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【完結】死ぬまでに叶えたい十の願い  作者: 木風


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8/10

第八話

三月になった。


エリアーナの体は、いよいよ限界に近づいていた。

一日の大半を寝台の上で過ごし、食事もほとんど取れず、胸の痛みは絶えず、息をするのが辛い日が増えた。


それでもエリアーナは穏やかだった。

侍女が涙をこらえながら世話をする傍らで、エリアーナは柔らかく微笑む。


「泣かないで。私は今まで、こんなに穏やかな気持ちで生きたことはなかったかもしれない」

「奥様……」

「殿下に伝えてもらえる?最後の願いを、叶えてほしいと」


その日の夕方、エドヴァルトが来るのをエリアーナは寝台に起き上がり待っていた。

ランプの光の中で、彼女の顔は蒼白だったが、目だけが変わらず静かに輝いていた。


エドヴァルトは部屋に入り、寝台の傍の椅子に腰を下ろす。

かつては廊下から短い言葉を交わして去っていた人が、今はこうして傍に座っている。


三年間で変わったもの、変わらないもの、そのどちらも今夜この部屋にあった。


「最後の願いを」

「なんだ?いってみろ」

「はい。それは……」


エドヴァルトは長い間、エリアーナを見つめていた。


「嫌いだと、言ってください。そうすれば私は安心して逝けます」


エドヴァルトはしばらく沈黙していた。

夕陽が最後の光を放ち、地平線の向こうに沈んでいくと、部屋が急速に暗くなっていく。


「言えない」

「なぜですか」

「なぜかわかるだろう」

「わかりません。だから訊いています」


エドヴァルトは視線を落とし、大きな手が膝の上で握られた。


「私は三年間、お前を誤解していた。お前が何も言わず、笑顔でいる間も、お前が何かを我慢しているとは思わなかった。お前が夢を持っているとは思わなかった。お前が……こんなにも、穏やかで強い人間だとは」

「殿下——」

「お前が死ぬまでの間、共に過ごして、初めてわかった。お前がどんな人間であるかを」


エドヴァルトの声が低くなる。


「嫌いだとは言えない。それが答えだ」

「では……お好きなのですか」

「好きか嫌いかで言えば」


沈黙が降りた。ランプの炎が揺れた。


「好きだ」


その言葉は、静かに、しかし確かにエリアーナの胸に届いた。


「……三年間遅れましたね」

「そうだ」


エドヴァルトはようやく顔を上げた。

その目は、エリアーナには初めて見る光を帯びていた。


「遅すぎた。だからこそ、今この言葉に意味があるかどうか、わからない」

「意味があります。ちゃんと届きました」


エドヴァルトの手が動き、エリアーナの手を両手で包んだ。


「なぜ最後の願いが、嫌いだと言ってほしいというものだったんだ」

「殿下を楽にしてあげたかったのです。嫌いだと言ってしまえば、私が死んでも引きずらずに済むかと思って」

「……馬鹿な話だ」

「ふふ。そうかもしれません」

「嫌いでも何でもない」


エドヴァルトの声が揺れた。


「むしろその逆だ。お前を……」


その先が続かない。

どうして本当の気持ちを言えるだろう。


セラフィーナを正妃にできず、側妃に留めおいた。

そのうえで、政略結婚としてエリアーナと結婚した。


初めて会ったエリアーナを見たときに、あまりの美しさに目が眩んだこと。

それを認めることは、セラフィーナへの明確な裏切りに他ならない。


それでも結婚し、違和感を感じながらも、セラフィーナの言うことを鵜吞みにして、エリアーナを避け続けた。

近付いてしまったら、きっと惹かれてしまう。


それは自らの愛が不誠実である証明であることを、エドヴァルトはわかっていたのだ。


エリアーナはエドヴァルトの手の温かさを感じながら、穏やかに笑った。


「知っています。私も、殿下のことが嫌いではありません。随分と好きになってしまいました。だから、もっと早く話しかけていただければよかったと、少しだけ思います」

「ああ。そうだ、そうだった。……謝ることも間に合わなかった」

「今、謝ってくださいました。それで十分です」

「十分ではない」


エリアーナは少し咳をすると、エドヴァルトの手が強くなった。


「どうか。最後の願いを、叶えてください」

「叶えられない。嫌いではないのに嘘はつけない」

「では、言えないことを最後の願いにしましょう」

「どういう意味だ」

「言えないということ自体が、私への答えです。殿下が言えないと言ってくださった。それが最後の願いの答えです。ありがとうございます」


エドヴァルトはエリアーナの手を握りしめた。


「逝かせたくない」

「私もできれば逝きたくありません。でも、呪いは解けませんでした」

「解く方法を探す。まだ時間が——」

「殿下。一つだけ、お願いできますか。正式な願いではなく、本当に最後のお願いを」

「何だ」

「……私が逝った後でも、幸せでいてください」


エドヴァルトは何も言えなかった。

エリアーナは手を握り返した。

その夜、エリアーナは深く眠りについたその時、部屋の中の時間が止まった。


それは、エドヴァルトの答えを聞いた彼女自身の選択。

命を留める魔法ではなく、彼女自身の『時間』を差し出して抗う術だった。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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