雷 かみなり
雷 かみなり
がおぉーー! がおがお!
「師匠! 師匠ーー!! いないんですか! もしかして、お腹空いて死んじゃったんですか? 師匠!! 死なないでください!!」
そんな大きな声が朝早くから聞こえてくる。
……、もう少し寝ていたかったんだけど、しょうがない。起きることにしよう。
「いるよ。ちゃんといる。あとお腹は減ってるけど、ちゃんと生きてるよ」
欠伸をしながら起きると、麒麟は布団から出て、玄関まで歩いて行くと、そう言ってからドアを開けた。
するとそこには雷がいた。(黄色い虎模様のTシャツにふとももを出しているデニムの短いパンツに白い運動靴という服装だった)
雷はにっこりと笑うと「おはようございます! 師匠!!」と思いっきり元気よく頭を下げながらそう言った。
「ラーメン! チャーハン! ぎょうーざ! 師匠と一緒に、ラーメン! チャーハン! ぎょうーざ!」
歩きながら雷は嬉しそうに(まるで歌を歌うようにして)言った。
「そんなにお腹減ってたの?」
「師匠と一緒にご飯が食べられて嬉しいんです!」と満面の笑顔で雷は言った。
まあ、そう言われると嬉しくないわけじゃないんだけど、と思いながら、麒麟は雷に隠れてお財布の中身を確認した。
ラーメン屋さんは混んでいた。
少し待ってから、お店の中に入って、お歌の通りにラーメンとチャーハンとぎょうざを食べた。(とっても美味しかった。また食べにこよう)
ちょっとだけ高かったけど、まあなんとか大丈夫だろう。
お腹いっぱいになって、雷はとても幸せそうな顔をしていた。
「師匠! ごちそうさまでした!!」
雷はまた元気よくその頭を思いっきり下げてそう言った。
雷は小学校の五年生の十歳のとっても綺麗な顔をした女の子で、麒麟の住んでいる古い家のすぐ近くの家の子供だった。
今はいろいろとあったみたいで、小学校には通っていない。
出会ったころの雷は、ずっと泣いてばかりいて、口数も少なくてとても暗い子だったのだけど、麒麟と師匠と弟子として、(弟子にしてくださいと言ってきたのは雷からだった。わざわざ長かった髪を短く切ってきたから、麒麟は本当にびっくりした)遊ぶようになってから、今みたいにとっても明るくて元気な子になった。きっとそれが本当の雷なのだろうと麒麟は思った。(雷のお父さんとお母さんも、とっても喜んでくれた。一度、麒麟のところにわざわざお土産を持ってお礼にきてくれたこともあったくらいだった)
雷は麒麟のことが大好き見たいで、師匠と言って尊敬してくれていた。(格闘映画か、格闘漫画に影響を受けているみたいだった)
「師匠! 今日はどんな修行をしますか!」
と大きな目をきらきらさせながら雷は言った。
せっかくのお休みの日だし、本当はお酒でも飲みながら、ぐーたらとずっと横になっていたかったのだけど、まあしょうがない。
弟子に稽古をつけてやる(遊んでやる)ことにした。
軽く背負い投げで投げてやった。(雷はとっても楽しそうだった)
雷はまるで小さな子供の虎のように(がるる! と唸りながら)襲いかかってきたけど、何度も何度も返り討ちにした。まだまだ子供には負けないのだ。
夏の日で、とても暑かった。
部屋でエアコンをつけて、涼しくして、氷を入れたアイスコーヒーを飲みながら、(麒麟の家には雷の虎の絵のあるカップもあった。雷は虎が大好きだった。強いかららしい)自分で作ったカレーライス(麒麟の自慢の料理だった。まあカレーしか作れないんだけど)を雷と一緒に食べた。(すごく美味しかった。カレーライス作りは雷も手伝ってくれた)
まあ、いいお休みの日だと思った。
雷は早起きしたからなのか、お腹がいっぱいになったからなのか、あるいは運動をしたからなのか、いつのまにか黙っているなと思ったら、ぐっすりと眠ってしまった。(とっても可愛らしい寝顔だった)
どんな幸せな夢を見ているのだろうって、そんなことが麒麟はちょっとだけ気になった。
「ほぁー」
と大きな欠伸をしながら背伸びをした麒麟は「私もお昼寝しようかな」と言って、雷の眠っている隣にごろんと横になって目をつぶった。
「師匠。大好きです」
雷が寝言でそんな嬉しいことを言ってくれた。
「おやすみ。雷」
麒麟は一度目を開けて、雷のほっぺたを優しくつねってからそう言って、雷を家に帰すまでの二時間くらいの時間、気持ちのいい眠りの中にあっという間に落ちていった。
(雷を家まで送っていくときには、台風が近づいているからなのかとても強い雨になった。麒麟と雷は一つの黄色い傘を持って、相合傘をして、強い雨の中を二人で一緒に歩いていった)
愛してるよ。
雷 かみなり 終わり