第59話
「わぁ……綺麗……」
千鶴が見つけた結婚式場は綺麗な保存状態で、使う予定があったのかモデル展示なのか装飾も施されている。全体的に神殿のようなデザインで光が差し込む窓が多くとても明るい。
「式場ってこんなになってんだ。初めて来る」
千鶴は壁から天井、そして壁へと視線を這わせていた。
「挙式の際はここの主人公になれるの、素敵ですわね」
磨かれたクォーツタイルで足音を愉快に鳴らす。
「お、ここっぽいね」
やってきたのは式場併設のブライダルサロン。館内図でここを見つけたときは、今までの不幸の埋め合わせがやってきたと思った。社交として結婚式に参列したことが多々あるが、ウェディングドレスはサロンから借りることが多いらしい。つまりこの場所はご丁寧に結婚式場とドレスがセットで残っているのだ。
千鶴のピッキングでサロンの扉と倉庫を開ける。ライトで照らすと純白のドレスがずらりと並び、花嫁の到来を今か今かと待っているようだ。
「すごいですよ千鶴!」
「すげー」
一着一着照らしてデザインを確認する。これも素敵。あっちも素敵。電気が点かないから一目で見れないのがもどかしい。
「これとか綺麗ですわ。レースで縁取られてて可愛いです!」
「おー良いんじゃない」
「あなた、なんだかノリ悪くないですかー?」
千鶴は心から良いと思っているのだろうがどこか他人事って感じがする。
「ユヅっちが一番気に入ったやつが一番似合うでしょ」
「なにを言ってますの、あなたも着ますのよ」
「えぇ! 私も?」
そんな驚愕! みたいな顔されても困る。
「当然でしょう。まさかそのジャージみたいなので結婚式に?」
「でも私ってドレスって柄じゃないし……」
「だから似合うものをちゃんと見定めるのです!」
とりあえず千鶴の体型と好みを基準に片っ端から見繕う。他の客はおろか店員もいないので見放題、試着し放題、千鶴を着せ替え人形のようにあれこれ合わせてみる。
「漆黒のゴシックドレスとかがいいなぁ」
「残念ながらそれはありません。これとか良さそうですわよ」
それは前方から見ると膝上のミニ丈だが後方は裾が下りてフィッシュテールになっている。オフショルの肩周りで可憐さを出しつつも、ミニ丈で健康的な太ももが強調されて千鶴のエネルギッシュな瑞々しさがアピールできる。
「あなたは脚見えしたほうが活発なイメージと合っています」
「ほぉ〜イイね。わ、かわいい……」
鏡に向かって腰を捻るとひらりふわりとレースの花が咲く。始めの遠慮はどこへやら腕もそれっぽいポーズをつけたりして、いたく気に入っているようだ。
いけません……かわいらしい……。好き。
なんだろうか。
千鶴を好きと実感してから、彼女への愛がこんこんと湧き出していてすぐに胸がいっぱいになる。
「めっちゃいいわ! これにする!」
「わたくしも同感です。まるであなたのためのようなドレスですわ。最後にこれ」
「ほほ〜う!」
白銀のティアラとベールを乗せてあげて千鶴のコーデは完成した。
わたくしの花嫁。この世で最も美しい。抱き締めたい。
「ユヅっちはどれにするの?」
「わたくしはもう決めてあります」
千鶴にお似合いのものを探すのと並行して、自分用も選んでいた。
それはプリンセスライン、裾に向かってボリュームが増していく王道テイストのウエディングドレス。わたくしが夢に描いていた憧れのシルエットだ。
初めてのウエディングドレスに手こずり、千鶴に手伝ってもらいながら、丁寧に着ていく。
「超セクシーで映え映えじゃん。なんか個体としての格の差感じるわ」
ハートカットの胸元と肩甲骨までざっくり開いた背中に千鶴はぽつりと呟いた。
「わたくしはあなたのチャーミングなところが羨ましいですわ。それにあなたが羨むこの身は……あなたのものになるのです」
千鶴の口元に顔を近づけてタッチするようなバードキッスを注ぐ。
「ちょ、早いって〜それは今から式場でするんじゃないの!」
「だから軽めにしてみました。本番はもっと、ね?」
「ああッ! 私のお嫁さんがかわい過ぎる! 式も初夜も待ちきれない!」
「隕石のせいで残念ながら初夜は訪れないかも……」
「ちょっと隕石押し出してくるわ、待ってて。たかが石ころ一つ!」
最後の仕上げ、頭飾りは大輪の百合の花を模したヘッドドレスとレースを付けて私たちのコーデは完璧に整った。時計を確かめるとドレス選びから着付けとメイクとで既に三時間が経過していた。
サロンを出て式場に向かうわたくしたちの足取りは軽い。
「てか待って、重要なことに気づいた」
「どうしました?」
「指輪」
「あ」
思わず口が開いてしまった。
欠かすことができない結婚指輪が無いではないか。指輪が無ければドレスと式場があっても締まらない。
「うーん」
たまたまドレスはサロンにあったけれど、都合よく指輪は……。
「あった」
「ありますわね」
あるではないか。
それはジュエリーの宣伝展示だった。ガラスケースの周囲にはライトがあり、いかにこだわって作られているかが長文で認められている。
ケースの中にはちょうど指輪が二つ入っていた。
わたくしは千鶴と顔を見合わせて、ニッと笑った。なんだか千鶴の象徴的な笑顔がわたくしにも移った気がする。
「考えることは一緒か」
「悲しむ人はいませんし」
隅に置いてあった金属製のガイドポールを見つけると、それを二人で掴む。
「初めての共同作業、ってやつ?」
「ケーキ入刀? 披露宴にしては順番が前後しますが」
黄金色のポールを高く持ち上げてタイミングを図る。流石にこれは大泥棒だなぁという実感がありつつ、千鶴との大事な儀式みたいでかなりドキドキする。
視線を合わせて頷く。
「「せーのっ!」」




