"Not the Showstopper"後編
賑やかなステージのざわめきと明かりに背を向け、シャワールームまでの廊下を歩いて居る
ステージは『成功と言えば成功』だし、失敗といえば失敗
そのくらいの感じだった
現実には『結果』と呼ばれる物の大半は、こうしたものなのかも知れない
足が
………いや、全身が、ステージを終えたこの身には余りにも重く、シャワーまでの道程は、これまでの人生よりも長いのではないかとすら思えた
頭の中では、終わりの無い反省会が始まって居た
例えば、手品の後に行ったナイフジャグリング
玉乗りも行いつつではあったが、あれは適切だったろうか
良かった点を挙げるなら、投げながら段々と手を交差させていく部分が、この体調でも出来た事はとても良かった
だが、悪かった点もそこに直結して居て、予定通りの演技にこだわる余り、基底状態となる三つのナイフを繰り返し投げ続けたままの姿勢で、無意味な『間』を発生させてしまった
意識が薄れて手元が怪しかったため、なかなか複雑な技に踏み切る『タイミング』に突入出来なかったのだ
あの場面だけでも、他に反省したい部分は相当数存在した
そもそもにして、あの程度の技が可能な同業者が、面識が有る人間だけでも三十人以上は居たからだ
いずれは、より見栄えする高度な技を挟むか、演出を考えて差別化を行う必要があるのかも知れない
頭を、何か硬いものに打ち付けた
気が付けば既に廊下は終わり、僕は目的の場所に辿り着いて居たようだった
脱衣場でインナーを脱ぎ捨てる
予期せず全身から瘡蓋が剥がれ、僕は少しだけ呻いた
構わずにシャワールームに入り、熱くした湯を全身に浴びる
躰に触れた水滴の数だけ、刺すような痛みが降り掛かった
まだ、傷口は視て居ない
ここに来るまでの間、努めて視ないようにして居た
『自分を怖気づかせないため』だ
雨のように降る痛みの中、後悔が襲い掛かった
怪我が原因で、今後の道が閉ざされたりするだろうか
ばかりか、今夜眼を閉じたら、僕はもう眼覚めないのではないだろうか
石鹸を両手の間で泡立てて、結局、僕はそれを直ぐに洗い流した
とても躰を洗うような気分にはなれなかったし、躰にタオルを当てるのも嫌だと感じた
シャワールームを出る
自分を落ち着かせるように深い呼吸をしながら、あてがう様にタオルを皮膚に重ねて、どうにかして水分を拭き取る
汗をかき過ぎたので何か飲みたかったが、公演の一番最後、ガソリンを口に含んで火を吹く場面で、喉を軽く火傷してしまって居る
今は唾を飲み込むだけでも、ちくちくと痛みが有った
本日の寝床は、シャワールームの隣室だ
そのお陰もあってか、気絶せずにどうにかベッドまで到着する事が出来た
死ぬみたいに布団に入り、仰向けになると眼を閉じる
歓声
笑顔
自分と眼が合った観客席の子供の、驚いたようなきらきらした瞳
「楽しかったなあ…………」
けほけほ、と咳が出る
『もっと沢山、こうした瞬間を感じたい』と思った




