129話 俺たちの大失敗
オッドアイの小僧が『空間転移』と唱えると、小僧の周りが光り出した。
これは、あの時も見た『空間転移』を使った時に出る物。
俺は苦しませながら殺すことなど忘れて、急いで殺すことに変更し、心臓へ狙いを変えたが、俺の振り下ろす速度じゃ、先に小僧の『空間転移』が発動するだろう。
クソがッ!!
何で、ここまでしたのに、オッドアイに負けるんだ!
・・・やっぱり、超人じゃ・・・いや、俺じゃ、オッドアイには勝てないのか。
また、あの時のように、負けるのか・・・
俺は届かないことを知っていながら、小僧の心臓を目掛けて振り下ろすと・・・「バキッ!」という音が重なり、めちゃくちゃ痛そうな音が小僧の体から鳴った。
そして、小僧は『空間転移』でどこかへ転移した。
「惜しかったな」
!そうか。あの小僧から鳴ったあの音は、キリがあの小僧を蹴った音だったのか。
でも、あの攻撃では、死ぬというところまでは行かないだろう。あいつの体はなぜか固すぎる。何度も殴られているのだろうか?いやいや、あいつに限って、そんなことないだろう。
「あぁ。あいつは王城へ転移したのだろう。あの王城には、ステナリア王女が居るからな」
「これからどうする?もう、森の開拓なんて出来なくなったから、私たちは鉱山へ移動かな?」
俺の左にキノがそう言いながら現れた。
「いや、俺たちは負けたんだ。これだけのことをして、結局、負けた。俺たちには生きる資格が無くなったんだ」
明日、プロテア陛下から・・・いや、あのオッドアイのディア・シュラストから、何を言われるかは分かっている。それは、ここに居る三人も同じだろう。
「二人ともすまない。俺が無駄話何てせずに、少しでも早く、ディア・シュラストの所へ行っていれば、ディア・シュラストの殺すことが出来て、地位が戻るはずだったのに」
俺たちはこの国に来る前に、デプリー様から、「この作戦が成功すれば、お前たちの地位を戻してやる」という契約をしていた。
そして、もし、失敗したら、「命は無い」という契約もしていた。
俺たち幼馴染の三人が居れば、こんなこと簡単だと思った。
あの時は、俺一人だったから敵わなかったが、俺の出来ないことをしてくれる仲間が居ることで、俺は強くなった。
そこから、俺たち幼馴染の三人は、落ちてしまった最低辺から這い上がって、元の地位である貴族に戻れるチャンスが与えられた。
俺たち三人は元は貴族。
でも、役に立つことがなくなってきたから、平民から新たな貴族になるチャンスを与えられた超人の貴族席争いに選ばれてしまって、俺たちはそれぞれ、その席争いに負けて、五年前に貴族から平民になった。
その時の俺の対戦相手は、赤目と青目のオッドアイの超人だった。もし、勝ててたとしても、俺が負けるまで貴族席争いが、何度も続くと思う。
それでも、黒目の町に送られなかったのが、唯一の救いだった。
俺たちは平民に落とされても超人ということは消えない。仕事が無い者も多い中、俺たちは超人という理由で、仕事を回されていた。
でも、今思ったら、あの頃が一番楽しかった気がする。
貴族の時のように美味しいご飯、美味しい酒などがなくても、仕事を頑張ったという達成感だけで俺たちは嬉しかった。
そんなことを三年もしていると、やはり、超人だからか、他の人よりも作業スピードは早くなる。
俺は仕事歴四十年の大ベテランの同僚の爺さんに、たった三年仕事をこなすだけで、作業スピードが勝ってしまった。
そして、与えられた仕事を早く、そして、そつなくこなす俺たちを見つけたデプリー様が、俺たちを部下に迎え入れてくれた。
でも、俺はデプリー様・・・いや、デプリーの部下になるのは嫌だった。それは、俺が貴族から平民に落ちることになった貴族席争いで、その相手がオッドアイだったから。
でも、俺のこんなつまらない理由で、二人を巻き込めないので、俺たちはデプリーの部下になった。
それからは、ワーダストの大臣の部下になったことで、貴族の時のような食事や酒を飲めるようになったが、それは、「ワーダストの大臣の部下」という立ち位置だから。
王城の中へ行くと、俺たちとすれ違う人たちからは、ゴミを見るかのような目で俺たちを見て来る。
たとえ、「ワーダストの大臣の部下」そして、超人であっても、貴族たちは、自分たちと同じ貴族以外は、自分たちの奴隷としか見ていない。
これは、ワーダストの貴族の共通認識。俺たち貴族は、子供の頃からそのように教わって来た。
だから、そのような目線を向けられるのは分かっていたが、それでも、その目線はとてもうざかった。
向けられる貴族たちの目は、大体は超人たちの目だが、その中には、黒目の目線もある。
貴族席争いは、下の階級の役に立たない者から選ばれる。
あいつは、黒目で役に立たないと有名だったが、地位は公爵。
その地位があるからこそ、今も貴族席争いに選ばれない。
そんな奴からも、このような目線を向けられるのは、本当にうざい。
だから、このような目を向けられないためにも、今回の仕事は成功させたかった。
でも、失敗した。そして、こんなことまでしたんだ。
契約で死ぬことは決定しているが、俺たちはこの国で裁かれることになるだろう。
「本当にごめん。俺の失敗で、お前たちまで巻き込んでしまって」
「・・・約束忘れたか?誰かが失敗しても、それは俺たちの失敗。そして、誰かが成功したら、それは俺たちの成功だろ?だから、これは俺たちの失敗だ」
キリは俺の右肩に手を乗せてそう言うと、キノも俺の左肩に手を乗せた。
・・・二人とも、覚悟は決まっているようだ。
「そうだな。俺たちの大失敗だな」
俺がそう言うと、キリとキノが大笑いした。
そして、その二人の笑いにつられて、俺も声を出して笑った。




