130話 享年四十歳
・・・声が出ない。
『空間転移』は成功したが、転移するギリギリで、あの赤目の超人に右腕を思いっきり蹴られた。
そして、あの感覚は絶対に骨が腕だけでなく、右肋骨も何本か折れているだろう。
それは、とても痛かった。・・・でも、今までのように、叫ぶような声が出なかった。
ア"ァ・・・
俺は赤目の超人に思いっきり蹴られたせいか、脳が揺れている。
視界が何もしていないのにずっと左右に動いていて、焦点がずっと定まらない。
・・・気分が悪くなって来た。
「誰かいないのか?」と言いたいが、本当に声が出ない。というか、出し方が分からない。
俺は今、どんな姿なんだろうか。
いや、そんなの醜い姿に決まってるだろう。腹を二か所刺されていて、右腕も曲がったらいけない方向に曲がっているだろうし。
ア”ァ・・・
この感覚はなんだろうか?とても久しぶりの感覚だ。
痛い先を超えた、痛みを感じない感覚。
・・・あぁ、そうか。この感覚は、俺が前世で社長を守るために、心臓を刺された時の感覚によく似ている。
あの時も、背中を刺された時はとても痛かったが、心臓を刺されると、声が出なくなり、今まで俺を苦しめていた痛みが一気に無くなった。
そして、俺は死んで、この世界に転生した。
・・・そうか。この感覚は、死に近づいているという合図なのか。
この世界に生まれて十八年。
近年では、男の平均寿命が八十一歳となっているのに、何で俺は、この二つの寿命を足しても、平均寿命に行かないんだ。
前世と今世の人生を足すと、俺は四十年生きていることになる・・・平均寿命の半分も生きてねぇじゃねえか。
まぁ、でも、今世は楽しかった。
前世では数多居る人間の中の一人だったが、今世は数多居る人間の中の一割の割合で生まれる「超人」として生まれ、その「超人」の中の一割の割合で生まれる「オッドアイ」で生まれた。
そして、王族の秘書というすごい特殊な家系に生まれて、不自由なく過ごすことが出来た。
前世では履歴書に書くためだけに学校へ行っていたが、今世では学校へ行くと、皆から「一緒に遊ぼう」や「魔法教えて」など、とても楽しい学校生活を過ごした。
卒業してからは、一国の王女を救い、一国を敵から守ったり、ファイアドラゴンと話したり、クルミナ学園の臨時先生となったりした。
そして、シュラスト家当主になってからは、エルフたちと個人的な関係を結んだり、四国最強決定戦で優勝したりした。
どれもこれも、俺の記憶に深く刻まれている。
あぁ、今世は老衰出来ると思っていたんだがな。・・・やっぱり、最強でも、死ぬことはあるんだな。
もし、また、生まれ変われるとしたら、自分が最強だったとしても、自分の命を第一に生きようと思う。
ア"ァ・・・
この感覚も同じ。
痛みを感じなくなると、だんだん意識が保てなくなる。
あの時は、痛みを感じなくなってからすぐに、意識が保てなくなり、死んだ。でも、今は、痛みを感じなくなってから大分時間が経っても、意識を保っている。
これは、昔からステナリアの赤目の超人の攻撃を受けて来たおかげだろう。だから、ワーダストの赤目の超人の蹴りもこのくらいの怪我で済んだ。
ステナリアも、あんなことが俺の寿命を延ばすとは思わなかっただろう。
でも…もう…だめそうだ…
と人生を諦めて、そう思っていると・・・
「ディア!?」
とても、聞き覚えのある声が上から聞こえて来た。
その声の主は、俺の寿命を延ばしてくれた一国の王女。そして、俺の幼馴染。
「ディア!大丈夫ですか!?返事をしてください!!」
必死にそう言っているが、今の俺には、それに応えれる体の状態ではない。それは、ステナリアも分かっているだろう。
ステナリアに応えたくても、自分がどのように体を動かしていたのかが分からない。
「ディアに何かあったのか!?・・・!おい!大丈夫か!?」
そして、ステナリアに続き、プロテア陛下と父さんが現れた。
現れた父さんは、俺を見ると、俺の無事を確認したくてか、俺の体を揺らしたが、ステナリアに止められていた。
それでも、俺の体にしがみついたままの父さんを、ステナリアは赤目の超人の力で無理やり引き離した。
そう。俺はお前のその常人じゃ考えれない力のおかげで、今も生きている。
ないとは思うが、もし、ステナリアの回復魔法で俺がこの状態から、あの元気な姿に戻ったりしたなら、俺はステナリアにどれだけ感謝してもしきれない。
俺の命を延ばしてくれたくれただけでなく、死ぬ未来が決まっているような俺を救ってくれたんだから、本当に何をして返せばいいか分からない。
そして、プロテア陛下と父さんに続き、王城に居る者が集まって来た。俺の姿を見た者は、全員泣いている。
あ、そう言えば、前世での俺の死は、どうなったんだろうか。
山田社長は俺に感謝してくれただろうか?
そして、親戚は俺の葬儀をしてくれただろうか?・・・いや、してくれてないだろうな。全然関わりなかったし。
でも、今世は、こんな俺のために泣いてくれる人が居るのだ。これなら、俺も安らかに死ねるだろう。
誰にも見守られず、泣かれず死ぬよりかは、こうやって、皆に見守られて、皆が俺のために泣いている中、死んでいく方がいい。
この人たちなら、俺の葬儀もちゃんとしてくれる。俺の口角が少しだけ上がったと思う。
すると、ステナリアが俺の腹に向けて、手を大きく広げると、回復魔法を使い始めた。
でも、俺は意識が保てなくなり、目をつぶった。
享年十八歳。
前世と合わせると、四十年の人生が幕を閉じた。
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