172話 父と娘
めちゃみじ
『・・・ハハ、ここまでか』
ご自慢の体には『レイ』の貫通跡が三つ、羽も右羽は動いているが、左羽は完全に機能を停止し、ファイアドラゴンの族長はその場で飛び続けるのがやっとの状態。
だが、ディアは流石、ファイアドラゴンの族長だなと感心していた。
この世界に転生してきて、一番というくらい頭を使っているのに『レイ』が全然当たらない。これだけ狙っている所に命中しないのは初めてかもしれない。
青目を駆使して、先読みで撃ったり、誘いだして撃ったりといろいろ考えて撃っているにも関わらず、肝心の頭をギリギリで避けられる。
ファイアドラゴンの族長の他に、スノードラゴンやストームドラゴンの族長ももちろん居たが、ファイアドラゴンの族長は別格。
重力過多で攻撃速度が低下して、判断力低下で戦闘経験や勘などが働かない。そして、これだけボロボロで、生命力低下を付与していても生きているその生命力。これら全てにデバフが掛かっているんだから、もし正々堂々デバフなしで戦っていたら絶対に死んでいた。
本当に神様様々だ。・・・この言葉、言い辛いな。言い直そう。トゥルホープ様々だ。
『おい、僕が掛けたこと、忘れてないよな?』
『そりゃ、忘れてませんよ。ファスター様もありがとうございます。でも、トゥルホープがルニアとナノハさんの間に産まれてきたのが、一番大きいでしょ?これがもし、ワーダストやヤマモエッジで産まれていたら・・・』
『おいッ!嫌な想像をさせないでくれ!』
ドラゴンを前にして、こんな笑って話せるのはディアだけだろう。そして、そんな脳内で笑っている俺たちに、ファイアドラゴンの族長は言った。
『今、ファスター様と何を話しているが分からないが・・・ヴァレタスが認めた男というのは、やはり強いな』
『ッ!そういえば、ヴァレタスはどこに?この戦いには居なかったようだが』
『分からん。あいつは、我々が嫌いだからな』
俺は『魔法空間』から、竜笛を取り出した。すると、ファイアドラゴンの族長が突然笑い出した。
『ふっ、ハッハッハッ!まさか、その笛を持っているとはな!・・・お前は、その笛の意味を知っているか?』
『意味か・・・仲間の証とか?それとも、相棒の証?』
『まぁ、それも合っているな。だがそれの本当の意味は、服従の証だ。笛の効果は呼び出すだけだが、抗うことが出来ない。どんな時でも、必ず笛の保持者の所へ行く意思表示』
そう言ったファイアドラゴンの族長は、段々と右羽の動きが弱くなる。
『やはり、娘が認めた男に、父親は勝てないな。物理的にも、心理的にも』
その声は、今まで深く、重く、怖かったのが、柔らかくなった。そして、そう言いながら、右羽も機能を停止し、地面に向かって落ちていった。
俺はその光景を上から見ながら、深く息を吐いた。
息を吐いたからか、緊張から解放され、掛けていた身体魔法が勝手に解けた。それでも、トゥルホープを守っている『物理障壁』は解けなかった。
『ファスター様、終わりましたね』
『あぁ、そうだな。虹目による負の連鎖を止めることが出来た』
『セトラ様はどうしてますか?』
『ハハッ、セトラは感動して泣きまくってるよ』
セトラの状況を伝えるファスターも、声が若干震えている。
まぁ、ファスターは虹目の不幸を二度も経験しているから、泣くのも無理ない。
『じゃあ、帰りますか。地上へ』
『あぁ、そうだな。足が地面に付きたくてうずうずしてるよ』
『それは俺のセリフでしょ。あなたは当分、抱っこ生活ですよ』
そんな会話をしながら、俺たちは地上へ落ちた。
かい




