105話 魔法戦準決勝第一回戦
控室に帰って来て、魔力ポーションを貰いに帰って来たアルスは、アトリウスに聴いた。
「私の試合は、どうだったかしら?」
「はい。エルフらしい、圧倒的な魔法で押す、見事な試合でした!しかし、なぜ、最後は『ウォルキーン』だったんですか?」
アトリウスの質問にアルスは笑って答えた。
「最上級魔法を連発して倒すのも、エルフらしいけど、相手より下位の魔法で倒すのもまた、エルフらしい戦い方よ」
アルスの言葉にアトリウスは、?マークを浮かべていたが、俺にはアルスの言葉の意味が分かる。
アルスの言葉の意味はこうだ。
最上級魔法を連発して倒すのも、エルフの魔法に特化した種族というものにマッチしているけど、エルフには他にも、頭が良いという特化している部分もある。
その特化している頭脳を生かすためには、最上級魔法という力で魔法では押すのではなく、その頭と魔法と言う特化した武器を使うのもまた、エルフらしい戦い方ということ。
そして、魔法に長けていて、頭も良いなら、中級魔法や初級魔法で、最上級魔法に対抗することだって出来る。
この戦い方もまた、エルフらしい戦い方だと俺も思う。
『魔法戦準決勝第一回戦に出場する選手は、闘技場へ出て来てくれ』
そうか。・・・もう、そんな時間か。
俺のこれからの試合も、この試合を勝って次の決勝戦も、俺の対戦相手はエルフだ。
魔法戦準決勝第一回戦は、スカシユリ王国ディアVSリソウス王国マジリカ。
この試合に勝っても、俺の対戦相手はアルスかアトリウス。
どちらも、厄介と言えば厄介だ。
俺とマジリカの二人は、闘技場に出て、闘技場の真ん中で握手を交わし、試合の定位置に着いた。
『両者準備はいいな?・・・では、魔法戦準決勝第一回戦、開始!!』
ロウバイ陛下より開始宣言がされると、マジリカは『スモーク』を使った。
『スモーク』の白い霧が闘技場を覆って行く。
そして、索敵魔法でマジリカがこちらへ走りながら、『グロウドグラウン』を放とうとしているのが分かったので、俺はその場にとどまった。
マジリカは俺が魔法の同時発動を出来るのは知っているので、警戒をしているだろうが、走りを止めない。
そして、マジリカが『グロウドグラウン』を放ったことを、索敵魔法で感じ取ると、俺は足元に魔法障壁を張った。
俺の足元を見ると、『グロウドグラウン』の岩が出て来たが、俺の魔法障壁によって、出て来た岩が全て砕けていく光景が、俺の足元で見れるから、皆見ていいよ!・・・
そんなことを思いながら、マジリカの『グロウドグラウン』を防ぐと、索敵魔法で魔法を放つ時に止まっていたマジリカが、また俺に向かって走り出すのが感じ取れた。
だけど、俺はその場から動かない。
索敵魔法でマジリカが近づきながら、色々な仕掛けをしていることを感じ取ったからだ。
そして、マジリカが索敵魔法ではなく、俺の目の前に現れると、土魔法の初級魔法『地鳴り』を発動した。
この魔法は『地鳴り』と言っても、思っているような地鳴りではなく、土が柔らかくなる魔法で、言うなれば、液状化のような魔法である。
絶対に『地鳴り』という魔法名は合っていないと思うのだが、昔の人たちがそう名付けたんだったら、それに従うしかない。
俺の足元の土がだんだん柔らかくなってきて、身動きが取り辛くなってきた。
マジリカはさらに土魔法の中級魔法『モルホール』を地面に向けて放った。
そして、俺はその行動をみた瞬間、全方位に魔法障壁を張った。
なぜなら・・・
「ボボォォォォン!!!」
全方位とは言わないが、俺の右左、前後ろ、右斜め前後ろ、左斜め前後ろから、設置魔法『アルテレリー』が俺に向かって放たれた。
その威力は俺の魔法障壁を破壊するほどの威力。
左右、前後ろ、右斜め前後ろ、左斜め後ろの『アルテレリー』は防いだが、左斜め前の『アルテレリー』だけが、防ぐことが出来なかった。
俺はかわそうとして、体を斜めにしようとしたが、足が思った通りに動かなかったので、左肩を『アルテレリー』が掠った。
「いっ!…」
掠っただけなのに、その傷は焼けるように痛い…
俺は掠った左肩に『ウォル』を放つと、俺は反射的に泥沼化している地面から飛び出ると、辺りを何周もした。
火傷には冷えた水と言われているんだけどな・・・
先程放った『ウォル』が、俺の肩の傷口にすごくしみる。
俺は今もなお、その場で傷口を抑えてジャンプしている。何か動かないと、耐えれないような痛さ。
っていうか、この傷は火傷と言うより、大怪我じゃね?
火傷はその部分が赤くなったりするけど、俺の傷は身がえぐれているし・・・
そして、こんな傷を俺に負わせたマジリカに少しだけイラついたからだろうか、俺も仕返しとばかりに『アルテレリー』を設置しながら、マジリカの魔法を防いでいる。
ふふっ。この量の『アルテレリー』をマジリカは絶対に防げないだろうな。
・・・と思ったが正直、『アルテレリー』は使用者からすれば面白いだろうが、観客のとっては面白くはないだろう。
そう思い、俺は設置しまくっていた『アルレテリー』を『クリア』で、全て消した。
「!・・・どうして、『アルテレリー』を『クリア』で消した」
俺が『クリア』で『アルテレリー』を消すと、マジリカは魔法を放つのを止めて、俺にそう聴いて来た。
どうして、マジリカが『クリア』を知っていると、『クリア』も俺が考えた魔法だと思ったら、実は元からあった魔法だったのだ。
だから、マジリカは一瞬で『アルテレリー』が全て消えたことを驚かない。
「観客が喜ぶのは、こんな魔法じゃなくてもっと迫力がある魔法戦だ。設置魔法は、この戦いには合わない」
俺がそう言うと、マジリカは拳を強く握りしめながら、「そうね。これは、エルフらしい戦い方ではないわね」と言うと、マジリカは後方へ跳んだ。
そして、マジリカは『ノウムコールド』を放ってきた。
マジリカがもう少ない魔力を振り絞って放った『ノウムコールド』は、これまで見て来た『ノウムコールド』の中で、一番大きく、強い。
俺は『ノウムコールド』を見ながら、観客が盛り上がる方法を考える。
この『ノウムコールド』を完全防御するか、この『ノウムコールド』と同等な『ノウムコールド』を放つか・・・いや、やっぱり、観客が盛り上がるのは・・・
「圧倒的勝利」
俺は両手から『ノウムコールド』を放った。
俺が放った『ノウムコールド』は、マジリカが放った『ノウムコールド』の二倍の威力。
マジリカの『ノウムコールド』と、俺の『ノウムコールド』がぶつかると、空が灰色になり、晴天から曇りに変わった。
初めはぶつかっていた『ノウムコールド』だが、俺の『ノウムコールド』がマジリカの『ノウムコールド』を取り込むと、試合は進み、そのままマジリカも『ノウムコールド』に取り込まれた。
そして、俺の『ノウムコールド』が消えると、曇りだったのが、晴天に戻り、空からはマジリカが落ちて来た。
落ちて来たマジリカは立ち上がったが、もう魔力が残っていないので、試合は出来ない。
マジリカは降参の意を示した。
『魔法戦準決勝第一回戦、勝者はスカシユリ王国ディア!!』
「「「「「ウォォォォ!!!!」」」」」
ロウバイ陛下より勝者が言われる、俺とマジリカは闘技場の真ん中で握手を交わした。
「流石は、アルス様が認めた人間だ。決勝戦、どんな試合をするのか楽しみにしている」
「はい。必ず勝ってみせます」
そして、俺とマジリカは控室に帰って行った。




