31話 本物の王族の血
「ルニア様も急で申し訳ありませんでした」
今は、メアロノロス王国を出て少しの所。もう少しで森に入るところ。
「いや、卒業してからずっと暇だったからいいよ」
ルニアは腕を伸ばしながらあくびをし、カタリナにそう言った。こいつは本当に緊張感がないな…
「ルニア、これから行く所は戦場だ。殺されるかもしれないんだぞ?それなのに、暇だったからいいよってバカなのか?」
「俺が殺されそうになったら、お前が守ってくれるだろ?だったら、何も怖くないじゃん!」
・・・守らねえよ?
「ふふっ、ルニア様はディア様をとても信頼しているんですね」
カタリナは笑いながらそう言うとルニアは・・・
「そりゃ、ルニアは俺の秘書だからな!!」
秘書になるにはその人からの強い信頼がないといけない。強い信頼があるからこそ全てを任せられる。
ルニアはそう言って俺の首に腕を回しながら、俺とカタリナでかなりきつきつの向かい列に無理やり入り込んできた。
「お前!この列に3人はきついだろ!!」
もちろん、2人できつきつなのに、それが3人になると全員と身体が当たる。俺はルニアの勢いに押されてカタリナにめちゃくちゃ当たっている。
ここで物理障壁を使ったら、ルニアは馬車の壁と俺の物理障壁で体が押しつぶされるだろうから、使えない。
だが、俺の頭がカタリナの当たってはけない部分に当たってしまっているので、どうにかしてルニアをどかしたい。
カタリナは顔を少し赤くして俺たちを見ている。目をつぶってくれ、カタリナ!こんな、俺たちを見ないでくれ!
「ルニア、もしこれ以上押して来たら、俺の全力を持ってお前を押し返す。いいのか?お前の身体が押しつぶられて死ぬかもしれないぞ」
ルニアは「俺の全力」と聞くと押してくる力を弱めて、「死ぬかもしれない」と聞くと向かいの席に戻って行った。
やっぱり、俺のことを知っている人には脅しが一番効くな。俺を知っている人は、俺の『力』を知っているということと同義。
「はぁ…はぁ...」
ルニアがどいてくれたおかげで元の定位置に戻れたが、横にいるカタリナが、こう言ったら悪いがすごくエティー声を出していて気まずい…
この無言の馬車内でカタリナのエティー声だけが聞こえてくるのは気まずいので俺はルニアに話を振った。
「ルニアっていつアキレア王国に行くこと知ったんだ?」
「昨日、部屋に戻った後ルリイから聞かされたぞ」
本当に急だったんだな…
「・・・カタリナ、メアロノロス王国にはどうやって来たんだ?」
落ち着いてきたカタリナに俺は聴いた。国の上層部ではナノハさんのことで手がいっぱいらしいから、カタリナに気を使っている場合ではないと思う。
「はい、もちろん、私のために馬車を出してくれるわけでもないので、置手紙を残して、たまたま来ていた商人の馬車に乗せてもらい、メアロノロス王国まで来ました」
おぉ、それは運がいいな。っていうか、一国の王女が置手紙を残していなくなったら、余計に国が大変になるんじゃないかなと思うが、カタリナはそれを分かって来ているんだろうな。
「でも、馬車の1台くらいは王女なんだから出るんじゃないの?」
「養子は本当の王族じゃないので、本物の王族であるナノハを探すのが最優先なのです」
ルニアは「嫌な奴らだな」と言ったが俺は国の上層部のやり方も分かる。やっぱり、本物の王族の血というのは大事な物だから。
「俺がメアロノロス王国に居ることを知っていたのか?」
「いえ、全く知りませんでした。私は今日、初めてディア様の存在を知ったので」
そんなこんなで色々と話をしていると周りの景色が木ばかりになり、森に入ったことが分かった。
アキレア王国にはカタリナの情報によると、計1週間かかるらしく、1、2日は森で野宿をして、3日目では小さな村にたどり着くらしいのでそこの1泊する。
そして、4、5、6日は野宿で7日目にアキレア王国へ着くということらしい。
俺は『空間転移』があるので野宿しなくてもいいのだが、ルニアにそれを言ったら「俺の初めてを奪うつもりか!!」と、リビングに居る時に大声で言われて周りの人からの目線が辛かった…
違う、違う!ルニアの言っている「俺の初めて」は、「野宿という初めての体験を何故させてくれないんだ!」という意味の俺の初めてを奪うことだ!と、説明して何とかなった。
なので、俺たちは野宿をすることが決まっている。どうせ、俺が見張りをする羽目になるんだろうか…いや、なるんだろうな。




