最終話 オッドアイでよかった
『トゥルホープにも自我ってあるんですよね?』
『もちろん。虹目は能力が大きい分、自我が芽生えるのが早い。トゥルホープ本人と話すのも、そう遠くないと思うぞ』
『それは楽しみですね。できれば、ルニアのバカを受け継がないでほしいですが』
ルニアは基本バカ。それが、戦闘になると急に顔付きが変わるものだから、そのギャップを楽しんでる奴が何故か多い。ステナリアやナノハさんもその内の一人。
でも、大国の王があんなに緩かったら人気が出るもの分からなくない。
普段から堅苦しい王より、緩い王の方が良い。しかも、大事な場面で頼りになるなら尚更。
そういえば、ルニアって今、何してるんだろう?愛しの息子に会うために頑張ってるんだろうけど。
よしッ。ルニアとナノハさんに、怪我一つない元気なトゥルホープを見せるために『空間転移』で、王城へ行こうかな?
すでにアルスが、戦いの終了を向こうに言っているだろうから、俺が行っても驚かれたりはしないだろう。
そして、ようやく地面に足を付くことが出来た。こうして地面を踏むと、改めて大地の有り難さを感じた。
「ィ゙ッ!・・・足捻ったんだが」
ずっと、飛んでいたせいで歩き方がおかしくなっている。
「ディア!」
「ッ!ステナリィィ゙ァ゙ァ!」
後ろからステナリアの声がしたので振り返ると、ステナリアが首に腕を巻いて抱きついてきた。
ヤバイ。今まで戦っていたからか、勝って気分が高揚し過ぎてるのか、この人生で味わったことのないような威力の首絞めをされている。
首を動かしてアバラをヒジ打ちしようと試みているが、足の使い方を忘れて踏み込めず、全然威力がでない。普通の人なら痛いと思うだろうが、ステナリアにとっては痒いとしか思ってない。
何度もギブと言って、何度も締め付けている腕を叩いているのに、力を緩めるどころか強くなっている。
なんで、戦闘後の方が死にそうになるんだッ。
ドラゴン百頭、千頭よりも、こっちの方が断然怖い。俺にとって、ステナリアとはそういう認識なのだ。
「ステナリア!そのくらいにしないと、世界を救った英雄の旦那様が死んじゃうよ!!」
「エッ?」
インポターナのようの声が聞こえ、ようやくステナリアと目が合った。そして、俺の苦しいという感情が籠もった目を見て、ステナリアはすぐに首から腕を離してくれた。
ありがとう。インポターナ。
「スゥ、ハァ~。・・・ステナリア、今すぐルニアのところに行くぞ」
「えっ。でも、赤目の私が今、ここを離れると大変じゃない?」
「それはそう。でも、メアロノロス王国には光目が少ないだろ?トゥルホープを産んで、攻められて、怪我人が居るかもしれない」
決して、疲れてルニアの所にあるソファで一休みしたり、執事さんの淹れてくれた紅茶を飲みたいわけではない。
親友の国を助けるのも、オッドアイとして当然の責務。まぁ、俺が助けるわけじゃないけど。
ステナリアは俺の瞳をじっと見つめてきたが、分かったとすぐに返事をしてくれた。
そして、ステナリアと手を繋ぐ。
「『空間転移』」
・・・・・・
・・・・・・
「ルニア居る?」
そう言って、トゥルホープが誕生した時に、これからについて話し合っていた会議室のドアを開けた。
初めは王城の外に転移しようと考えていたけど、何故か嫌な予感がしたので、王城内に転移した。俺は親友権利で、何の連絡の無しでも王城内へ入ることが出来るから、断じてこれは侵入ではない。
そして、会議室には誰もいない。
すると、この人生どころか前世ですら嗅いだことこない、とてつもなく食欲をそそる匂いがしてきた。
それは、ステナリアも同じ
「ステナリア、行ってみるか?」
「えぇ、行きましょう」
俺たちは走った。先程までの変な歩き方が急に治った。
目指すべき場所は調理場・・・ではなく、ルニアの着任式で使ったパーティー会場。そこに、この匂いをまき散らしている料理がある。
一応、俺たちは貴族と王族という地位に居るから、高級食材をよく食べた。俺の場合は、とてもとても舌が肥えていたから、数多の高級食材を食してきた。俺は最強と食通で知られているからな。
が、そんな俺たちでも嗅いだことのない初めての匂い。さっきから、腹の鳴りが収まらない。
これは、俺が追い求めていた、竜の胃の下にある謎の部位・・・「バイガレオ」なのではないか!?
走っていると、パーティー会場の扉が目に入った。俺とステナリアは、一秒も無駄にならないように扉を勢いよく開けた
「ん?・・・エッ!?なんで、二人がここに!?それに、トゥルホープ!元気だったか?」
そこには、白い大きな物体があり、これが俺たちを誘惑してきた匂いの原因だと分かった。
「おい、ルニア。俺に黙ってバイガレオを食おうとは、いい度胸じゃないか!」
俺はそう言いながら詰め寄ると、ルニアは笑みを浮かべた。
そして、ルニアの目の前まで来ると、目にも見えぬ早業で、俺の口に何か入れてきた。
すると、体に力が入らなくなり、いつの間にか床に倒れていた。
この味は・・・まさか・・・・
「バイガレオだ!ディアが狩ってくれたファイアドラゴンのを使っている」
俺はこの瞬間、これまで恨んだことの方が多いんじゃないかという神に感謝した。このような食材を生み出してくれたことを。
そして、この世界に転生させてくれたから、前世にもないような美味である「バイガレオ」を食すことができた。何より、この世界で青目と水目のオッドアイとして産まれたからこそ、食せる味。
中々に苦しい世界ではあった。楽しいことも多かったが、それ故に苦しいことも多かった。
俺の行く先々で死んでもおかしくないこと起き、その度に俺がMVP級の活躍をした。戦闘経験がない俺が、この世界で生きていけるのかを考えた時期もあった。確か、一歳くらいの時。
こうして、ファイアドラゴンを倒したのも、あのドラゴンの大群相手に勝ったのも、今、バイガレオ食べれているのも、オッドアイで産まれたから。
あぁ、オッドアイでよかった。




