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4話「想定していなかった展開ですが」

 まさかこんな形で初対面の隣国の貴人とお茶をすることになるとは思わなかった。


 今は、用意されていた部屋で、王たるアイルティストンと二人向かい合って椅子に座っている。


 椅子の高級感に緊張させられて。

 室内の空気にもまた緊張感を高められて。


 そんな感じで、リラックス、なんていうのは到底不可能といったような感覚。


「実は、我が国でもパパルテルパナリオンを信仰する者はいる」


 レース生地のテーブルクロスが敷かれた丸いテーブル、その上にそっと置かれているティーカップは磨き上げられた純白。まるで穢れなき乙女の姿を表現しているかのよう。あるいは偉大なる女神の純潔な精神を映し出す鏡か。この手で触れることをおこがましく感じるほど、凛とした美しさのあるティーカップだった。


「そうなのですか」

「発祥の地は君たちの国だろうな。ただ、彼女を信仰するという文化は君たちの国だけの文化ではない」

「初めて知りました」

「確かに、あまり広くは知られていない話かもしれない。というのも、全国民がというわけではないからだ。……そこは君たちの国と少々異なっているところだろう」


 ティーカップの中には普通の紅茶が注がれている。


 ほのかに漂うのは茶葉の香り。

 夕暮れの静かな湖畔で木々の匂いを感じる時に似たようなもの。


「だが、女神パパルテルパナリオンの言い伝えというのは興味深いもの、それゆえわたしは幼い頃から関心を持っていた」

「そうなのですね」

「ああ」

「では私に声をおかけになったのはパパルテルパナリオンについて知りたかったからということですか?」


 彼はそっと頷いた。


 室内には私と彼以外の人間もいる。というのも、護衛の者が室内に待機しているのだ。その人は会話には入ってこない。ただ、部屋の隅にそっと立っていて、万が一の出来事に備えている。


 そこへ意識を向ける時、やはり彼は王なのだ、と、そんな風に感じる。


 今はこうやってそれなりに普通に会話しているけれど、それでも、アイルティストンが一国の王であることに変わりはない。その彼にもし何かあったら。そんなことになったら、国は大変な騒ぎになるだろう。まぁいいか、とか、代わりの人を立てて、とか、そんな問題ではない。


「ですが……すみません、私も、パパルテルパナリオンについて詳しいというわけではないのです」

「そうなのか?」

「はい。ただ加護がというだけで。本当に、ほぼそれだけなのです」

「しかし凄いことではないか。君は偉大なる女神に護られているのだろう? そのような奇跡は滅多にないものと想像するが」


 純白のティーカップで飲む紅茶は際立って上品な味に思える。


「珍しいことは珍しいと思われますが……」

「やはり。そうだろうな」


 アイルティストンの所作からは常に丁寧さと品性が感じられる。

 座っている姿勢、ティーカップへの手の運び方、そして飲み方。話をする時の口もとの動きまで。全身のいたるところにまできちんとしようという意識が張り巡らされているようで、隙がない。


 とはいえ本人はさほど意識していないのだろうが。


 そこはやはり王族。

 きっと幼い頃から教育を受けてきたのだろう。


「ですが私には特別な力はさほどありません」

「これから目覚めるのだろうか」

「その点につきましても……分からないのです、よく。何か起こるのか、このままなのか、そういったことも謎のままで。なので女神の加護というものは自分でもよく分からないまま今に至っています」


 こんな高貴な人の前に私がいて許されるのだろうか……、なんて思ってしまった。


 王子と婚約していた時期はあるとはいえ元々は一般人の女。

 そんな私が王である彼の前にいていいのか。


 ついそんなことを考えてしまう。


 指摘されたわけでもないのに自分一人であれこれ考えていても何の意味もないと分かってはいるのだけれど。

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