第11話
朝食とその流れからの会議を終えて、わたくしは千鶴の自室へと誘われた。彼女の部屋は二階ということでシャンデリアの光の下、エントランスの階段を登る。寝起きで下ったときとは違い、身も心もサッパリしているので足取りも軽かった。
「これからなにをしようと言うのです?」
「んーまだ秘密かな。でも絶対楽しいぞ〜。それだけは約束できるね」
艶やかに磨かれた廊下の途中で歩みを止めると、いかにも千鶴の部屋と一目で察せられる異質なドアがあった。ドアの取っ手には重厚感ある南京錠がぶら下がり、存在感を放っている。木製のドア自体もダメージ加工をしたのか、切り傷や表面の抉れが散見される。
千鶴の趣味……ですかね。好みはパンク系ファッションでしたし。
「遠慮しなくていーぞー」
「お邪魔します」
千鶴に続いて中に入る。しかし室内はかなり暗く、足元の様子も分からない。太陽の光は遮断されて、光源はぼんやり淡いライトと煌々と点けっぱなしのモニターだけだ。自分の根城なのだから当然なのだが、千鶴はずんずんと進んでいってしまう。
「少し暗くありません?」
「そう? 慣れちまったから分かんねーや。ゲーム画面に変なもんが反射しないようにしてんのよ」
電気つけよか? と聞かれたので素直にお願いする。
パッと光ったシーリングライトで部屋の全貌が明らかになった。
そこは見たことないもので溢れている異世界のようで、都会にやってきた田舎者みたいにキョロキョロしてしまう。
広さは教室の半分くらい。高校生の個室としては広いだろうが、お嬢様なら違和感ない。だが部屋の空気感にお嬢様としての気品は皆無だ。
目立つ家具はベッドにソファ、テレビ、ハンガーラック。部屋の角では部屋の二辺を贅沢に使ってパソコンデスクが、洗練された椅子とセットで設られている。
机や床は雑然としており、使ったもの出したものをそのままにしていると推察できる。もちろん天蓋なんてついてないベッドには脱いだ服が放り投げられている。
整理整頓され過ぎた環境で育ってきたわたくしにはだらしないその景色だって珍しいが、それ以上のものがあった。
「見るのは初めて?」
わたくしの焦点に目敏く気づく。
「ええ、もちろん」
壁には物々しさを少しも隠さずに堂々と銃火器が飾ってあった。ハンドガンと呼ばれる小型の銃から、人の半分くらいの長さを持つライフルまで。まるでガンショップのような陳列に釘付けになる。
「本物ですか?」
「なわけ。モデルガンだよ。一応撃てるけどな」
千鶴はラックに近づくとハンドガンを手にし、躊躇いなくベッドに向けて引き金を引く。パシュンという軽い音で発射され、ポッと枕に着弾した。なるほど、確かに実銃ではない。
「うわ、めんどくさ。ノリで遠くに撃っちゃった」
通販サイトの段ボールを避けながら、律儀に弾一発を回収しにいく千鶴の姿を目で追いかけた。
衣服や段ボールは散らかしておくのに、わざわざそれは回収しにいくんですね。
その限定的な律儀さはガンラックからも見てとれる。部屋が荒れてるのにそこだけ博物館学芸員が常駐してるのかと思うほど整っている。
自分のお気に入りは大切にして、それ以外は無頓着といった気質がありありと表れている。
「それで、わたくしを呼んだのは銃で戦争ごっこをやるためですか?」
「おーそれも楽しそうだねー」
造作もなく弾倉を抜き取り、拾った粒ほどのプラスチック弾を込め再装填する。映画でありがちなカチャっという音がよく馴染む。
「半分あってて半分違うかな」
彼女はにんまりとハンドガンをゆらゆら揺らした。




