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第31話

 昨日浴び損ねたシャワーを浴びて、ダイニングに帰ってくると千鶴が晩酌の片付けをしていた。

 

 げ……。

 

 敷居を跨ぐのに躊躇するがやらせっぱなしも気が引ける……。次の行動を迷っていると、言葉を交わす前に目線が交わった。

 

「おはよ」

「お、おはようございます」

「コーヒー飲む?」

「……いただきます」

 

 てきぱきと二人分のカップにコーヒーを注ぎ、テーブルに持ってきてくれる。わたくしはただ座っているだけになってしまった。

 

「さて今日はどうする?」

「今日……そうですわね……」

「……」

 

 まさかノータッチでいきますの⁉︎

 

 お叱りとか心配とかなにかしらは言われると予想していたが、結果は平然。まさかの平然だ。もしかしたらこれはわたくしから謝罪するべきなのか。

 

 気まずい…………!

 

 先生に叱責された後、どうしても話さなきゃいけない用事があるときの気まずさに似ている。

 

 このわたくしが気圧されている⁉︎ そんなまさか! わたくしは夕鶴羽! 澄凰は捨てども高潔さは捨ててはいません!

 

 酒癖の悪さが元凶なので高潔もへったくれもないが、それは棚に上げといて意を決する。

 

「ち——」

「コーヒーうま。おかわりしよ」

 

 わたくしの覚悟も虚しく、千鶴はキッチンにとことことお湯を沸かしに行ってしまうのだった。

 

 なんという間の悪さ!

 

 ここで諦めてはなりません。謝罪すると心に決めたなら、そのとき既に行動は終えています!

 シンクの前に佇む背中に向かって。

 

「千鶴!」

「っすぅーーーーやべ」

「……千鶴?」

「ユヅっち」

 

 千鶴が振り返った。

 

「水道止まった」

「…………え」

 

 指し示すほうに視線を向けると水道のレバーは確かに開かれているのに、水は一滴も滴っていなかった。

 

「多分浄水場とかが終わった」

 

 浄水場は電気供給が途絶えても自前の発電機で動かせるらしい。水道管に流すのも水圧なので電気の有無は不問。しかしそれは上水の源流に管理者がいればの話だ。

 

「やめたんだな。維持するの」

 

 終末三日前までインフラを維持してくれるなんてよっぽどの人格者だ。感謝こそすれ非難することはない。

 

「どうしましょ……」

 

 だが困ってしまうのも事実。

 さっきシャワーを浴びれたのが幸いだった。少しでも遅れていたらずっと不快なまま、というかこれからはもう浴びれず体の汚れは耐えるしかないのでは?

 

「うそ……嫌ですわ」

「なので決めた。明日ここを出る」

 

 この家を出ていく。それはつまり流浪の民になるということ。

 

「明日?」

「そう。今日準備して。探し物もあるし、準備だって必要だろ」

「そうですわね。旅行ガイドの場所へ行くにもちょうどいい頃合いかもしれません」

 

 そうと決まれば話は早い。朝食を軽く済ませるとわたくしたちは出かける準備をした。

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