諦める?その選択肢はない
……お久しぶりです皆さん。待っていた人はいないでしょうが、ようやく学校生活も緩やかになり時間も空いたので投稿を再開しようと思います(汗)週一更新を目指します。
あの日僕のすべてが変わった日。
「初潮です」
医者の口から語られた言葉は僕の理解の範疇を越えるものだった。
「は、生理ですか?慧はこんな顔ですが、息子なのですが?」
「落ち着いてください奥さん。まず半陰陽というものを知っていらっしゃいますでしょうか?」
その内容は僕を絶望の淵へ叩きつけるのに十分すぎるほどの威力を持っていた。
男として生きてきた人生は否定され、僕は女として生きる方が苦労せずに生きられるのだそうだ。
強要はもちろんされなかった。男として生きる道も示された。確かに性機能は女だが、男性ホルモンを打ち続ければ乳房が大きくなることも生理が来ることもなくなる。
「アハッ」
昨日まで当たり前のように感じていたことが、そんな面倒くさいことをしなければできないなんて考えると、嘲笑いがこみ上げてきた。
よく考えて決めてください、と言われ僕とお母さんは診察室を出た。次の人を呼ぶ看護婦さんの声が僕の耳を通り過ぎる。ああ、今は看護士さんか。心底どうでも良い。看護士さんにとって僕が男であろうと女であろうと関係ない。当たり前だけど、人の日常が憎くて仕方がなかった。
家に帰る車の中に会話は無かった。型遅れで排気ガスばかり出す車のエンジン音だけが静寂の中に響いている。
古びた家に着いた。今の僕にとっては日常の象徴と言っても構わない家に。
僕は一人になりたいと、静かに言うと返事も待たず自分の部屋へと駆けた。
特に飾り気がない部屋。壁に掛けた男物の制服は、僕を睨んでいるようだった。逃げるようにベッドへ倒れ込む。涙は出ない。ここで泣くと、女々しくて情けない女になってしまう気がしたから。偏見だけど。
「馬鹿げてる……」
吐き捨てるように、そう呟いた。
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ザァーザァーと雨が拓馬の身体を打ちつける。勝手に舞い上がって、自惚れて、調子に乗って、慧を傷つけた。きっと限界ギリギリまですり減らされた慧の心に土足で入り込んで、何も考えずにばらばらに暴れ回って、最低だ、と拓馬は自嘲気味に嘲笑った。
もう、慧は見えない。俺は取り返しのつかない間違いを起こした。何もしなかったことが、取り返しのつかない間違いだった。最低の屑だ。
慧のいる教室に戻りたくなかった。ここからなら、誰にも見つからずに家に帰れる。
どれだけの間雨に打たれただろうか。身体は芯から凍えきり、心はどうしようもなく固まってしまった。
何が悪かった? 過去の俺か? 今の俺か? ーーどちらもだ。
足りなかったものは何だ? 情報か? 時間か? ーー覚悟だ。
このまま他人になるつもりか? 関わらないでいるつもりか? ーー否だ!
・・・
馬鹿みたいに雨に打たれながら自問自答を繰り返す。今は東雲京のいる教室に戻りたくない。その一心で。せめて、
・・・
一時的に慧を他人の東雲京と扱う覚悟を決めるために。
落ち込む時間は終わった。拓馬の目は死んでいない。それどころか、猛獣が獲物を狙うようにランランと輝いていた。
バカめ。泣きながら関わるなと言うということは、つまり助けてくれと言ってるようなものじゃないか。
都合の良い想像、妄想の類でも構わない。
迷惑だと罵られようとも構わない。
理由も知らされずに、はいそうですかなんて性に合わない。
つか、理不尽だ。
裏切ったとか、あいつが言うのなら裏切ったんだろうけれど、
だからどうした。
俺は裏切ったつもりはないし、まだ親友だと思ってる。
――だから。
――待ってろ。