148話 口説くなんてするわけないだろ!?
『それにしても、俺が二千年前に生まれて、セトラが千年前に生まれて来たなんてよく分かったね?』
『まぁ、あの赤目の竜の反応でも分かるんですが、ファスター様は赤目の竜にセトラ様のことを紹介していましたよね?だから、ファスター様の方が上だと思ったんですよ』
俺はそう言うと、光の粒子となった赤目の竜を操縦していた女性の所へ向かった。
頂上から飛び降り、着地とギリギリで『ウィルド』を使う。普通に飛び降りたら、地面から三十メートルはあるので、確実に死ぬ。
でも、飛び降りている時は、すごく風が気持ち良かった。
地面に着地して、まだ、天へ昇っていない光の粒子の中で、横座りをして、顔を下へ向けている女性の操縦士。
俺は念のため、『魔法空間』にあるものを放った。
「この竜、自分からお腹の傷を見せたと思うんだけど、あなたの仕業?」
「・・・いや、あれは、あの赤目の竜自身で行った行為だ。俺はただ、赤目の竜の指示に従っただけ」
「指示?」
「あぁ。腹の傷を俺に向けるから、狙ってくれって指示された」
俺は操縦者の女性とこのような会話をすると、『拘束魔法』を使った。
そして、操縦者の女性は何の抵抗もすることなく、俺の『拘束魔法』に拘束された。
それに、ちょっと拍子抜けした俺は、ゆっくりと拘束されている操縦者の女性に近づいた。
「・・・死ねぇ!竜殺し!!」
俺と操縦者の女性の距離が一メートルになると、操縦者の女性が拘束されている拘束縄を両腕で引きちぎると、俺にそう言って詰めて来た。
そして、そこで初めて見えた操縦者の女性の顔、そして目。
その目は赤目だが、俺の知っている赤目より濃いような気がする。だが、赤目だからという理由で拘束縄を引きちぎれたわけではない。
「演技が上手いな。やっぱり、ワーダストはそういうのを仕込まれるのか?」
詰めて来る操縦者の女性にそう言うと、操縦者の女性は赤目の竜に刺していた太い針を俺に振りかざそうとして来た。
でも、そこは青目と水目のオッドアイのディア・シュラストである、俺の前準備が輝く。
俺は操縦者の女性に向けて『魔法空間』を開くと、俺が先程『魔法空間』に放った『拘束魔法』の拘束縄が、再び操縦者の女性を拘束した。
そして、急に拘束されたことでバランスを崩した操縦者の女性は地面に倒れて、振りかざそうとしていた太い針を手放した。
「拘束を解け!ワーダストをバカにした奴は死刑だ!!」
操縦者の女性は地面に倒れながら、先程よりも赤目を濃くして、俺にそう言ってきた。
「いやいや、俺はワーダストをバカにしたんじゃなくて、ワーダストの演技力を褒めたつもりなんだけど・・・」
実際、操縦者の女性が拘束縄を腕の力で引きちぎるという演技も、本当は持っている付与された太い針を、赤目の力で拘束縄を切ったという事実を見抜けた者はほぼいないだろう。
それに、昔と言うほど昔ではないが、過去に『変身魔法』を使って、子供の姿に変身したワーダストの青目に殺されかけたし。
俺がそう言うと、操縦者の女性は今までの勢いが急に無くなり、濃くなっていた赤目が俺の知っている赤目の色に変わった。
そして、操縦者の女性はワーダストを褒められたからなのか、照れている。
今の俺の状況は、「照れている女の子を拘束している」という変態がしていそう状況になってしまっている。
今すぐにでも、この現状から脱したいのだが、やめられない理由が俺にはある。
それは・・・
「可愛い…」
「ッ!?」
そう。可愛いのだ。
赤目の竜を操縦していた時は顔が見えなく、先程までは顔を下に向けていたり、操縦していた女性がキレていたりしていて、素顔が見えなかったのが、ワーダストを褒められて操縦者の女性は素顔を見せてくれた。
いや、キレている時の顔も整っているな~と思っていたから、素顔が可愛いのは分かっていた。
赤い髪に赤目が良く似合っている。
でも、こんな女性が五センチもある太い針を赤目の竜に刺したり、俺を刺そうとしてきたと考えると、やっぱり、この女性は危険だ。
俺は照れている操縦者の女性を拘束縄で、王城へ連れて行こうと振り向いた。
「あっ・・・ういっす」
俺はそう言って、この人の横を通り過ぎようとした。だが、俺の考えはそう簡単に通じない。
「お"い"、誰を口説こうとしているのか分かってる?戦争相手の女性を口説こうなんて・・・」
うわ~、最初の「おい」エッジがよく効いてますね!ステナリアさん・・・!?
「口説く!?いやいやいや、そんなことするわけないだろ!」
俺がそう言っても、ステナリアの汚物を見るような目つきは変わらない。本当に口説いてなんかないぞ!?
「じゃあ、「可愛い」っていう言葉はどういうこと?それに、なんでその女性はそんなに照れているのか、説明してもらえるのよね?」
「・・・えっと、ステナリアさん?何時から見てたのかな?」
俺がそう聴くと、ステナリアは笑って答えた。
「『ずっと』・・・って言っても、赤目の竜が光の粒子になったところからだけどね」
「・・・いや、ほぼ『ずっと』ですやん」
俺がそう言うと、ステナリアは「着いて来て」と言っているような雰囲気をまといながら、王城へ帰って行く。
俺はそんなステナリアの後姿を見ながら、こう思っていた
「勝ったな」
ステナリア、自分から勝ち道を譲るとは・・・
ステナリアの先程のセリフから『ずっと』見ていたということが分かった。
そして、ずっと見ていたのなら、操縦者の女性が何時、照れ始めたのか分かっているはず。なら、俺の「可愛い」という言葉で、照れているのではないことが分かっているはずだ。
俺は内心では勝利を確信しているが、現実ではステナリアの圧に逆らうことが出来ずに、拘束縄で操縦者の女性を引っ張りながら、ステナリアの後ろを追うように、王城へ入った。




