168話 上位互換
頑張ったよ。
俺の放った『レイ』は、順調にまず一頭目の脳を貫いた。そして、続いて二頭目の脳を貫こうとすると、ドラゴンたちは避けるために上空へ避難しようとした。
ふっ、やっぱり青目は優秀だな。
そう心の中で思うと、二頭目の脳も貫き、三頭四頭五頭目のドラゴンの脳も貫いた。ドラゴンたちが焦っているのが分かる。
そりゃそうだ。避けるために上へ逃げているのに、その逃げた所ドンピシャで脳を貫いているんだから。
これが、俺が斜め上に『レイ』を放った理由。
ドラゴンは避ける時、下に行くより上へ行くほうが早く動けるから斜め上に放てと・・・俺の青目が導き出した勝利への道。
自分たちが世界最強とか豪語してる奴を、弓で縦に移動する小さな輪に連続で矢を通すようなスゴ技で倒すこの快感。マジで気持ちいい。
『『『貴様ァ!!!』』』
快感に浸っていると、真上から太く重なった声が聴こえてきた。
チッ。俺の優雅タイムを邪魔しやがって・・・
人差し指の指先に魔力を込めて『レイ』の準備に入る。しかし、時間がない。
俺は『レイ』の準備に入ってすぐ、『ウィルド』で斜め後ろに下がって、ドラゴンたちのクロー攻撃を避けた。
そして、青目の技である「青目が導き出す勝利への道」を再び使用して、『レイ』で三頭のドラゴンの脳を貫いた。
マジか・・・
二秒くらいしか魔力を込めてないのに、三頭の脳を貫けちゃった。
魔法バフで魔力の流れがスムーズになってたり、魔法能力が三倍以上アップになっているのもあるけど、こんな簡単にドラゴンって貫けるものなのか?
『ふっ、どうだディア?僕の掛けたデバフというやつは。すごいだろ!』
『・・・ドラゴンたちにどんなデバフを掛けたんですか?』
『あ〜、確か・・・防御力低下、攻撃力低下、生命力低下、判断力低下、重力過多、回復不可能とか、取り敢えず思いつく限りのデバフを掛けてみた』
ファ、ファスター!?いや、これはもう・・・
『ファスター様。様復活おめでとうございます。やはり、あなたは神様です』
やっぱり持つべきものは神様だな。
俺が高望みと思っていたデバフの効果や種類のひと回りもふた回りも違う。
防御、攻撃を低下させるだけでも満足なのに、更に四つのデバフを掛けるのはもう神の業と言うほかない。
『ふふっ、これが神の本気だよ。ディア君』
『一生付いて行きます!ファスター様!!』
そうファスター様に答えると、俺は勝ちを確信したからか、両手の人差し指の指先に魔力を込めて『レイ』を準備すると、ドラゴンたちの居る所居る所に『レイ』を放ちまくった。
・・・・・・
・・・・・・
ディアが上空千メートルで、五十頭のドラゴンたちと戦っている時、地上では・・・
「もうすぐで黒目の街だ!急ぐぞ!!」
カランコエ陛下はそう言うと、今でも速かったのを更に速くして走り出した。
「ちょ、ちょっと!速すぎるって!!」
そう文句を言いながらも、自分の最高速度に合わせてきたヤマモエッジの騎士団長ネルネラをカランコエ陛下は見直した。
態度がデカいだけではなく、ちゃんとそれに見合った実力を兼ね備えている。
「死ねぇ!!」
前方から正々堂々とカランコエ陛下に向かってくる重装備のワーダスト兵士を、カランコエ陛下は左手をギュッと丸めて薙ぎ払った。
ネルネラは魔法王国のヤマモエッシで生まれ、育っただけあって魔法の知識はそれなりにある。
それに、騎士団長という立場上、ワーダスト兵士が着ている重装備が「物理防御」と「魔法防御」の付与されたものだと知っている。
付与能力は付与する人の魔法練度によって代わり、自分もレイピアに付与して戦うから付与という魔法には詳しい。
今カランコエ陛下が倒したワーダスト兵士の着ている重装備は自分ほどではないにしろ、かなり魔法練度の高い人が付与したものだと分かる。
そんな装備を背中に背負っている大剣や身体魔法を使わずに、自分の素の拳の力だけで倒すカランコエ陛下に驚いた。
「あんた、本当に国王?」
「アキレア王国のような戦闘の血が入った国を治めるには、国王が皆を上回る力を持たないといけないからな」
「・・・大変なんですね。王の家系に生まれるって」
そう言うネルネラにカランコエ陛下は思った。
「不安だったけど、ちゃんと会話できるんだな」
笑いながら言うカランコエ陛下にネルネラは怒りながら返した。
「はっ?そりゃ出来るに決まってるでしょ!?」
「いや、ディアとの会話を見てるとね・・・」
「ッ!そ、それは、私がディアのことが嫌いなだけだ」
カランコエ陛下はそう答えるネルネラの顔を見た。
「ディアはいい男だぞ。・・・まぁ、才能に溢れすぎているとは思うがな」
カランコエ陛下が苦笑いしながらそう言うと、ネルネラは苦い顔をした。
「あいつは、私が欲しかった物、そして私が持っている以上の物を全て持っている」
ネルネラは思い返す。
魔力が少ないながら、青目で魔法を巧みに使いこなすネルネラは神童を言われていたが、突然自分の前に現れたディアという少年の前では赤子も同然だった。
水目から来る魔力という圧倒的な力に加え、魔法を自分以上に使いこなし、自分と同じ青目で、皆から慕われている。完全に自分の上位互換だ。
そして、これは後から聞いた話で、家は王族の秘書という家系だが、その地位は公爵家と同じ。
才能、人柄だけじゃなくて家柄も自分の上位互換。
そりゃ嫉妬の感情が生まれるのも仕方ない。
でも、この経験のおかげで付与というネルネラにピッタリな魔法に会えた。そして、今では騎士団長という地位に至った。
それでも、あの時の屈辱というものは忘れられない。ディアに負けて、地面に這いつくばっている自分を見る皆の視線は今でも鮮明に覚えている。
カランコエ陛下とネルネラは、お互いの武器に手を掛ける。
「ディアの愚痴はこの後たくさん聴いてやる。この戦いを終えたらな」




