。不正行為はしていません。ですが、私の成績は除外してもらって結構です」
平民の身分の私が一位をとることは他の貴族子女にも許しがたいことなのだろう。
私が事態の収拾のために申し出た提案はあっさり受け入れられた。
卒業試験は別室で受けたことにされ、順位は出されないことになったのだ。
いいんだ。
あのままでも平民の私には不利なまま。
他の貴族の反感もあっただろう。
いいんだ。
卒業試験はしょせん、卒業試験、私には帝国文官試験がある・・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お兄様、エリカ様、あの帝国文官試験に受かったそうよ」
帝国文官試験、貴族でもなかなか受からない文官のエリート試験だ。
毎年わずかしか受からないと聞いている。
「あの女、文官試験でも不正をしたにちがいありませんわ!!」
お兄様をおかしくした意地悪い令嬢がとなりで叫ぶ。
「そ、そうだな。きっと不正をしたんだ」
「文官試験で不正をしたら、厳罰よ!きっと断罪されるわ」
国の管理下で行われる試験で不正をしたならそうなるだろう。
「そんなことをするわけないじゃありませんか!!実力ですよ!!あの卒業試験だって本当は一位だったんですから」
そう、厳正な帝国文官試験で不正ができるはずがない。
文官試験に受かったのはまぎれもなく彼女の実力だったのだ。
それがわかっているから、2人は大人しかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は文官試験の合格通知を手にしていた。
それも首席合格・・・・・
この春からは皇太子宮で働くことになる。
そこへ、あの貴族子息が妹さんを連れてやってきた。
申し訳なさそうな表情で
「・・・・すまなかった。あの、女とは手を切った。なんの証拠も無いのに一方的に君の悪口を言っていたあの女を、だから・・・・」
それを信じたのはあなたです。
私は少しだけ彼を見る。
ほんの少しだけ好意を持っていた人。
でも。
もう胸は痛まなかった。
「気にしていません」
私は穏やかに言う。
「あなたを信じた私が、少し恥ずかしいだけです」
国が滅んだ日を思い出す。
あの日も、こんなふうに理不尽が飛び交っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
後日。
聞いたところによると、彼は、成績トップの私を確かめもせず捨てたことで当主の資格なしと判断され、妹が当主教育を受けることになったという。
そして私は、この春から皇太子宮で文官として働き始めたのだ。
隣には、ちゃっかり文官試験にうかっているリナリアがいた。
「エリカ姉様」
「書類が山になっているわよ」
私はため息をついた。
「また、他の文官たちはサボっているのね」
こうして今日も、皇太子宮の仕事は終わらない。
エリカさん、リナリアさんは、現在、公開中のシリーズ第三作目「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です3」中のメインエピソード「2人の文官」でその後の活躍が見れます。
是非、ご一読ください。




