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大好きだぁぁぁあああ!

興が乗ったので投稿


うぇっへへへ


カレー書いてねぇ……




「……ん」


 探していた親友が女になって転校してきた後に詰問したら自分の愚かさを知って教室で不貞寝をすればクラスメイトに疑われ不良共が現れ親友が現れ無双して気がついたらキスされていた。

 何を言っているかわからねえと思うが、俺も何が起きたのかわからねえ。元の鞘だとか、仲直りだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わっているぜ……!!


 ……それにしても唇柔らかいなぁ、身体も柔らかいなぁ、良い匂いだなぁ、あ、よく見れば顔にも面影がある、うわぁ睫長い、どんだけ世の女性に喧嘩を売る造形しているんだよこいつ……唇柔らかい。


「……ん……っはぁ」


 ──離れた。少々物足りない気もしないでもないが、数秒だか数十秒だか数分だかされていたキスはようやく終わりを迎えたようだった。離れていく慧の顔を見なが、離れていかない!?

 息継ぎのつもりだったのか、あり得ないほど整った顔が再び迫ってくる。今度こそ明確に意図を露わにして。


「ちょ、ちょ、ちょ、ストォォップ!」

「……ちっ」

 

 我に返って慧の両肩を押し止めると、慧は小さく舌打ちした。表情は変わっていないが、その顔はきっと悪巧みをしている顔だな!

 どういうことだ? これはもしかしてもしかすると仲直りが出来たと考えていいのか? いやさ、その考えはこと慧においては早計だ。というか、こいつは泣き寝入りするではなく、敵は姦計に陥れて破滅させるタイプ──あれ、俺今こいつから敵認定されてなかったっけ……

 冷や汗をだらだら流しながらじっと慧と見つめ合うこと何秒か、今の今まで視界の端にすら映らなかった敏之がおずおずと話しかけてきた。


「……な、なぁ、お前と東雲さんってどういう関係……?」


 振り返ってみればその他クラスメイトがうんうんと頷いていた。その顔はどれも“もうわかってるけどね”と言わんばかりで。

 ……そ、そういうことかぁぁぁあああ! い、いかん! もしも今の慧に喋られでもしたら──

 俺は急いで慧の方を向いてその口を閉じさせようとしたが──閉じようとしていた口に、俺の口をまた塞がれた。


 わ、わけがわからないぞ。慧の意図するところがわからない。どうしてここでまたキスをするのか。あ、やっぱり唇やわこい。ってか、あああああああ、離れ、離れた、早く離れてくれないとイケない気分になってしま、


「改めて自己紹介させていただきます。旧姓如月、元の名前は慧と申します、拓馬くんの彼女の東雲京です。とある事情で離ればなれになっていたのですが、この度無事再会出来ました」


 や ら れ た !!


 慧の唇が離れた瞬間、慧は言葉早にそう言った。止める隙もないほどの電光石火に開いた口が塞がらない。唇に残った感触が忘れられない。

 敏之筆頭のクラスメイトの口も塞がらない。


「ちょ、おま、なに、ふざ、ぬぁあああ!」


 意味ある言葉が紡げない! っというか、なんだよ彼女って! しかも名乗るのかよ如月慧って! 散々っぱら俺が見境なしに探していたからこいつらの勘違いが今こそ限界突破する! 


「お、おま、お前……探していたのって彼女だったのかぁあああ!?」「おいふざけんなよマジ!」「い、一途過ぎるだろ……」「キャーキャーキャー!」「転校先で彼氏と再会なんて、ドラマみたい!」「そういうことなら応援するわ!」「誰にも邪魔なんてさせないから安心してね!」


 クラス公認にされてるぅぅぅううう!


「っはぁ、ま、なんにせよよかった拓馬」


 おい、敏之。どうして長い懸念事項が終わったとばかりに俺の肩をたたくんだ教えてくれよ。

 おい、みんな。どうして終わった終わったぁぁ、と教室を次々後にしていくんだ教えてくんろ。

 そして俺はあまりのショックに動けない。っというか、何が起きたのかわからない。俺に聞かれても困るのさ。つべこべ言わずに、あああああ。


 そして誰もいなくなった。


 ──慧を除く。


 俺は気がついたら窓際の机に腰掛けている慧の方を向いた。


「……どういうつもりだ」


 慧はなにも言わずに、俺をじっと見つめていた。その瞳はとても澄んでいるとは言い難く、有り体に言えば──ひどく濁っていた。


「……なにも言わないのか」


 間。慧はなにも言わない。ただじっとこちらを見つめいているだけ。無表情な顔は少しも変わっていないのに、俺にはそれが酷薄な笑みを浮かべているように見えた。

 窓から差し込む夕日は、あの日のことを嫌でも思い出させる。そして登場人物も、あの日の再現だ。ああ、くそったれ。


「……たたの復讐です。僕を裏切った、あなたに対する」


 そして、慧はようやく口を開いたかと思えば、物騒なことを呟いた。それは俺の想像の範疇を越えるものではなかったが、十二分に警戒に値するものだった。

 だが、そんなことはどうでもいい。警戒だとか、そんなことより、俺は慧に歩み寄らないと。慧を救わないといけないんだ。


「それは違うっ!」

「なにが違うんです? のうのうと遊び呆けていたのは本当でしょう? それが今更、何を言っても無駄。後でなら幾らでも言えます」

「っ……く」


 慧は淡々と事務的に事実の確認をしていく。


「それ故の復讐です。私があなたの彼女と言ったことは、すぐに広まるでしょう。人の噂は、信じられない速度で広がりますから」


 だが、わからない。慧が、東雲がどうしてそんなことをするのか。俺が東雲とつき合っているという噂が出来上がることで、どんなメリットがあるんだ? 俺にどんなデメリットが……

 少なくとも、日頃からすこし気をつけるようにしよう。慧のことだ、これにどんな罠が仕掛けられているかわかったものじゃない。そして大概のそれは、いやになるほど巧妙で嫌らしい。ある種、警戒するだけ無駄かもしれないが。

 ならばこそ、罠を利用して慧の懐に入ろうではないか。相手が俺を憎んで無視し続けるなら骨が折れることだったかもしれないけど、慧の方から近づいてくるなら好都合だ。

 ああ、そうだ。こういった関係の方が、昔の俺達らしいよな。

 俺は口元のニヤケが押さえつけられなかった。

 吹っ切れた。ぐだぐだ考えるのは趣味じゃない。だから、ならば、俺は挑むような面もちで慧を、東雲を睨んだんだ。


「当然、彼女というなら俺の側にいるんだよなぁ、慧?」

「……そういうことになりますね。なにを考えたか知りませんが、私の謀略はあなた程度では防げませんよ?」


 ああ、そうだろうさ。それでこそ、お前だよ。

 表情こそ変わっていないが、お前がこれを楽しんでいるのはわかる。だったら、朝泣いて怒ったお前の感情をもう一度、起こしてやるよ。

 

「いや、俺はお前の姦計を防ごうなんて微塵も思っちゃいねえ」

「……なに?」


 当たり前だ。俺の足りない脳味噌でどうにかなるなんて思っていない。

 それに結論なら、とうに出ている。彼女を慧は演じると言っているんだろう? それなら簡単だよ。一番近い関係なら、


「だったら俺も演じてやるよ。お前の彼氏をな!」


 …………。


「…………」 

「あ、あれ?」


 な、なんか俺は間違えただろうか。最高の結論だと思うんだけどな。彼氏を演じてより近しい仲になろう作戦。略して彼氏作戦。そのままですね、さーせん。

 心なし、慧を彩る夕日の朱が濃くなった気がした。


「……はぁ。そうでしたね。あなたはそういう方でした。警戒するだけ無駄でしたか」

「む、無駄とはなんだ! 俺だって考えた結果……」

「それが考えた結果だとしたらより救いようがないですよ? まさかそんなことはありませんよね?」

「……なわけがないじゃないか! HAHAHA!」


 ……ふぅ、危なかった。もうすぐでバカの謗りを受けてしまうところだった。


「……話は終わりです。帰っていいですよ。私も帰りますので」


 そう言って慧は鞄を持って歩きだした。ああ、そうかい。待つ気も一緒に帰る気もありませんってか。

 なら俺は勝手にやらしてもらうだけだ。

 校舎の中、学校の外に出てもひたすら慧の隣を占領するべし。

 

「……どうして付いてくるんですか?」

「たまたま帰る方向が一緒なだけだろ」

「どうして横に並ぶのですか……」

「彼氏彼女なんだろ? これくらいふつーふつー」


 おっ、歯ぎしりが聞こえた気がするぞ。これも一歩前進と考えていいか。


「反対方向ですよね」

「今日はこっちの気分」

「あなたの地元はこっちじゃないはずです」

「俺の魂の地元は慧の隣なもんで」

 

 イライラしてるな。

 ふむ、慣れてくれば無表情でもちゃんと感情があるって分かってくるぞ。なるほど、なくなっているわけではないのね。

 ストーカーのように付きまとっていると、駅の近くに着いた時ふいに慧が振り向いた。


「……なにを勘違いしているか分かりませんが」


 その表情はやはりない。ただ、あえて言うならば──拒絶。

 踏鞴を踏んでしまうのが自分でも分かった。


「私はあなたと馴れ合うつもりはありません。ましてや、噂通りの彼氏彼女ごっこなんて──反吐がでる」


 だけど、


「忘れないでください」


 憎悪を吐き出しながらも歪まないその顔は、


「私は絶対にあなたを許すつもりはありません。絶対に、です。あなたのような裏切り者が、いまさらどの面下げて私に会えたものか、面の皮が厚いのは変わりませんね。裏切り者が」


 俺にはどうしても、


「──ここからは電車です。付いてこないでください」


 助けを求めているようにしか思えなかったんだ。

 だから──



「お前がなんと言おうと、俺はお前のことが──大好きだぁぁあああ!」


 人混みに紛れていくその華奢な背中に、ただ叫んだ。関係ない人たちに見られようと知ったことではない。まあ、その大半が生暖かい視線だったんだがな。

 お前は振り返らなかったけど、聞こえていると信じて俺はその場を後にした。

 

 今日何度目かわからない決意を固めて。



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