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1話「平凡な女から王子の結婚相手になった……のですが」

 この国にはほとんどの民が敬愛する最高神がいる。


 その名はパパルテルパナリオン。

 それは長きにわたり語り継がれている存在。


 遥か昔、この国を生んだ偉大な女神である。


 ――そして。


 私、リマリーローズ・ティアラは、その女神の加護を受けている聖女だ。


 平凡な女だった。子ども時代も、ある程度大きくなってからも、ずっとそう。抜きん出て優れている部分があるわけではないし、目立つような存在でもない、そんな普通の女だったのだ。


 ……加護が判明するまでは。


 二十歳になる少し前にそのことが判明して、以降、私の人生は大きな転換点を迎えることとなった。


 すべてが変わった。本当に、すべてが。私を取り巻くものすべてに変化が起きて、目立たない普通の女だった私は皆が崇めてもおかしくないような存在となったのだ。それは、嘘みたいな本当の話。


 そしてこの国の未来を担う王子ガオン・ティフォフォと婚約することとなった。


 私が望んだわけではない。

 ただ自然な流れでそうなったのである。


 というのも、これまでもそういった形になっていたそうなのだ。


 女神パパルテルパナリオンの加護を受ける女性はその時の王子と結婚する、ということになっていたらしい。


 それで私は王子ガオンと結婚することとなっていったのである。


 ……だが私は彼に愛されてはいない。


 彼は幼馴染みの女性ルルネを愛している。それゆえ私のことなんて一切興味なし。いや、それでも、興味なしというだけなら良いのだが。困っているのは、彼がいつもあからさまな嫌がらせをしてくるから。彼はことあるごとに嫌がらせをしてくる、そして、時にはルルネと協力して嫌がらせをしてくることもある。一対二で仕掛けてくることもあるのでなおさら厄介なのである。




 ――そんなある日の晩餐会。


「リマリーローズ、お前との婚約は破棄とする!」


 ガオンは皆がいる前で突然そんなことを言ってきた。


 辺りに広がる動揺。

 誰もが驚きを隠せていない。


「思ったんだ、やはりお前とはやっていけないと」


 華やかなドレスをまとった晩餐会参加者の女性たちはさりげなく会場の端へと寄っていく。

 広間の中央に残されたのはガオンと私だけ。

 まるで演劇か何かのワンシーンが開始されてそれに巻き込まれているかのような感覚である。


「俺は俺に相応しい女性と結婚する。なぜなら後悔したくないからだ。俺の生きる道を選ぶのは俺、そこはやはりどうしても譲れない」


 ガオンはそれらしいことを言っているけれど、結局は自己中心的な発想をしているだけ。


「一国の王子である俺がお前のようなよく分からん女と結婚する意味などない、段々そう思ってきた。嫌なんだお前と結婚するのは。お前なんかと結婚して、それで一生が過ぎ去ってゆくなんて、どうやっても耐えられない。俺は、自分に相応しい、心の底から愛せると確信できる女性と結ばれたい」


 婚約しておいて後からそんなことを言うなんて身勝手の極みだ。


「加えて、朝も昼も晩も春も夏も秋も冬も優しく温かく尽くしてくれるような女性でないと嫌だ。俺は王子、貴い人。本来、誰からもそうしてもらえると、生まれながらに決まっている地位の人間なのだから」


 ああ、どうして、こんなことになってしまったのだろう……。


 ややこしい。面倒臭い。


 そんな言葉しか脳内に浮かんでこない。


 私が何をしたというの? 結婚を決めたのはそちらじゃない。貴方の側が決めて、私をここへ連れてきたのでしょう? 私が頼んだわけじゃない。私がごねたわけじゃない。それなのに、私が悪者? そんなのはおかしいわ。だってそうでしょう、私はただの女。何もしていないし、何も頼んでいない。ただ運命に流されるように生きてここへたどり着いただけ、それだけなのに。


 ――そんな言葉がただひたすらに脳内を巡る。


「ま、そういうことだ。お前との婚約は破棄とする。お前の顔なんかもう二度と見たくない――さっさとどこかへ行ってくれ。消えてくれ」


 ガオンはどこまでも非情だった。


「出ていけ!! すぐに!!」


 彼は最後そう叫んだ。


 仕方がないので会場を後にする。

 複雑な心情を抱えたままだけれど、深く傷ついているけれど、彼に対して言い返すほどの気力はない。


「なにあれ~……可哀想にね、ひっどい~……」

「殿下はかなり心ないお方だったのですな。初めて知りましたぞ。おぉ、お怖い。あのようなことを平気で仰るようなお方だったとは驚きですな」

「あり得なくなぁい? サイテーじゃん? 自分勝手な主張でまだ若い女の子を傷つけてさぁ」

「クズ中のクズでごわすな」

「あのようなことを仰るなんて……人として終わっていますわね。かなり酷い方ですわ。信じられません……あのような……殿下のこと、嫌いになってしまいましたわ、まるで悪魔のよう……」


 耳に入ってくる皆の感想だけが小さな救いだった。

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