103話 魔法戦準々決勝第三回戦
ロウバイ陛下より開始宣言がされると、アトリウスは『ウィルド』で、空へ高く飛び上がると、『エイロック』をアテナへ放った。
その姿はまるで、神が神聖の槍を敵に放つようである。
「人の上から戦う」・・・これが、アトリウスが出した「エルフらしい試合」なのだろうか。
水目でエルフのアトリウスにとって、『ウィルド』を使い続けるのは苦ではない。
落ちてきたらもう一度『ウィルド』を使って空へ飛ぶ。この繰り返しで、アトリウスは地面に足を着かないようにしている。
アテナは走りながら『エイロック』を避け、『ヒッツ』をアトリウスに放っているが、アトリウスは魔法障壁を張って防いでいる。
そして、アトリウスの『エイロック』を全て避けたアテナは、『ノウムコールド』を放った。
だが、アトリウスは自身に強力な『ウィルド』を放って、『ノウムコールド』の竜巻を通り抜けると、油断していたアテナに『ファイアサイクル』を放った。
火魔法の中級魔法『ファイアサイクル』は、火の壁が敵を覆うように囲む魔法。そして、火の壁は徐々に小さくなっていく。
アテナとアトリウスはお互いに姿が見えない状態なので、索敵魔法で場所を把握するしかない。
ここで俺がアテナだったら、魔法の同時発動が出来ないので、『ファイアサイクル』に耐えれる程の魔法障壁を張って出る。出たらすぐに、『ウィルド』遠くへ離れる。
俺だったからこうするが、アテナはどうするのだろうか。
『ファイアサイクル』が徐々に小さくなっていくが、アテナに動きはない。
そして、アトリウスが『ウォルキーン』を準備すると、アテナは『スイホール』をアトリウスの方へ放った。
『スイホール』はだんだん『ファイアサイクル』から離れて行く。それは、アトリウスの真逆の方向へ。
そして、アテナは魔法障壁を張って『ファイアサイクル』から出て来ると、『ウィルド』を使った。
アトリウスは出て来たところで『ウォルキーン』を放たずに、『ウィルド』で着地した所に向かって『ウォルキーン』を放った。
アトリウスが放った『ウォルキーン』は、アテナ・・・の『スイホール』に当たった。
『スイホール』に当たった『ウォルキーン』は、『スイホール』によって威力を落として、アテナの魔力障壁に当たった。
あまり魔力を送っていなかったアテナの魔力障壁に、直接『ウォルキーン』が当たれば、絶対にアテナは負けていたが、『スイホール』によって威力を落としたことで、『ウォルキーン』をあの魔力障壁で防ぐことが出来た。
そして、『スイホール』が消えて、アテナの姿が見えると、アテナはもう一度『スイホール』を放った。放ったのは、アトリウスが飛んでいる方向。
アテナは、アトリウスから見えないように『スイホール』の後ろに隠れながら、アトリウスに近づいている。
そして、アテナがアトリウスのほぼ真下に来ると、『グロウドグラウン』を放った。
アテナが放った『グロウドグラウン』は、真っ直ぐ進む岩ではなく、上へ一直線に伸びる岩。
『グロウドグラウン』は、魔力調節をすることで様々な使い方が出来る。
だが、アトリウスは『グロウドグラウン』を『ヒッツ』で、全破壊した。
魔力の塊『ヒッツ』で『グロウドグラウン』を破壊したアトリウスは、アテナに『エイロック』を放った。
しかも、その『エイロック』は、通常の二倍である三十本の岩の槍が、アテナを襲った。
アテナは魔法障壁を張ったが、アトリウスの三十本の岩の槍に耐えきれず、残りの十三本の岩の槍が、アテナに当たった。
そして、衝撃によって起きた土煙が消えると、アテナは気絶していた。
『魔法戦準々決勝第三回戦、勝者はリソウス王国アトリウス!!』
アテナは係員に医務室へ運ばれて行った。
アトリウスは「見ましたか!」みたいな顔をしながら、控室に帰って行った。
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控室に帰って来たアトリウスは、魔力ポーションを貰いに帰って来ると、アルスに試合の感想を聴いていた。
「どうでしたか。ただ今の試合は」
「そうね~。「上から攻撃する」は安直だけどまぁ、良かったんじゃないかしら。それに、空中からの『エイロック』を放つ考えは、美しかったわ」
アルスの感想を聞いたアトリウスは、「ありがとうございます!」と言って、頭を下げた。
そして、アトリウスは顔を上げないまま、アルスの横に着いた。
・・・俺は知っている。アトリウスが顔を下げ続けている理由は、涙と笑顔をアルスに見られたくないからだろう。
アルスも分かっているのか、顔を下げて横に着いたアトリウスを微笑みながら見ている。
おめでとう。アトリウス。




