124話 カオルト男爵の依頼②
「『ウィルド』」
カリオナと森へ入り、カリオナに魔物退治をしようとしている魔物の場所まで案内してもらっていると、キューラを盗るスティールと度々会い、会うたびに『ウィルド』で倒している。
普通の『ウィルド』で、倒れてくれるのはありがたい。
兵士たちがスティールを中々倒せなかったのは、剣や槍といった武器では、ネズミのように小さい魔物を倒すのは難しいからだ。
だが、範囲が大きい『ウィルド』は、一気に五~六体も倒せるので、スティールを倒すときは『ウィルド』で倒すと、これからは教えないといけない。
それに、こちらへ襲ってこないので、簡単に倒せる。
俺はちょくちょくスティールを倒しながら、カタリナに案内してもらっていると、カタリナの足が止まった。
「あれが、討伐しようとしているハッセルの巣だ。この辺りに数個あるが、そこには兵士たちが行ってくれてるから、私たちはこの巣に居るハッセルを討伐すればいい」
「了解」
俺たちの前には、ハッセルというゴブリンに筋肉が付き、頭も良く、少しだけ人間に近い姿の魔物の巣というか、集落のようなものがある。
よく魔物が、ここまで発展させたなと思うほどの家があり、服がある。
中には、お洒落のために、木の実をアクセサリーにして、首に掛けているハッセルも居る。
こういうのを見ると、魔物たちにも俺たちと同じような感覚があるんだなと思う。
少しでも運命が違えば、自分がハッセルに転生していたかもしれない。そう考えると、倒すのをためらってしまうが、これは仕方のないことだと割り切っている。
「準備はいい?」
「あぁ」
そして、俺たちは、何を話しているかは分からないが、楽しそうに話しているところを襲い、ハッセルの討伐を始めた。
・・・・・・
・・・・・・
「ハァ!!」
ハッセルの中でも強そうなハッセルが、鋭く、剣のような木の棒を俺に振り下ろしてきたが、俺は戦闘に入ってから常時物理障壁を張っているので、この攻撃は通らない。
前に居るハッセルだけでなく、横に居るハッセル、後ろに居るハッセルが必死に俺の物理障壁を破壊しようと、叩いている。
傍から見ると、完全に俺たちが悪者だ。
俺はまだ一体も倒していないが、カリオナは既に十体も倒している。
カリオナは超人ではないが、ステナリアとよく戦っていたからか、剣の扱いが上手い。
カタリナはハッセルの首を綺麗に斬っている。
巣の方を見ると、ハッセルの子供たちが泣きながら、母親ハッセルに巣の中へ連れて行かれていた。
「・・・はぁ」
ずるい。ずる過ぎる。
人間じゃなく、魔物だが、子供のあんな顔を見てしまうと、どうもその先の行動に進むことが出来ない。
この場で、ハッセルの巣に『レグロス』を放ったら、巣に居るハッセルたちは全員死ぬだろう。
そうすれば、自分が目の前で倒したわけではないので、少しはハッセルを殺した罪悪感が薄れるだろうか・・・?
ハッセルはボブリンと違って、人間を本能的に襲ったりしない魔物として習ってきたし、この世界には、ハッセルと協力して暮らしている町があると習った。
なら、害がないと思う人が大半だろうが、この辺りに居るハッセルを倒しているのは、動物たちや果物などを奪われないため。
ハッセルとしては、生きていくためにしていることだが、それが俺たちにとって、害になってきたら倒さないと人間も生きていくためには、肉を食わないといけないし、果物も健康のために食べないといけない。
そんなことは、人間の自分勝手な行動だと思われるだろうが、この世界は弱肉強食。
そんなことはハッセルも分かってること。
だから、俺たちを必死に殺そうとしてくる。
先程までは、十体のハッセルを倒していたカタリナだが、少し時間が経つだけで、その数が十六体に増えている。
人から教わった非凡と独学の非凡なら、人から教わった非凡が勝つ。
その原理で行くと、戦いを色んな人から教わってきたカリオナと、独学で戦いを学んできたハッセルたちなら、色んな人から教わってきたカリオナが勝つ。
カリオナがハッセルを次々に倒しているのを見て、俺はこの場はカリオナに任せていいなと思ったので、物理障壁を張りながら、ハッセルの巣に入った。
巣の中は高さ二メートルくらいの高さがある小さな洞窟のようだ。
巣へ入ると、外で俺と戦っていたハッセルたちと、中に居た女ハッセルたちからも攻撃をされるようになった。
そして、なぜ、このハッセルの村がこんなに発展しているのかが分かった。
「なるほど。あなたが居たから、この村は発展し、お洒落な服やアクセサリーといった物もあるのか」
「人間さん。あなたたちが私たちを殺す理由は分かっています。ですが、これも生きるためなのです」
「そんなことは分かっている。だが・・・この世界は弱肉強食だ。力がある奴が勝つ」
そう言って、俺はさらに洞窟の中を進み、先程、会話をしていたハッセルの近くまで来た。
「これ以上は進めそうにないな」
「おや、殺さないのですが?私たちは、あなたたちには勝てないことが分かっています」
「・・・それでいいのか?その特別な知恵を最後の最後まで使おうと思わないのか?」
俺がそう言うと、ハッセルはこう答えた。
「確かにそうですね。でも、抵抗して死ぬより、潔く死んだ方が、幸せだと私は思うんです」
目の前の青目の超人であるハッセルはそう言うと、笑った。
「ここに居る皆が死ぬことになってもか?」
「皆もあなたたちが来た時から、覚悟はできています」
青目のハッセルはそう言ったので、俺は巣の中を見渡す。
そして、俺を攻撃している者だけでなく、巣の端に居る子供ハッセルも覚悟を決めた目をしている。
俺はそんなハッセルたちを見ると、右手を広げて、『レグロス』を準備する。
「なら、苦しまずに一瞬で死ぬようにしよう」
「ありがとうございます」
『レグロス』を魔物や動物に向けて放つと、骨すら残らなかった経験があるから、俺はこう言った。
そして、俺は魔法障壁を張り、右手を青目のハッセルを向けた。
「『レグロス』」
俺が放った『レグロス』は、すぐに青目のハッセルを骨すら残らず死ぬと、巣の中に居たハッセルが次々に骨すら残らず死んでいった。
そこには悲鳴が聞こえなかったので、苦しみはなかったのだろう。
俺は両手を合わせて、一回、頭を下げると、ハッセルの巣だった洞窟から出た。




