第六話
流星群の夜から数日後のこと。
エリアーナの侍女が、慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「奥様、大変なことがわかりました」
エリアーナは顔を上げた。
「側妃様のことです。呪術師様が、さらに詳しく呪いの経緯を調べてくださって……」
侍女が持ってきた話は、こうだった。
セラフィーナが三年間にわたって、エドヴァルトに嘘をついていた。
その内容は複数あったが、中心にあったのはエリアーナについてのものがほとんど。
セラフィーナはエドヴァルトに、エリアーナが政略結婚を利用して王家の財産を故郷に流そうとしていると告げた。
エリアーナが貴族たちと秘密裏に会合を持ち、エドヴァルトを廃して自分が実権を握ろうとしていると囁き、エリアーナが側仕えを使って、王宮の機密情報を外部に漏らしているとも言った。
どれも事実ではない。
しかしセラフィーナは巧みな証拠の偽造と、信頼できる人物を装った証言を組み合わせて、エドヴァルトに信じ込ませていたのだ。
エドヴァルトがエリアーナを遠ざけていた理由の、少なくとも半分はそこにあった。
セラフィーナへの愛情と、エリアーナへの警戒心。その両方を、セラフィーナは意図的に作り出していたのだ。
セラフィーナは他の貴族に対しても同様の謀略を仕掛け、彼女は自分の地位を守るために、三年間かけて王宮の人間関係を操っていた。
報告はエドヴァルトにも届く。
エリアーナがそれを知ったのは、翌日の夕方のこと。
エドヴァルトが部屋を訪ねてきて、扉の前に立ったまま言った。
「セラフィーナの件について、詳しく調べた結果が出た」
「聞いております」
「……お前に、謝罪しなければならないことがある」
エリアーナは静かにエドヴァルトを見ると、その表情は複雑だった。
いつもの険しさの下に、見たことのない表情。
それが何なのか、エリアーナにはすぐにはわからない。
「三年間、お前を誤解していた。正確には……セラフィーナの言葉を信じ、お前への疑惑を持っていた」
「はい」
「それは間違いだった」
エリアーナはゆっくり息を吸って吐く。
「なぜ私から離れようとなさったのか、わかりました」
「お前は……怒っていないのか」
「怒っていないといえば嘘になります」
エリアーナは正直に話し始める。
「三年間、もう少し話しかけてくだされば、何か変わっていたかもしれないとは思います。でも、今更それを言っても仕方がありません。殿下も騙されていたのですから」
「それで済む話ではない」
「そうかもしれません。しかし私は残り一年も満たない命ですし、怒りに費やす時間がもったいないとも思っています」
「……お前は強い女だ」
「強くはありません。私には時間が残されていませんから」
エドヴァルトの目が揺れた。
「ただ、もともとが諦めのよい性格なのかもしれません。それが良いことかどうかは、わかりませんが」
エドヴァルトはしばらく黙り、それから前より低い声で言った。
「残りの願いを、急いで叶えよう」
「急いで、とは?」
「体の具合が悪化する前に」
それだけ言って、エドヴァルトは立ち去ろうとした。
「殿下。……セラフィーナ様のことを、どう思ってらっしゃいますか」
長い沈黙の後、エドヴァルトは言った。
「わからない」
「そうですか」
「お前は?セラフィーナを恨んでいるか」
「命を縮められたことは、確かに悔しいです。でも彼女も、それだけ必死だったのでしょう。愛した人を失いたくなかったのだと思います。その気持ちは……わかる気がします」
エドヴァルトは答えなかった。ただ、エリアーナをまっすぐ見た。
エリアーナはその視線の中に、初めて何かを見た気がしたけれど、それが何であるかは、まだわからない。
ただ、何かが確実に変わり始めているという、静かな確信があった。
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