79話 俺に憧れた?
「ディア、陛下から聞いたよ。アキレア王国で行われる大会「四国最強決定戦」のこと。ディアも出るんだろ?」
「はい。学園長もやっぱり出場ですか?」
「あぁ。ディアが来る前に王城に呼ばれてね。出場してくれないかと言われたよ。もちろん、了承した」
「優勝できる自信はありますか?」
「う~ん。最近は戦場に出てないから、身体や勘は鈍っているだろうが、出るからには優勝を狙いに行くよ」
そんな会話を学園長とすること一時間。最後の道具に付与をして、付与作業は終了した。
めんどくさがりの俺だが、このような作業をするのは、この魔道具を使っている時の生徒たちの顔を知っているから。
初めは、ルニアやステナリアから言われてやったことだが、その時の同級生や下級生の顔が忘れられない。
今、五年の生徒は、俺が五年の時には二年だった生徒で、今年が最後の夏祭り。毎年、毎年違う遊びを考えてくれるクルミナの教員や生徒会のおかげで、今年も楽しい夏祭りになりそうだ。
「そういえば、学園長。ラノアはどんな感じですか?ちゃんと、教師出来てますか?」
「あぁ。あれなら、十八歳になってこのクルミナに就職すると、私のこの席をラノアに奪われるかもしれない。まぁ、教え子に奪われるなら悪い気はしないな」
学園長はそう言いながら笑って、付与した魔道具を箱に詰めた。
俺の妹のラノアは昨年、このクルミナを卒業して俺に「教師になりたい!」と、卒業して次の日にそう言ってきた。
そこで俺が、臨時教師をしていた時の経験で得た、教師の心得をラノアに教えて、全て教え終わると、俺が学園長に相談した。
学園長は『正式には十八歳からじゃないと無理だけど、体験としてならいいよ』と、ラノアの教師の件を了承してくれた。
そして、学園長は『首席卒業が教師になってくれるのは、こちらも嬉しいことだからな』と、最後に付け加えた。
俺は『体験なので給料などは出ない』と、ラノアに言っても、ラノアはそれでも教師をしたいというのは変わらなかった。
そこで、『なんで教師になりたいんだ?』と、ラノアに聴くと、ラノアから返って来たのは想像もしていなかった言葉だった。
『兄さんに…憧れたから…』
俺?
まぁ、臨時教師として色々なクラスの教師をしてきた。
そして、授業が終わると、皆は休み時間だというのに俺の所に来て、魔法や剣、槍や弓について教えてほしいと臨時教師の時は毎回言われた。
だから、俺には休み時間というものがなかったが、教えた生徒がメキメキと実力を上げて行ったので、教えてよかったなと思う。
毎年、クルミナの卒業式に参加しているので、卒業する生徒は必ず俺の所に来て、お礼を言ってくれる。
ラノアは、俺のこの光景を見て俺のようになりたいと思ったのだろうか?
ラノアになんで俺のどこに憧れているのかと聴くと、俺の予想通りで、俺の生徒から慕われているのを見て、自分もあんな風になりたいと思ったのこと。
最後に『入れるなら、明日からでもいいよ』と言うと、ラノアは『じゃあ!明日から入る!クルミナに連れてって!!』と、言われたので、明日からなのにその前日から宿を借りて、次の日にはクルミナの教師をし始めた。
それから一年。ラノアは楽しく教師をやっているそうでなりよりだ。
「ラノアの様子でも見て帰るかい?」
「・・・そうしますか。ラノアは今、授業をしているんですか?」
「あぁ。確か、五年のAクラスだったな」
学園長からラノアの授業をしているクラスを聞くと、俺は学園長に挨拶してラノアの所へ向かう。
ラノアは夏休みと冬休み、春休みの三大休み期間には帰ってこず、俺の十八歳と就任のパーティーの時に久しぶりに会った。
だが、次の日にはもうクルミナに帰って行った。パーティーの日は大変だったのでラノアとはあまり、話せず、次の日は二日酔いで話せていない。なので、ラノアとは最近全然話せていない。
「はぁ、はぁ」
クルミナは一階は職員室や生徒会室、二階は一、二年の教室、三階は三年の教室や研究会の部屋、四階は四年の教室、五階は五年の教室の五階建ての建物。
俺が五年の時は、一階や二階から五階に行かないといけない時は、いつも『空間転移』を使っていたが、今は『空間転移』を使える魔力がないので、本当に一、二回しか上ったことがない一階から五階までの階段を俺は上っている。
五階に着いて、次はAクラスに向かう。
Aクラスは階段を上がるとすぐにあるので、その点はAクラスの特権だ。
俺はAクラスの扉を叩いた。
そして、扉の奥からこちらに来る影が見える。
扉が開かれると、Aクラスの生徒たちが見えると同時にラノアの姿も見えた。
「に、兄さん!?なんでここに!?」
「夏祭りの準備で寄ったついでに、我が妹の勇姿を見ようと思ってね」
俺はそうラノアに答えると、生徒たちに目を移した。
今までは週三くらいのペースで臨時教師をしていたが、近頃は忙しくて週三どころか週一も行けていなかった。
「ディア先生だ!!」
「ディア先生!魔法教えて!!」
「ディア先生!勝負しようよ!!」
生徒たちはそう嬉しそうに叫びながら、席から離れて俺の所に来た。俺は来た生徒の頭を撫でながら、ラノアに聴いた。
「ラノアは何の授業をしてたんだ?」
「・・・『魔法空間』だけど」
「へぇ~、とうとう授業にも『魔法空間』が取り入れられたか!」
『魔法空間』はそもそも、そんなに難しい魔法というわけではない。だが、この最高峰の学園でも取り入れなかったのは、『魔法空間』の説明文が難しかったから。
でも、ちゃんとその内容が分かると、一日もしないうちに『魔法空間』は覚えれるだろう。俺も内容が分かると、一時間くらいで覚えれたし。
ラノアも『魔法空間』を覚えるのに二時間くらいだった。本当に内容が分かれば、簡単な魔法。
「でもやっぱり、言葉で伝えるのは難しいから苦戦してて・・・」
「じゃあ、俺が教えようか?」
「え、でも、兄さんは仕事があるんじゃないの?」
「今日はもうないってプロテア陛下に言われたからここに来たんだ」
俺がラノアにそう言うと、ラノアは俺の周りに居る生徒たちを見た。そして、ラノアは生徒から俺に視線を向けた。
「じゃあ、兄さん、お願い」
「あぁ、任された!」
これから、シュラスト兄妹の『魔法空間』の授業が始まる。そして、授業が終わる頃には、Aクラスの生徒だけでなく、他のクラスの子やたくさんの教員たちが俺たちの授業を受けていた。




