6話「お久しぶりです」
「あの時以来か、久々だ」
「お久しぶりです」
アイルティストンと会う日はすぐにやって来た。
「対応ありがとう、感謝する」
「こちらこそ。お声がけいただき光栄です。ありがとうございます」
顔を合わせたのは隣国に比較的近いところにある交流会館という建物の前。
歴史を感じさせる趣のある石造りの建物で、しかも見るからに立派な三階建て――高貴な人が足を踏み入れるに相応しい場所と言えるだろう。
彼の後ろには護衛の男性が二名ほど控えている。
常に護衛が目を光らせているという状況はどことなく威圧感があるものだ。何も悪いことをするつもりはないけれど、それでも、どことなく気まずさを感じてしまう。もっとも慣れてしまえばどうということはなくなるのだろうが。敵意を持たれているわけではないにしても、護衛に見張られているという事実がなくなるわけではないので、その感覚に慣れるまでにはまだしばらく時間がかかりそうだ。
「この後談話室へ移動して食事をと考えているのだが、問題ないか」
「あ、はい」
「では予定通り進めよう」
「分かりました」
歩き出す直前、アイルティストンとばちりと目が合ってしまい、何とも言えない感情に苛まれる。
やはり王というだけはあって、彼の目力は凄まじいものがあった。
悪い意味ではなく。
褒め言葉なのだが。
その辺を歩いている一般人とは放っているものが明らかに違う。
――そうして始まる食事の時間。
「今日はシェフを連れてきた」
「そうなのですか!?」
「……物凄く驚くのだな」
「あっ……も、申し訳ありません、大きな声を」
「いや、いい。気にするな」
思っていたより規模の大きな出来事となっていて戸惑う。
それでも今さら引き返せるわけではないから、私はただ自然の流れに身を任せることにした。
なるようになればいい、そのくらいの心の持ち方でいよう。
やがて出される一品目。
横長の白い皿に幾つかの料理が少しずつ盛りつけられている。
その中の一種類を口へ運んで。
「美味しい……!」
思わずそんな言葉をこぼしてしまう。
魚の切り身と玉ねぎのスライスを塩味のタレで和えたような料理。
口の中へ入れた瞬間、魚の旨味がじわりと広がり、玉ねぎの独特の匂いが食欲を掻き立ててくれる。
「気に入ってもらえたようだな」
「凄く美味しいです……!!」
自分の顔というのは自分では見えないものだけれど、きっと今の私は子どものように目を輝かせているものと思われる。
その様子を想像すると少々恥じらいも生まれてくるけれど。
見えないものについてあれこれ考えて気にしても何の意味もないので、敢えて気にしないでおくことにした。
「おお、それは良かった、安心した。今日来てもらったシェフは我が国においてもかなり評判の良いシェフだ」
「そうなのですね」
「わたしもいつも世話になっている、何度も感動させられた」
「感動……確かに、きっとそのようなことはあるのではないかなと思います。あくまで個人の意見ですが……そんな気がします」
美味しい。それは時に人の心を大きく揺さぶるものだ。もっと食べたい、というのもあるのだけれど、それだけではない。食欲が湧き上がるというだけではない、それ以上の感動というのは確かに存在している。
続けて口へ運んだのは、小さく刻まれたキューブ型の牛肉がスパイス多めで味つけされている料理。
異国情緒溢れる香りが鼻の奥を楽しませてくれる。
また、ほんの少し遅れてフルーティーで軽やかな味わいが舌へ嬉しさを与えてくれ、それによって感じられる美味しさがより一層深まっていく。