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 一日かけて学院を案内されて、ちとせの足はくたくたになった。

 学院は思っていたよりも広かった。校舎だけでも十分な広さなのに、それ以外の施設の充実っぷりと言ったらない。通常の学校にもあるような体育館や図書館、裏庭もすべて綺麗で立派なものばかり。裏庭を歩く通りすがりに見かけたレトロな建物に視線を奪われると、「あれは講堂やで」と深雪ちゃんは教えてくれた。


「なにをするところなんですか」

「入学式とか卒業式とか……全校集会で使ったりとかするな」


 赤茶とこげ茶のレンガが積み上げられた大正ロマンを感じる古めかしい建物。蔦が壁に這っているのもきっと計算づくに違いない。両開きの重々しい扉の上に、木製の枠にはめられた鏡が、きらりとひときわ輝いていて、凝った装飾もまた拘りのひとつなのだろうと感心した。


「気になさりますか。あれは先代学院長が気に入られた宝石を、加工して飾っているのですよ」

「鏡についている宝石ですか?」

「あれはルチルって呼ばれてるで。でも、あんまりよく知らんねん」

「皆がよく目にするところに飾るように、と遺言迄残されて相当拘りの逸品だったようですよ」


 へえとあたしは鏡をもう一度見たけれど、高尚すぎてよくわからなかった。

 夕方も食堂で共に食事をとって見学も終わり、さあどこで寝泊まりすればいいのかという話になった。深雪ちゃんは一緒に屋敷に住もうと何度も言ってくれたけれど、あたしは一生徒として通うわけだから、そこはほかの生徒と一緒にしてほしいとこちらからもお願いした。深雪ちゃんはとても残念がっていたけれど、最後には承諾してくれた。


「あなたが飛騨さんですね。ようこそすみれ寮へ」


 深雪ちゃんが紹介してくれた寮母さんはニコニコとお辞儀してくれたので、あたしも深々とお辞儀をする。頭を下げた時、この時初めてあたしの生活はここで始まるのだ、ということを実感した。寮母さんはまず、と一通り寮の施設を案内してくれながら、約束事も一緒に教えてくれた。最後に、それらをまとめた冊子も渡してくれた。新入生には必ず渡してるそうだ。

 あたしに用意されていた寮室は一人部屋だった。白い壁に小さなピンク色の花が咲いた壁紙が貼られていた、可愛いお部屋だったから、あたしは一瞬で気に入ってしまった。備え付けられていたベッドも机もすごく綺麗で、あたしには勿体無いくらいだ。

 窓からは学院の外が見える。立ち並ぶビル群の中に、赤色三角形の電波塔が見えた。それだけで、ここが日本のどこに当たるのかは察しがついた。

 なんだか疲れ切っちゃって、あたしはベッドの上にぽふんと倒れ込んだ。

 首に引っかかっているペンダントがじゃらりと音を立てる。先端についたロケットを開く。ちとせ。あたしの名前が刻まれている。反対側には何かが埋め込まれていたみたいな窪み。何か入っていたのか、それとも元々何も入ってなかったのだろうか。

 今日はたくさんのことがあって頭がいっぱいいっぱいになっちゃって、あたしは着替えることもできずにそのまま眠り込んでしまった。


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