143話 戦争の始まり?
耳垢回
会議室では、トゥルホープを殺そうとした民たちが「トゥルホープ親衛隊」となった時、ある一人の者を追って会議室を出たディアは・・・
「お前は確か・・・スカシユリ王国にワーダストの人員として来た赤目か?」
「あぁ、そうだ。覚えていたのか。まぁ、でも、今回は戦闘をしに来たわけじゃない」
「じゃあなぜ、トゥルホープを狙った?・・・俺を誘い出すためか?」
「あぁ。お前と話したいっていう方が居るんだ」
俺は今、ナノハさんの出産を発表した所で、スカシユリ王国にワーダスト人員として来た赤目の超人と話している。
俺は会議室を出た後、こいつを捕まえるためにずっとこいつを追いかけていたら、いつの間にか、この王城の頂上に来ていた。
途中で見失うことは何度かあったが、その度に索敵魔法を使っていた。こいつ、めちゃくちゃ足が速く、すばしっこかった。
そして、赤目の男は俺にそう言うと、男は自分の右耳に耳にはめている、前世で言うワイヤレスイヤホンのような物を俺に見せた。
これは、ワーダストの開拓組が耳にはめていた物とそっくりだ。
「見覚えがあるだろ?これは、ワーダストでは「シグナル」という物だ。耳にはめると、声が聞こえて来るというすごい物だ」
赤目の男はそう自慢げに言っているが、俺には前世でその「シグナル」とよく似た物を知っている。
だから、俺は「すごい!」とか「そんな物が!?」などといった、この赤目の男が求めていたであろう反応が出来ない。
そして、俺が求めていた反応を見せなかったので、赤目の男はため息を吐いて言った。
「はぁ、やっぱり、天才様はこのくらいじゃ驚かないか」
赤目の男はそう言うと、俺に赤目の男がはめていた「シグナル」を「自分の耳にはめろ」と言って来た。
「えっ、嫌だけど。何で、お前が今さっきまで耳にはめていた物を俺の耳にはめないといけないんだ?ほら、見てみろ。ここに耳垢が付いてるだろ。そんなものを付ける気になれない」
シグナル全体は白色で、その分、耳垢などがすごく目立つ。
俺が指摘した耳垢とは、普通じゃ見えないすごく小さな耳垢だが、身体魔法を掛けていると見えてしまった。もし、身体魔法を掛けていなかったら、耳垢が付いているのが分からなかった。
赤目の男にはそう言ったが、俺は正直、こんなに小さかったら特に問題はないと思っている。もし、耳垢が身体魔法を掛けずに、五ミリ、六ミリくらいの大きさなら、流石に無理。
赤目の男は俺の言葉を聞くと、「はいはい。そうですか」と言って、『ウォル』をシグナルに掛けた。
これに、俺は驚いた。
「そんな全体に掛けて大丈夫なのか?防水じゃないんだろ?そんなことしたら、壊れるだろ」
「えっ」
俺が赤目の男にそう注意すると、赤目の男はそう言って、すぐに『ウォル』を止めた。
そして、赤目の男はシグナルに向かって「聞こえてますか!?」と言うと、先程はめていた右耳にもう一度シグナルをはめた。
シグナルはイヤホンのような物なので、一メートル先に居る俺には何も聞こえない。
そして、赤目の男はシグナルからの返答を待っているが、返答が帰ってこないのか、顔色が悪い。だが、急に赤目の男の顔が笑顔になったと思ったら、最終的には悲しみと笑顔を足して割ったような顔になった。
これは・・・どうしてこんな顔になったんだ?
俺が赤目の男の顔について考えていると、赤目の男は耳にはめていたシグナルを再び俺に渡そうとした。
「声は聞こえている。だが、途切れ途切れだ」
まぁ、なんとなく分かったてたことだ。
俺は身体魔法を止めて、赤目の男からシグナルを受け取った。そして、俺は濡れているシグナルを『イグルス』と『ウィルド』を使って乾かすと、右耳にシグナルをはめた。
すると、途切れ途切れだが、男の声が聞こえて来た。
『お…がディア…な?…に…赤子を…こせ!よ…ないなら…戦争だ!!』
・・・はっきり聞こえたのは、「戦争だ!」の部分だけ。でも、この言葉の前に色々と言っていることから、何らかの理由で戦争になるのだろう。
まぁ、その何らかの理由はどうせ「虹目の赤子をよこせ」とかだろうな。そして、「よこさないなら、戦争だ!!」と言って、最後の「戦争だ!!」に繋がったのだろう。。
俺はその答えをシグナル越しの男に言った。
『お前たちワーダストに虹目の赤子・・・メアロノロス王国次期国王トゥルホープ・メアロノロスは渡さない』
相手にどう聞こえているかは分からないが、途中が聞こえていなくても最後の「渡さない」だけでも聞こえていれば、俺の言葉の意味は伝わる。
俺はそう言うと、耳にはめていたシグナルを赤目の男に返した。
「結局、戦争になるのかよ。まぁ、分かっていたことだが」
赤目の男はそう言うと、王城の頂上から飛び降りようとした。
・・・逃がすと思うか?
「脅威はすぐに排除しないといけない」
俺はすぐに身体魔法を掛けると、飛び降りようとする赤目の男の襟を掴んだ。赤目と言っても、空中では何もできない。
そして、赤目の男が自分の服をちぎって逃げようとしているが、俺は襟を掴んでいる腕を大きく振りかぶって、赤目の男を空中へ投げた。
赤目の男は逃げれると思って笑っているが、俺はそんな赤目の男の胸を『ウォルキーン』で撃ち抜いた。
『ウォルキーン』に撃ち抜かれた赤目の男は、そのまま下へ落ちた。
・・・卑怯だと思われてもいい。だが、戦争に卑怯も何もない。最後まで生き残った者が勝者なのだ。




