135話 夫の永久の仕事
「いや~、ディア。昨日のお前は最高だったな!」
ルニアはそう言いがなら、俺の背中を強く叩く。
「これからは、正座の訓練もしないとね。ディア?」
「いや、昨日の説教は別に、正座する必要はなかったんじゃないか?」
「姿勢を見せないと。「反省してますよ!」っていう姿勢をね」
ステナリアはそう言うと、シュラスト家に受け継がれてきた方法で俺が入れた紅茶を飲んだ。
昨日、ステナリアにおぶられて、二次会会場へ行くと、まぁ、俺とステナリアの予想通りに、俺のステナリアに背負われている情けない姿を見た、会場に居る全員は・・・大爆笑だった。
俺はステナリアの頭に隠れながら、この会場に誰が居るのかを見ると、俺のよく知っている人も居れば、会ったことはあるが、会話をしたことがない人たちも居た。
・・・これでよかったんだ。初対面の人が居ないだけで・・・
俺は会場に着いてもまだ、足の感覚を取り戻すことが出来なかったので、ステナリアにおぶられながら、ルニア、ナノハさん夫妻の近くに来た。
そして、これを見たルニアから「パーティーでのことは許してやる」と、パーティーでの暴露事件のお許しを頂いた。
でも、そう言ったルニアはすぐに、後ろを向いて、声を上げて笑った。
そして、横に居るナノハさんは、俺に笑顔を向けてくれているが、口元は笑わないように抑えていた。
こうして、二次会のメンバーが全員揃うと、パーティーの時のように、ルニアが「乾杯!」と言うのを合図として、俺たちの二次会が始まった。
この二次会は、パーティーのようにがっつりした料理が並んでいるわけではなく、女子たちがとても好きそうな、デザートが並んでいた。
二次会が始まると、主に女子たちがデザートを取り、男子は酒を飲んで、楽しそうに話している。
「取りに行かないのか?好きだろ?」
「夫を監視するのも、嫁の仕事。ディアが二日酔いでもされると、困る人はいるのよ?」
ステナリアは結婚してからは更に、お茶会の頻度を増やしている。
俺と結婚したことで、位が王族から公爵に変わったからだろうか?
お茶会の目的は、令嬢と仲良くなる目的もあるが、デザートを食べるという目的も入っているだろう。
「ステナリア。お前のダメ夫は私が監視しておくから、君は超超超大好きなデザートを取り行くといい。ここにあるデザートは、普通じゃ手に入らない物ばかりだぞ?」
すると、ルニアが右手に酒が入ったグラスを持ち、こちらへ歩いてくると、ステナリアにそう言った。
というか、「ダメ夫」って、酷過ぎないか?
これでも、結構頑張ってるつもりなんだが・・・
「本当ですか、陛下!?なら、夫は任せるので、デザートを取って来ます!!」
ステナリアはルニアにそう言うと、ナノハさんとラノアがデザートを取っていたので、その二人の所に向かった。
ステナリアが去ったこの場には、俺とルニアが残っている。
「誰がダメ夫だ。俺はダメ夫の中でも、最高級クラスのダメ夫だぞ?」
「いや、ダメ夫は認識してるんだ・・・まぁ、確かに、お前は最高級クラスの夫ではあるな」
ルニアはそう言って笑うと、俺に横に来て、壁にもたれながら、グラスに入った酒を飲んだ。
「俺と飲むのか?しかし、残念だな。俺は酒を止められているんだ」
俺は悲しい声でそう言うと、ルニアは笑った。
俺はそんなルニアに少しイラつくと、俺の目の前に、俺が求め続けていた酒が入ったグラスが現れた。
そして、そんな求め続けていた酒を俺の前に差し出したのは、ルニアだった。
「いいのか?ステナリアと約束してるだろ?」
「こういうめでたい日の夜は、親友と飲むに限る。ただ、酔うまで飲ませるつもりはないからな」
ルニアがそう言い終わると、俺はルニアから酒の入ったグラスを貰った。
そして・・・
「「乾杯」」
この「乾杯」は、大きな声でなくても、俺たちの間でだけ聞こえておけばいい。
俺たちは乾杯と言うと、グラスに入っている酒を一気に飲んだ。
「というか、今日が初めての初夜なのに、もうやっちゃったんだ。流石、ルニア陛下。手がお早いようで」
「なっ!でぃ、ディアはどうなんだよ?」
「俺?・・・気長に待つとするよ。まぁ、最低でも、親になるのは二十歳は超えてからだな」
俺がそう言うと、ルニアが逃げるかのように、「酒を持ってくる」と言って、酒が置いてある所に行った。
大国の国王を使いっぱしりにしている俺・・・これは、いいねぇ。
俺はステナリアの方を見てみると、ナノハさん、カタリナ、ラノア、ステナリアの四人で、楽しそうにデザートを食べている。
・・・やっぱり、ラノアだけは、あの場に似合っていないな。
でも、顔はすごく良いので、そこの部分だけはあの場に合っている。
「嫁が笑顔になると、嬉しいよな。分かる。とても分かるぞ。ディア」
俺がデザートを食べている四人の方を眺めていると、酒を取りに逃げたルニアが帰って来るなり、俺にそう言った。
「ステナリアを笑顔にしないと、スカシユリ王国全員に殺されるからな。俺は」
ステナリアはスカシユリ王国の民からすごく好かれている。俺なんかよりも何百倍も。
そんなステナリアを、もし、悲しませたりしたら、本当に殺されかねん。
「まぁ、それが、夫の務めでもあるからな。ディアも分かってるんだろ?」
「・・・いや、初めて知ったさ」
そんな会話をしながら、ステナリアたちの方を見ていると、俺たちの口角が自然に上がっていた。
そして、今に戻り、ステナリアとナノハさんが笑いながら、お菓子を食べているのを見て、また、俺たちは口角が無意識に上がっていた。




