74話 俺は秘書兼先生
「ん」
「あ!ステナリア、起きた!」
目を覚ますと、左耳からカリオナの声が聞こえてきた。
顔を上げると、カオルトとヒゥリーが私のことを心配そうな顔で見ていた。だが、その場にはディアの顔がない。
「ディアは…?」
目を擦りながらそう言うと、ヒゥリーから箱を貰った。なんでも、ディアが私にと、ヒゥリーに渡していたらしい。
貰った箱を開けると中には・・・
「あっ…」
「「おぉ!!」
その箱の中には、『16歳めでたい!』と、書かれたカードと赤い魚三匹が入っていた。
「誕生日、覚えててくれたんだ…!」
そう思うと、涙が出て来た。
「えっ、泣いてるのか…?」
「確かに、泣いていますね…」
涙がこぼれると、ヒゥリーがハンカチを「使ってください」と、言って私に貸してくれた。
涙をハンカチで拭くってヒゥリーに「ありがとうございます」と、言って返すと、赤い三匹の魚を取り出した。
見る限り、この魚たちは今もぴちぴちと袋の中で跳ねていて、つい先ほど取ってきたような魚。
「どうします?これ」
「ここで食べるか?」
「お茶会台無しじゃないですか?それって」
っていうか、何で魚何だろう?
でも、誕生日をディアに祝われたことが一番うれしい。去年は祝われなかったから・・・
ありがとう、ディア。
その後、カオルトとヒゥリーに一匹ずつ渡して、お茶会は終わった。そして、カードの裏にはなぜ魚なのかが書いていた。
『その魚の名前はタイ。めでタイ!めでタイ!!・・・なんちゃって』
ふふっ。
・・・・・・
・・・・・・
お茶会からルニアの部屋に逃げてから二日が経ち、今日はカランコエ陛下とプロテア陛下の対面の日。
もちろん、その対面に俺は・・・出席出来ない。
今まではずっと陛下たちと関わっていたが、あれは、ルニアの秘書ということで関わっていただけ。
俺はカランコエ陛下の秘書でもなければ、プロテア陛下の秘書でもないので、その対面に俺は出席出来ない。
俺はカランコエ陛下をスカシユリ王国に連れてくると、早々に部屋から追い出された。そのため、俺は今スカシユリ王国じゃなくてメアロノロス王国に居る。
これでも、十八歳になるまではルニアの秘書となっている。特に仕事はないが・・・
ルニアの秘書と言っても、国王になっていないルニアには仕事がない。あるとすれば、少ない事務仕事をだけ。俺はそこにお茶を出したりなどの仕事をするだけ。
この仕事にはやりがいが感じない。・・・また、どこかの国に行ったりしないかな?
まぁ、でも、仕事がない日はクルミナに行ってクルミナ学生たちに魔法を教えている。もちろん、俺の妹であるラノアには一番熱心に教えている。
ラノアは青目で、俺の教えたことをすぐに理解してくれるので、俺の魔法知識を次々に教えられてとても教えがいがある。
今日はルニアに仕事はないので、俺の仕事もない。そういう日はクルミナに行く。
「では今日は、聞くだけで心が惹かれる人もいるだろう『爆裂魔法』について教えます」
「「「「「はい!!」」」」」
俺が授業をしているクラスは、俺がかつていたAクラス。そのため、超人の生徒も居る。
この学年は三年だが、水目の超人なら魔力は50はあるだろうし、Aクラスは最上のクラス。爆裂魔法を使えなくても、豆知識程度に知っていたら自慢出来るだろう。
俺たちは今、学園の転移の魔法陣で『魔法空間』に来ている。
この転移の魔法陣は、ダンジョンで見た魔法陣と同じ。この転移の魔法陣は、ルニアが生徒会長の時に設置された。だから、俺たちが四年の時。
なぜ設置したかというと、俺がより良く魔法開発が出来るようにということらしい。これが、学園長に通るのかと思ったけど、なんかすんなり通ってしまった。
そして、その転移の魔法陣は、俺の魔法開発の場だけでなく、こういう威力が強い魔法の授業やクルミナの祝い事などがこの『魔法空間』の中で行われている。
学園長はこれを見越していたんだろうと、今となっては思う。
「まず、『爆裂魔法』について知っている人は手を挙げてくれ」
俺がそう言うと、二名が手を挙げた。しかも、その手を挙げた二名はどちらも水目。
「じゃあ、種類は何種類か、そして、その名前を教えてくれ」
俺がそう二人に言うと、二人は顔を見合わせた。そして、そのうちの一人が答えた。
「爆裂魔法は一種類で、名前は『エクスプロージョン』です!」
ほぉ。爆裂魔法は五年で習う魔法だが、三年で知っているとは。だが、やっぱり、一種類と言うのか。
「あぁ、そうだな。一つは『エクスプロージョン』だ。だが、爆裂魔法にはもう一つある。なんだか分かるか?」
俺は二人だけでなく全員にそう問うた。だが、中々答えは帰ってこない。
三十秒ほど経った時、最前線に居たおとなしそうな女子がひっそりと手を挙げた。
「『エクスレーション』…」
「おぉ!知ってる奴が居たのか!そうだ。『爆裂魔法』には下位に『エクスレーション』、上位に『エクスプロージョン』という魔法がある」
俺がそう説明すると、周りから「うぉ!!!」と、興奮していそうな声が聞こえた。
しかし、本当に『エクスレーション』を知っている生徒が居るのは驚いた。クルミナでは、『エクスレーション』は魔力消費が50という少ない量から学生でも使えるので、『エクスレーション』を使わせないようにするために教えないというふうになっている。
俺は冒険者ギルドで会ったS級冒険者グループの魔法士に教わった。
この女子は誰から教わったのだろうか?・・・聴いてみるか。
「君はどうして『エクスレーション』を知っていたんだ?この魔法はクルミナでは習わない。しかも、三年じゃ絶対に習わない魔法だ」
俺がそう女子に聴いても、女子からは返しが来ない。
・・・これは、なんか、あれか?聴いたらいけないことだったか?
俺の授業が詰まっていると、周りで見ていた一人の先生がこちらに駆け寄って来た。あ、言うのを忘れていたが、俺の授業を受けているのは生徒だけでなく、後ろに居るたくさんの大人の先生たちも俺の授業を受けに来ている。授業参観の気分だ。
「ディア先生。この子のお父様はこの国の魔法士団の団長なんですよ。だから、お父様に教わったのだと思いますよ」
なるほど。なら、『エクスレーション』を分かっていたのも納得はいくが、子供に『エクスレーション』を教えるということは、この子は『エクスレーション』を使えるということか?
なら、この子は水目を持っているのだろうか?前髪が目を覆っていて見えない。・・・これも聴いてみるか。
「君は水目を持っているのか?」
俺は女子の顔が見えるようにしゃがんだ。そして、俺がしゃがむと女子は前髪を目が見えるようにしてくれた。
「!!」
「先生。私、先生と同じ、青目と水目のオッドアイなんです」
俺の目の前には、俺の目を鏡で映したような目を持っている女子が居た。




