結局はまだ引き摺ってたりする
投稿は毎週日曜日
俺が教室に戻ると、一斉に授業を受けている生徒としている教師が俺を見た。と、同時にギョッとした目に変わる。その中に東雲京はいない。教室にすらいない。俺は密かにほっと息をつく。あとはそれらを憮然とした表情で受け流すと、何か言いたそうな教師を尻目にさっさと自分の席へと座ってしまった。するとどうだろうか、教師は何事もなかったかのようにまた、異国の言葉をぶつぶつと吐き出した。生徒も幾人かはまだ面白そうにこちらを見ていたが、ほとんどがノートを取る、もしくはケータイをいじるなど各々の作業へと戻っていった。
気だるそうに頬杖をつき時計を見ると、もう一時間目も終わるかという時間。少なくとも俺は三十分以上あそこで立ち尽くしていた計算になる。心に決めた、決心したと言っても悲しいものは悲しいし、まだ時間が欲しいというのも本音だ。策を練らねば…………練らねば……ねら……
「……くま……拓馬!」
むぅ、肩が揺すられる、眠い……寝させろ、俺を起こすな…………ちっ、しつこい……!
俺は瞼も開けずに口だけ開いた。
「……俺の眠りを妨げるものは何人たりともゆるさん」
「どこの流川君だよ……ったく。おい拓馬、今何時かわかるか?」
この声は、前の席の馬鹿か? 流石馬鹿じゃないか、そんな簡単な質問をするなんて。ついに時計も読めなくなったのか……ふん。俺は教師の声が聞こえないことと、喧噪を鑑みて答えを出した。目をあけるのはダルいので却下。
「……馬鹿め、簡単だ。一時間目の放課、もしくは休み時間。九時五十分から十時の間。と見せかけて二時間目の放課、もしくは休み時間だ! 十時五十分から十一時! これでどうだ!」
ふ、ふ、ふ。驚いて声も出せないようじゃないか!
「……阿呆すぎて声も出ないわ……さっさと顔を上げて時計を見ろ。そして自分の馬鹿さ加減を自覚しろ」
……? 面倒だが、仕方がない。馬鹿と言われて黙っていられるほどお人好しではないからな!
ん? 視界が妙に赤いが、寝すぎたか? 目が平常運転していないようだけど……うん、時計は見える。
何々……
「ほら見ろ。時間は四時五十分……四時五十分……?」
ごしごし
「四時……」
ごしごしごし
「そんな馬鹿な……」
ごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごし……
「嘘だ!」
「ホントだ」
「お前が」
「ズラすわけがない」
「日は」
「夕日」
「なんで」
「キレる」
「いい」
「よくない」
「先生」
「諦めてる」
「今は」
「放課後」
「キングクリムゾン!」
「スタンド能力じゃない」
「過程を吹き飛ばす!」
「寝てな」
「残念!」
「無念」
「また来週!」
「だが断る!」
「ええ!?」
馬鹿な……! 私は今、戦慄を感じている! 今まで馬鹿だ馬鹿だ思っていた馬鹿が、これほどまでに私の言葉についてくるとは! これでは色んなこと諸々を有揶無揶にする作戦が……!
「で、だ」
敏之の顔が、突然真面目なそれに変わった。喧噪が遠く離れていく。夕日はあかく敏之を照らした。
「拓馬……お前東雲さんに何をした?」
----ああ、楽しい気分が台無しだ。