125話 人は守るためなら自分を変えられる
洞窟から出ると、外に居たハッセルたちは、カリオナによって首を斬られていた。
「終わったのか?」
「あぁ」
俺はカリオナにそう聴くと、カリオナからは「あぁ」の二文字だけ帰って来た。
父親のカタギさんが居るわけでもないのに、カリオナのテンションは低い。それほど、カリオナもハッセルを倒して、精神的に来ているのだろう。
「やっぱり、こういうのはキツイな」
カリオナは苦しいながら、作り笑いをして、俺にそう言うと、倒したハッセルの死体の傍にあったスコップを手に持ち、巣の前に穴を掘り出した。
俺も手伝おうとして、土魔法で穴を作ろうとしたら、カリオナに止められた。
「これは、私のせめてもの償いだ。ディアに手伝われたら償いではない」
カリオナはそう言うと、再び、巣の前に埋葬用の穴を掘り始めた。
そして、俺はポケットに入れていた予定表を取り出し、次の仕事の時間について見てみると、今日はもう仕事がなかった。
それを確認した俺は、カリオナが穴を掘っている間に、カリオナに倒されたハッセルたちの衣服を脱がし、アクセサリーを外した。
二時間後・・・
ついにハッセルたちを埋葬する穴を掘り終えたカリオナは、堀った穴に次々にハッセルたちの体と頭を言えて、また、一時間を掛けて、ハッセルたちを埋葬した。
そして、ハッセルを埋葬した穴の前に、先程取った衣服やアクセサリーを置いた。
「安らかに・・・」
カリオナは埋め終わった穴の前で、目をつぶり、手を合わせながらそう言った。
その横で俺も同じことを思いながら、手を合わせていた。
そして、それを一分間すると、俺たちはカタギさんに連絡するために、カオルト男爵の家へ向かって歩き出した。
・・・・・・
・・・・・・
ハッセルの墓から森を出るまでのカリオナとの道のりは、ものすごく気まずい雰囲気があった。
いつも笑っているカリオナが全然笑っておらず、そんな精神的に参っているカリオナに話しかけていいのか分からないまま、一言も話さずに森から出て、カオルト男爵の家の前まで帰って来た。
そして、俺たちは依頼達成を伝えるために、カオルト男爵の家へ入った。
中へ入ると、カタギさんがおり、カタギさんが俺たちを見ると、すごい速さで俺たちの元へ・・・いや、カリオナの元へ走って来た。
「大丈夫か!?怪我はしてないか!?」
・・・カタギさんが、カタギさんでなくなっている。
「は、はい!大丈夫です。怪我もしてません」
カリオナもそんなカタギさんに驚いたのか、いつもの凛々しい返事ではなかった。
そして、カリオナの無事を知ると、カタギさんは体の力が抜けたかのように、その場に転がった。
「兵士たちが帰って来たのに、お前たちが全然帰ってこないから、ずっと心配だったんだ。ディアが居るから、そんなことはないと信じていたが、やはり、こんなに遅かったら心配してしまう」
そして、カタギさんは執事に肩を貸してもらい立ち上がった。
「ディアもご苦労だったな。カリオナを守ってくれてありがとう」
「俺は何もしてないですよ。ほとんどのハッセルは、カリオナが倒しましたからね」
俺がそう言うと、カタギさんが微笑んだ。
そして、自身の仕事部屋である部屋に帰って行った。
・・・玄関に残された俺たちは目を丸くしていた。いや、俺たちだけでなく、その周りに居たメイドたちも同じように目を丸くしていた。
だが、その中で、カオルト家の執事だけが、目を丸くせずにカタギさんの微笑みを見ていた。
「ジェルマンは驚かないの?あのお父さんが少しだけ笑ったんだよ?」
カリオナが執事であるジェルマンにそう言うと、ジェルマンさんは何かを思い出したかのように語り出した。
「私は、あんなカタギ様を久しぶり見ました。
私はカタギ様が子供の頃から執事をやっています。子供の頃のカタギ様は、今のような堅物ではなく、とても笑うことが好きな子供だったんです。
でも、それが変わったのは、カタギ様がカオルト家の当主となり、結婚した時からです。
カタギ様は家族を守るため、そして、カオルト家の品を落とさないためか、人の前では笑わなくなりました。
そして、カリオナお嬢様が生まれてからは、家族を守らないとという思いが強くなり、さらに笑わなくなりました」
ジェルマンがそう言うと、カリオナの顔が下を向いた。
「でも、そんなカタギ様の人生の中で、私が見た最も嬉しそうな笑顔は、カリオナお嬢様が元気に生まれて来た時です。
それ以降は、自分の大事な物を守るために、カオルトの名を落とさないために、一生懸命励んできました」
ジェルマンはそうカタギさんについて語り終わると、周りに居るメイドたちは泣いており、カリオナも下を向き、顔を隠しながら泣いている。
この場で泣いていないのは、ジェルマンさんと俺だけ。
こういう話の後は、泣いた方がいいのかもしれないが、俺は感情が無さ過ぎて、泣くことが出来ない。
でも、この話が、感動するものというものは分かっている。
ということで、この場は、カオルト家の関係者だけの間だけの物だと思った俺は、ジェルマンさんにお辞儀をして、この感動の場となっているカオルト家から出た。




