怒気(投稿するのを忘れていたもの)
はい、申し訳ない
「うるさいんだよ!裏切り者のくせに!」
「……!」
一瞬何を言われたのかわからなかった。俺は再会を喜んでいた。どんな理由があろうと受け止めるつもりもあったし、いくら何も言わずに去っていったとしても慧もきっと再会を喜んでくれると思った。自分のことを隠そうとするのもきっと何か理由があって言いたくてもいえないだけだと思った。だが全部自惚れだった……?裏切り者?どういうことだ?
俺は慧に言われたことがとっさに処理できなくて固まった。
慧はそんな俺を気にもせず言葉を続けた。いや慧は下を向いているから俺も慧がどんな顔をしているのかわからなかった。……ただその握りしめた拳が憤っているのだろうと教えてくれた。
「私は――僕はずっと待ってた!
病室で明日ならきてくれるって淡い期待を持ちながら、会ったらどう切り出そうかとも考えてた!
二人でくだらない話をして馬鹿な話で盛り上がって、その後この体のことを言おうと思ってた!!
半陰陽って聞かされても目の前が真っ暗になっても、それでも拓馬と一緒なら大丈夫ってずっとそれを支えにしてた!
泣きそうになってもどんなに辛くても、拓馬に会うまでは泣いちゃ駄目だって自分に何度も言い聞かせてたっ!!
なのに拓馬は来なかった!!」
……ゼェ……ゼェ……ゼェ
一息で言って疲れたのだろう慧は呼吸を整えるため、息をついた。
慧は顔を上げ俺を見た。顔には俺に対する怒りと悔しさが見て取れた。
綺麗な髪の毛は雨で顔に張り付き雨粒は端正な顔を歪めてしまっていた。
俺は、違う!と言いたかった。会いに行かなかったのではなく会えなかったんだと。だが会えないはずがなかった。会う方法はいくらでもあったのだ。それをしなかった俺は甘んじて裏切り者の謗りを受けざるを得なかった。
そんな俺の心情を知ってか知らずか慧は再び、今度は俺の顔をとらえ怒りと悔しさを伝えてくる。両の拳は未だ握られたまま。
「僕が辛いときそばに居なかったくせに!
僕が迷ってるときそばに居なかったくせに!
僕が泣きたいときそばに居なかったくせに!!
何でそんなに偉そうなんだよ!
何で今頃私の前に現れるんだよ!!」
慧の頬を一際大きな雨粒が伝って落ちた、気がした。
気がしたというのはもうその時には慧……いや京は俺から背を向けて歩きだしたので一瞬しか見えなかったからである。
追うべきなのだろう。
しかし俺はその背を追うことはできなかった。その背中には確かな拒絶があった。心はいろんな感情が混ざりすぎてグチャグチャで、なにをしていいのか、どんな言葉を投げかければいいのか、わからない。たださっきまで調子にのっていた自分を殴りとばしたかった。
固まる俺を一瞥もせずに京は
「……二度と私のことを昔の呼び名で呼ばないで下さい。今のあなたと私には何の関係もないのだから」
完全な拒絶だった。
俺は終ぞその背中を追うことはできなかった。
ザァー……ザァー
雨はまだ止まない。