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第22話

 第一回街中調査の最大目標である書店を攻略したわたくしたちの次なる目的は急遽アイスになった。そうと決めたときの千鶴の行動は早い。

 

「バイクで?」

「いんや。多分このビル。なはず」

 

 彷徨うこと数分、わたくしたちが辿り着いたのはアイスクリームチェーン店。

 

「おおーあったあった! これならアイスをご馳走できるね」

 

 千鶴はへへっ、とこちらを振り向いたが。

 

「うーむ」

 

 わたくしは正直なところ物足りない。なにせさっき載っていたのは牧場特有の濃厚な味わい深いアイスクリーム。対してこちらは申し訳ないがありふれたアイスという印象だ。透明なショーケース兼冷凍庫の中、好きなアイスボックスを眺めて選ぶ仕組みで、この手のボックスは資本主義のもと量産されているのだろう。ようは特別感がないのだ。

 

「その心、もう少しいいもの食べたいんだね」

 

 わたくしの内心は容易く看破されていた。

 

「ただ少し視点を変えてみるのじゃ」

 

 千鶴はお店の内側、店員サイドに立って口を開いた。

 

「いらっしゃいませ〜ただいま店内全品100%オフでぇ〜す。三十二種種全てのフレーバーからお選びいただけ、食べ放題となっておりまぁ〜す。この機会お見逃しないように〜」

「食べ放題……」

 

 ごくり。

 

「どうだ? 牧場品とは違うけどこういうのも。さぁ、おいで」

 

 行く。普段は入れない向こう側にズカズカ踏み込む。

 

「そうこなくっちゃ! どれから食べる?」

 

 わたくしたちはお金も他のお客もマナーも気にすることなく、ボックスに直接スプーンを入れた。箱いっぱいのアイスにはするりとスプーンが刺さった。外側は液状化しているが中心部ほど固さが保たれている。千鶴宅と同じく昨日電力が切れて徐々に溶けているのだ。

 

「やっぱチョコチップうめ〜。でも今日は普段食べないこっちも軽率に食べれちゃう〜」

 

 そして、うまい! と体を横揺れさせていた。

 

 美味しい……これも美味しい……。

 

 一方でわたくしは全てのフレーバーを一口ずつ直接つまみ食いというとっても悪いことをしていた。やってることは炎上間違いなしのバイトテロである。しかしこのまま残されていたって溶けて腐って隕石で蒸発するだけなのだから、食品ロス対策と主張したい。

 

「キャラメルナッツ……意外とパンプキンもいけます」

 

 見くびっていた。大衆アイス店がここまで美味であるとは。豊富なフレーバーから好みの味を探求するのも一興だった。

 

「これすごくね! ドォン! アイス五重塔! 世界遺産登録!」

 

 いつの間にか千鶴はアイスディッシャーでバカなことをしている。発言もバカっぽい。

 

「さらに私は遺産を進化させるぜ! 六重塔!」

「世界遺産は進化しないでしょう」

 

 コーンから生える五つの球に今もう一つの球を乗せようと慎重に慎重に……。

 

「乗っ……」

 

 ずるり。

 今のアイスは充分に凍っていない。

 

「たーーーあぁー落ちるぅーッ!」

「あなた! こ、こっちに向けないで! 落とさないで!」

 

 いけません! 落としては食品ロス対策という大義名分が!

 

 咄嗟に重ねられていたカップを掴み、崩壊する六重塔の上から三重の部分をなんとか受け止めた。我ながらナイスキャッチ。

 

「あっぶねーさんきゅ。それあげる」

「どうも。食べ物で遊ぶのはナシです」

 

 崩壊した世界遺産は中々に美味しかった。

 それからまた各々のお気に入りを味わい尽くし、本体が隠れるほどトッピングを施し、ボックスの溶けたアイスをストローでちゅうちゅうして、お腹を冷たくしてからお店を後にした。大満足である。

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