169話 黒目の街
何とか三日・・・
上空千メートルにディアとトゥルホープ、黒目の街の入り口にカランコエ陛下とネルネラ。それに遅れて、アキレア王国からケトラセスとロジック、魔法王国ヤマモエッジからマルドーヌ率いる魔法師団とネルネラ率いる騎士団。
そして、その黒目の街の中では・・・
「アルス様!ここに居る人たちは全員救出できました!!」
「アルス様!こちらも全員救出完了です!!」
土魔法で作った高台から水魔法でファイアドラゴンの炎を消化しているアルスにそう報告したのは、かつて四国最強決定戦の魔法戦だ一回戦にて、ディアと戦ったエルフのルナギアとマジリカ。
ワーダストが野菜や果実の生産量が世界で最も多いのは、千年前に獲得した領地を農地にしているから。そして、その農地を耕すのは黒目の街に住む黒目の人びと。
その広大な農地を黒目の人たちは耕すため、黒目の人口が多くなり、黒目の街はとてもは大きい。
今、アルスたちが救出した人々は街に住む黒目の全体の一割にも満たない。一先、自分たちから近い被害が大きい所から救出している。
だが、黒目の街の人々全員を救えるわけではない。
現にアルスたちの目の前には、亡くなっている黒目の街の人々がたくさんいる。
黒目の人たちにも装備はある。だがそれは、貴族たちが剣の練習や試合等で使い古されたボロボロの革の装備。そしてそれは、所々破れており、守ることなんて考えていない、ただ側だけの装備。
だが、全員が革の装備を持っているわけじゃない。
痩せ細った体、栄養不足から来る疲労感や筋肉量の低下により、黒目の街の人々は逃げる体力は無く、抗う戦闘力なんて無いに等しい。
アルスたちが救出している場所は、黒目の街の入口に近い。
更に奥には、ファイアドラゴンとストームドラゴンの二頭が今も、広大な黒目の街を襲っている。
「ルナギア、マジリカ。これじゃあ埒が明かないわ。・・・やっぱり、元凶を倒さないといけなさそうね」
「しかし!ドラゴンなんてすぐに倒せるわけじゃありません。その間にも、助けられる命がたくさんあります!」
ルナギアは四国最強決定戦でディアに敗北してから、人間という生き物を意識している。前までのルナギアなら、アルスの意見に賛成していただろう。
ルナギアの言葉にアルスは微笑み、答えた。
「大丈夫。もうすぐ、たくさんの援軍さんがここに来るわ。黒目の救出はその援軍さんたちに任せましょう」
アルスがそう言い、視線を右に向けた。
それに合わせ、ルナギアとマジリカもアルスと同じ様に右を向いた。
そこには、大きな大剣を背負って走る大柄な男性と銀色のレイピアを腰に携えて走る女性。
そしてその後ろからたくさんの兵士たち。
「アキレア王国の国王さん。後は頼みましたよ」
アルスはカランコエ陛下に向けて、確かにそう言った。
お互いの姿もほとんど見えず、その言葉が絶対に聞こえないような距離に二人は居る。
「あぁ。任された」
それでも、カランコエ陛下はアルスにそう返し、アルスはカランコエ陛下の言葉をちゃんと受け取った。
戦場で姿が全く見えなくても、言葉が聞こえなくても伝わる。こういう常人ではできないことが出来るのが本物の強者というものだ。
「さぁ、ドラゴン退治に行きましょうか。あの子たちも頑張ってることだしね」
・・・・・・
・・・・・・
黒目の街に入ってからは走る速度を落としている。アルスからのカランコエ陛下は、ネルネラに尋ねた。
「あなた方の王は今どこに居られる?姿が見れないようだが」
「さぁ?私たちの王は自分勝手な人だからね」
そう言うネルネラだが、その言葉を言う割には嫌な表情を見せない。
短い時間だが、ネルネラは顔や言葉に出やすいと分かった。
「そう言う割にはだな」
「まぁ、自分勝手だけど国の発展に力を注いでるし、あの人のおかげで今の私はあるから」
ネルネラはそう言うと、腰に携えているレイピアを抜いた。
「『ウィルド』」
レイピアの剣身を人差し指と中指でサッとなぞり『ウィルド』を付与した。そして、自分たちの道を塞いでいる炎に向かって、レイピアを突き出した。
その瞬間、剣身の剣先から『ウィルド』と同じ魔法が放たれた。そして、その『ウィルド』は通常の『ウィルド』よりも範囲、威力が高かった。
「すごいものだな。付与という魔法は」
「これだけが私の武器だから」
「先程の抜きからの突きも大したものだと思うがな」
「私に剣を扱う才能なんてない。こんなのは練習次第で誰でも出来る」
そう言ったネルネラは、付与した時と同じ様に剣身をサッとなぞった。そして、緑に光っていた剣身が元の銀色に戻り、鞘に納めた。
鞘に納めると同時に、遅れていた兵士たちがカランコエ陛下とネルネラに合流した。
「さて、ここからは各地に分かれて行動するぞ。俺は一人で、ケトラセスとロジックは二人で。ヤマモエッジ側はそちらに任せる」
カランコエ陛下はそう言いながらスマトを見た。
「はい。お任せください」
スマトの返事を聞いたカランコエ陛下はとうとう、背中に背負っている相棒の大剣デルワイスを手に取った。
「武運を祈る」
カランコエ陛下はそう簡潔に言った。




