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9件目 儀式魔術

なんとか書けた

時間稼ぎと聞いて、火野君は少し耳を傾ける気になったようだ。

チクタクマンの方もこれ以上は無理だと判断したのだろうか、大人しく聞いている。

「儀式魔術っていってね、この場所で何かの逸話の再現をしようとしているわけだよ、馬鹿みたいに難しい分、それが出来ればとんでもない魔術を行使できたり、ほとんど魔法といっていい魔術具を得られたりする。もしくは神を顕現させたり」

「最初は巫女個体がいるってんだから神の顕現、そして顕現させた神の力で一気に橋を架ける算段だと思ってたんだけど関連する神は一つしか思い浮かばん。だがその唯一の神様はお前らの呼びかけに絶対に応じないことは周知の事実のはずだ。だとすれば答えは1つだろう、実際は儀式魔術でこじ開ける算段なんだろ?」

答え合わせは奴の顔を見れば十分だろう。


「さてチクタクマン、お前はここでこう思ったろ。

『時間稼ぎを見抜いたのになぜこんな長話をするのか。何を考えているのか』

簡単なことさ。そう、今のお前と同じ

時間稼ぎだよ」


高密度の魔力の集中している点、玉座の後ろに佇む光球に魔力のパスを繋いでおいた、俺の属性と相性がいいのでやすやすとできる。

チクタクマンは断ち切ろうとする、無駄だ、ついさっきの戦いの最中もチャージを急がしていたようだがその間に頑張って結び付けていたのだから相当強固になっている。


「クソッもういい!」

こちらの魔力のパスを断ち切るのを止めた、諦めたのかと考えたがこういうのを切るのにはもう1つの手立てがあるのを思い出す。

「条件は満たしたからな、儀式魔術で皆殺しにしてやる!」

魔力の変質は絵の具を溶かしたヒッセンのようにあっという間だった、こちらもパスから入る魔力を絶ったが一部は入ってくる、熱湯を入れられたような痛みだ。

魔力も(味は変わらないが)性質が変わればまともには取り入れられない、血液パックの血液がいきなり変わるのと同じで凝固しかねない。崩されるにしても()()()を使えるぐらいには取れたからいい。あっちがその気ならこっちもやってやろう。

戸神に他の奴らを全力で逃がすように伝える。

ほいほい、こっちだぞこっちだぞといった具合に煽りながら照準をこちらに向けさせる。

「くそっ放せ!あいつとはまだ決着が」

火野君は抵抗していたのでまだ残っていたので、これもよろしく。といって投げ飛ばした。


「このあたりで良いか」

最初に通ってきた穴を通り地獄まで戻ってきた。皆もう脱出したころだろう。

戻ってきたといっても直下で来たから土を踏むのは初めてになるのだろうか。硫黄の混じった土を踏むとジャリジャリと潰れ砕ける、これもわざわざ調達したのかとも邪推するがそれどころではない。

水瀬は箱を取り出す、片手でずっと持っていたそれなりにシックな木箱を開くと、左側には着替えが入っていて右側にはコンテンダーに扱える弾丸や魔弾をマガジンを一杯に詰め込んでいる。


しかし魔弾の替えを取り出すわけでもなく着替えを1つ鷲掴みにすると、ポイッと取り出しそこらに投げ捨てた、無論服は燃えて炭に、そして灰、すぐさま塵になるが風にも消えれずに留まり続けている。

中身を空にしたところ現れた魔術陣に手をかざすと取っ手が現れる。

「よし、後はあれをこうして」

取っ手を引くともう一段がその全貌を現れる。

木箱、工芸品のように装飾のされた木箱が大量に入っている。


水瀬には魔弾という二つ名があるが、魔があるなら聖があるように聖弾というものが彼にはある。しかし魔弾しか有名にならないのはこれは調節ができない上、発動条件が儀式魔術並みに多いからだ。

だがここは地獄、罪の温床。聖なる御業をいくらでも打てることだろう、まあこの状態だと一発が限度だろうが。

「これが最適だな」

木箱を開けると欠けた箇所があったり、紋様を隅の隅まで緻密に描いた極めて魔術的な意匠に凝った銃弾がある、たった一発の為に使うのには躊躇われるほどの貴重なものだ。

描かれた紋様には雨が降り注ぎ、家が燃え、人が叫ぶ様子が映し出されている。

コンテンダーに聖弾を詰める。

使わなくていいなら使いたくはない、だが使わなかったら時間切れで終わりだ。ため息交じりの「しかたない」という諦めともとれる声で結論を出した。


「ダアトから神代回帰(エルダー)を起動」そう言って苦しそうに胸より少し上を押さえつけるように掴む。

「初めに意味が在り。次に意義は在り。最後に義務が在る」

始めに変化があったのは髪、次に目だ。白髪の割合が増え、目と同様に白無垢のような純白に染まる。

神の衣を降ろす表層契約や深層契約とは少し毛色が違う、自らの根源にある神性を引き出し回帰させている。しかし神性を降ろすことは人間性の希薄化に他ならず、感情は抜け落ち、笑みは失せた。

(ただ)し、(ただ)し、(ただ)す。我、主の威光を知らしめる車輪。父の文と、子の血と、聖霊の光。三位を持って一体を成し、10の戒とを持ち、7つの罪を打ち砕く」


「我、再現す、絶対なる言葉をもって速やかに告げる。振り返らず、真っすぐに。硫黄と鉄の雨を望まぬなら、塩の柱を望まぬならば、あなたが十にも満たぬ善き人ならば、真っすぐに、興味に髪を惹かれぬように」

宣告、逃げ出せという最終通告、逸話の最大限の再現の為の。決して優しさなどではなく、機能としての役割を果たすための行いに過ぎない。無駄のない動きでその銃を構え、時を待つ。


「クソッ、どおりで天国の部分が機能しないわけだ!」

本来はもっと完成された状態で儀式魔術を放つ、地下に撃つことで幻夢郷の境界を完全に破壊つもりであった、だが幾度となく異常が発生し続けた。

だが

「アレは反則だ、何が弱い種族だ、人間はなんとおぞましい邪悪な所業に手を染めたというのだ!我が父すら手を貸さなかったはずだ、あんなもの、あんなもの!造り上げてしまうか、人間!」

魔力はまだ残っている、撃つことは出来る。そう思いチクタクマンは最後の詠唱に取りかかる。


「幾千の裁き、幾千の贖い、幾千の救い、百の篇に纏め、喜劇をここに。

星動かすは至高なる光(コメディア)!」


「審判は下る、汝、罪を受け入れよ 

病みし街への裁き(ソドムズ・フレア)

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