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後編

「なるほどのぉ。帝国も完全に舐められたものよ」



 あの後スーディオは広間を出たその足で公爵家へと移動し、執務室に敷かれている魔法陣を利用して陛下へと報告に戻る。一方でエレディーは王侯貴族の把握と監視のために、女帝陛下の判断を仰ぐまではと王宮に止まった。


 数日後、スーディオにより女帝陛下の勅命が届き、ナルシス王子は廃嫡、国王夫妻は王位を帝国の皇子へと譲位する事が決定した。それに伴い、敵対国と通じていた貴族たちも粛清される。そして今挙げた人物たちは帝国に連れていかれ、そこで裁きを受けることとなった。

 

 

 一連の騒動が落ち着いた頃、王国の広間よりは狭いが豪勢に飾られている応接間。

 そこには女帝陛下と息子である三人の皇子たちだけでなく、カトレアとソレラ、そして王国の宰相がおり、首を垂れていた。



「そもそもあの男が放置しなければ、こんな事にはならなかっただろうに……カトレアもそうだが、お主の母……カレラにも申し訳ない事をした」

「いえ、陛下。前皇帝陛下の代の事は陛下のせいではありませんわ。この度はご協力いただきありがとうございました。お陰様で母の悲願であった膿を出す事ができました」


 

 そう力強く答えたカトレアに、女帝はカレラの面影を見出しニッコリと笑う。

 

 カレラが生きている頃、彼女は敵対国と繋がる貴族たちが力を付け始めている事を憂いていた。このまま進めば何か起こるだろう、そんな予感をひしひしと感じていたのだが、現王妃……当時は王太子妃だったが、彼女からの嫌がらせによってその勘は確かなものになった。


 カレラは祖母からの密命を守り、逐一帝国へ報告を上げていた。だが、それを軽視して放置していたのは、前皇帝陛下その人だった。彼は「王国が宣戦布告をしたならば、潰せば良い」と考える脳筋人間だったためだ。

 彼女の報告が放置された事で、敵対国内通者の貴族たちはゆっくりと中枢に入り込んでいく。そんな時に帝国は代替わりをした。


 現女帝陛下は当時20代後半と若かったため、敵対国からは見下されていたのだろう。もしくは、諜報員の存在に対処しない愚かな前皇帝陛下の娘だから、と甘く見ていたのか。多分両方であろう。


 微笑んでいる女帝はカトレアの後ろで頭を下げている男性にも話しかけた。


 

「今回の件に関しては、お主にも多大な労力をかけてしまったとは思うが……流石素晴らしい手腕じゃった。お主にはいつも助けてもらっておるのぉ、ありがたい事じゃ」

「お褒めに与り光栄です」

「カトレアから、『宰相が謁見を賜りたい』と聞いた時には驚いたが……内通者が権力を持つ人物であると掌握が楽だのう。面を上げよ、ディメント」

 


 この度の協力者の一人であるディメント、彼は王国で宰相の地位に就いていた。カトレアの入れ替わりを許可し、その事実を隠蔽したのも彼である。彼は女帝陛下に顔を向け、彼女を見据えた。



「女帝陛下におかれましては……」

「良い。ここには重鎮はおらぬ。無礼講だ」

「ありがたき幸せ。この度はおめでとう存じます」

「うむ。それはそれとして……お主が我が息子に王国の王位を継がせたい、と言われた時には驚いたぞ」



 彼が女帝陛下に協力を求めたのは、王国の王侯貴族たちを見限ったからである。

 敵対国と繋がる貴族に、歴代の国王陛下の意志を理解する事なく太鼓持ちを中枢に持ち上げようとする愚かな王族。このまま進んでいけば、この先王国民を巻き込んだ戦争に発展する可能性もある。ディメントとしては、それを防ぎたかった。

 だったら頭を挿げ替えればいい。そう考えたのだ。

 

 学園にカトレアが入学する前から、宰相は敵対国の間者や繋がりのある貴族たちが入り込んでいる事に薄々気がついていた。だが、彼一人の力だけでは彼らの侵入を防ぐのも困難だったのだ。そんな時に彼はカトレアが帝国側である事に気づき、協力を申し出たのである。

 宰相は苦しそうに答えた。

 

 

「……元々考えていた事でした。現在の国王陛下は自分を持ち上げる者たちを重用し、王妃陛下は嫉妬で帝国の姫君(カレラ)を……それだけではなく彼女の娘(カトレア)をも目の敵にし、嫌がらせまでしておりました。彼らは己の立ち位置が理解できておりません。そんな人物に王国の将来を任せられませんから」

「成程、帝国に取り込まれた方が民のためにはなると……そう考えたのじゃな?」

「仰る通りです」

「お主の思惑がどうであれ、帝国としては頭痛の種であった王国の問題を解決できたのだからお主の功績は大きい。引き続きお主が宰相として纏め役を頼む」

「仰せの通りに」

 


 ディメントは一礼して後ろに下がる。もう自分の番は終わった、と言わんばかりに。その意図を理解した女帝は、彼へ送っていた視線をカトレアに向けた。

 

 

「さて、カトレア。我が愚息に付き合ってもらって済まないのう。この研究馬鹿の相手も大変じゃろうに」

「陛下、研究馬鹿は酷いのでは……?」 

「事実じゃ」



 そんな親子のやり取りで肩を落とすスーディオと、心配そうにこちらカトレアを見る女帝。カトレアはふふ、と笑った。



「いつも楽しく共に研究に取り組ませていただいていますわ。私こそ、このような機会を与えてくださり、ありがとうございます。これからも殿下と共に研究者として帝国へ貢献したいと考えております」

「カトレア……!」


 

 スーディオが目を輝かせて彼女を見つめる様子を見て、女帝はため息をつく。隣にいるソレラは複雑な表情だ。

 それもそのはず、彼女は女帝より「王国の次期王妃にならないか」と打診を受けていた。カトレアの曽祖母の一人は王家の姫である。王位継承権はないが、皇族と王族の血を持つ彼女が一番適任だと考えたからだ。

 公爵家は最悪彼女たちの子どもに継がせれば良い。そう考えていたのだが、それを断ったのはカトレアだった。彼女は研究を続けたい、と話したのだ。

 

 再度確認のために発した言葉だったが、カトレアの発言に女帝は怒らなかった。帝国も実力主義ではあるが、向き不向きだけでなくやる気も重要だと彼女は思っているからだ。

 むしろその言葉に驚いていたのは、義妹であるソレラだった。彼女はカトレアこそが次期王妃に相応しいと思っていたからだ。


 ちなみに第二皇子であるスーディオには念の為確認を入れたが、「研究が優先」と言って取りつく島もなかった。

 

 

「では話し合いの通り、第三皇子のディケトを次期国王としよう……さて、ディケト。その上で確認をしたいのだが、お主は誰を王妃に望む?」

「陛下、その件でございますが、今少々お時間を頂いてよろしいでしょうか?」

「……良いだろう」

 


 ため息をついている女帝を他所に、彼はトコトコと歩き出す。そしてカトレアの隣にいるソレラに手を差し伸べた。

 ソレラが手に驚いて顔を上げると、ディケトは満面の笑みを彼女に向けた。

 


「ねえ〜ソレラ。僕と結婚してくれない?」

 


 カトレアとスーディオ(第二皇子)エレディー(第一皇子)はこの事を知っていたため、沈黙を維持する。驚いて目を見開いたのは、後ろに下がってた宰相くらいだろう。


 実はソレラとディケトは一度面識がある。義妹としてソレラがこの屋敷にやってきた……エレディーやスーディオが多忙により月一の来訪と少なくなってきた頃。まだ幼いディケトは一人でカトレアの屋敷を訪れていたのだが、その時に偶然顔を合わせてしまったのだ。

 最初はカトレアの「お忍びで」という言葉を信じていたソレラだったが、その数ヶ月後に移転陣の存在を彼女から教えられたのである。

 

 ソレラも義姉様を困らせないように、とディケトの事は口を噤んでいたので、彼がソレラに一目惚れしたという事件がなければ、このまま移転陣の存在を教わる事はなかっただろう。移転陣を教わったその日からディケトとソレラの文通が始まったのである。

 

 彼女は眉間に皺を寄せてバッサリと切り捨てる。

 

 

「え、嫌です。私に何のメリットが? 義姉様と離れるだけではないですか」

「辛辣〜! でもそこが好き!」



 急に始まる茶番を楽しそうに見つめる女帝とエレディー。スーディオは額に手を当てため息をつき、カトレアはニコニコの笑顔で二人を見つめている。唯一この茶番に付いていけないのは宰相だけで、彼の視線は二人を行ったり来たりしている。

 カトレアが研究を続けるのであれば、彼女は帝国に留まるだろう。そう予想したソレラは義姉との距離を離そうとする彼を睨みつける。だかディケトは気にする事なく、満面の笑みで話し始めた。


 

「メリットならあるよ。まずカトレア義姉様と家族になれる」

「ちょっ……ディケト!」



 慌てたスーディオがディケトの口を塞ごうと手を伸ばすが、彼はひらりとかわす。ディケトは眉間に皺を寄せて、スーディオを睨みつけた。



「兄さんはヘタレ過ぎだよ? 僕みたいに押していかなくちゃ、そこらの馬の骨にカトレア義姉様を取られちゃうよ?」

「よく言った、ディケト」

「ディケトの言う通りだ」

 


 口を挟もうとしたスーディオの言葉を遮ったのは、母である女帝と兄であるエレディー。

 もう既にカトレアの婚約が白紙になって一週間ほど過ぎているのだが、スーディオは釣書すら公爵家に送っていないのだ。

 彼女の婚約白紙を聞いた翌日から、大量の釣書が公爵家に届いている。その釣書は王国内――宰相側に付いていた貴族たちの令息だけではなく、帝国内からも釣書が送られているのだが、そもそも彼女の婿候補にすら手を挙げていないのだ。

 現在カトレアはその釣書の選別をしている最中だ。


 第三者から見てもスーディオがカトレアに好感を抱いている事は理解できた。むしろ好意を向けられているカトレア本人もその事に気づいていたりする。現在カトレアは表向き、傷心のため婚約者選定を保留するとされているが、実はスーディオの釣書を待っているのだ。

 その想いに気づいているエレディーとディケトはスーディオに発破をかけていたのだが、釣書すらも恥ずかしがって送ろうとしない兄のために、ディケトはカトレアの前で兄の想いを暴露して退路をここで断とうとしたのである。

 


「それは……時が来たら……」

「いやいや、スーディオ兄さん。時が来たら……っていつの話? そう言って後回しにしているだけじゃないの? カトレア義姉様に愛想を尽かされてもしらないからね?」

「……」



 ディケトは完全に図星を突かれて黙ってしまったスーディオからソレラへと身体を向ける。ソレラの横で佇んでいるカトレアはニコニコと微笑みを絶やさず、成り行きを見守っていた。



「と言うわけで、僕が発破をかけておいたから、きっとスーディオ兄とカトレア義姉様は結婚すると思うんだ。だからこれでカトレア義姉様と本当の家族になれるね!」

「……!」 



 満面の笑みで話すディケトの言葉に揺れるソレラ。良い感触を掴んだと感じた彼は引き続き話し続ける。



「次に僕が王位を継ぐ場合、義姉様には公爵位を継いでもらう事になるから、問題ないね! それに最初は義姉様にもソレラの王子妃教育の指導を依頼しているから、王子妃教育の間は毎日顔を合わせる事になるよ」

「……!!」 

「その後も義姉様にはスーディオ兄と一緒に学園の教程とか、教科内容とかを考えてもらう予定だから王城には上がるだろうし? 義姉様に会えなくなる事はないよ。むしろ以前よりも会えるんじゃない?」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 

 即答で頭を下げてディケトの手を握るソレラに突っ込む者は誰もいない。肯定の返事を受けたディケトに至っては、「やったぁ!」と小躍りしているし、女帝もカトレアも嬉しそうに笑っている。女帝からすれば、頭で描いていた通りの展開となっている事を喜んでいる部分が大半ではあるが。

 

 もともと頭の中にはスーディオとカトレアに王位を継がせる案とディケトに継がせる案の二つがあった。最初にスーディオとカトレアに持ち掛けた際、二人はその提案を断ってきたのだ。そのためディケトへと王位を持ちかけたところ、「条件付きでなら」と言われる。それがソレラとの婚約だった。

 カトレアに追いつくため、と努力していたソレラの能力は高い、そう女帝は評価していた。公爵家の血は継いでいないが、彼女は伯爵家の出で、祖父は侯爵家の人間だ。まあ、少々身分的には低いかもしれないが問題ない。

 それに暴走するディケトを止められるのは、彼女だけだろう、とも。


 

 真剣な表情でディケトとの婚約を了承したソレラは、眉間に皺を寄せて彼に話しかけた。


 

「では、後はスーディオ殿下が義姉様に婚約を申し込めば良いのですね?」



 その言葉に花開くような笑みで頷いたディケトを見て、ソレラはすぐに身体をスーディオへと向ける。そして――。



「義兄様! 義姉様が何処の馬の骨とも分からない奴に奪われる前に、早く結婚の申し込みを!」

「ちょっ……君までそれを言うの?!」

「義姉様のためにも、私のためにも! さあ! さあ!」

「ええっ?!」

「そうだよ! 僕の結婚は兄様にかかってるんだからね!」

 

 

 狼狽えるスーディオに迫るソレラ。そして彼女を援護するディケト。その様子を微笑んで見ている他三人。宰相はそのやり取りを口を開けて見ているだけだ。スーディオはチラチラとカトレアを見ているが、当の本人は気づかない……のではなく、気づいていない振りをしている。


 カトレアだってスーディオには好感を抱いている。研究へと夢中になって目を輝かせている姿、カトレアの境遇に激怒し気遣う姿、兄弟やリアリーに告白をせっつかれて顔を真っ赤にしてしまううぶな姿など……彼女にとっては、可愛らしい弟のような存在だった。

 だが、いつからかその瞳に熱が篭っていくのを毎日見ていたら、彼女も異性として意識せざるを得なかった。彼の瞳は雄弁に語っているのだが、流石にカトレアから誘うわけにはいかない。だから彼女はスーディオの言葉を待っているのだ。


 周囲から詰められたスーディオは、顔を真っ赤にしながら、カトレアの方へ向く。そしてパクパクと餌を欲している金魚のように口を何度か開閉した後、カトレアと視線がぶつかった。

 見つめ合う二人。カトレアは未だに口が開いている彼に首を傾げながらニコッと笑いかけた。そして話しかけようと彼女が口をひらこうとする前に……。



「もう少し待っててくれっ!!」 

 

 

 限界を迎えたスーディオはその場から走り去っていく。慌てふためいた末の行動だ。宰相以外全員がその思いに気づいていたとは、本人のみが気づいていない。

 「スーディオ兄!」とディケトが呼び止めるも、その言葉が聞こえなかったのであろうスーディオは部屋から退出していった。その様子を呆然と見つめる者たちがいる一方で、カトレアは表情を変える事なくニコニコと笑いながら見ている。



「……義姉様、あんなヘタレ兄で良いのですか?」



 思わず彼が出ていった方向へ指を差して聞いてしまうディケトに、カトレアは笑った。



「ええ。だって可愛らしいじゃない?」

「……義姉様は男の趣味が変わっているのね」

「ふふふ」


 

 扇で口元を隠しながら声を出して笑うカトレアに、ソレラは肩を竦める。

 相思相愛の二人が想いを伝え合うのは、この日から半年以上経った後のことである――。

 

 拙作を読んでいただき、ありがとうございました。

 

 この話は、人形令嬢(表情をあまり変えない人)と呼ばれていた令嬢が、本当に人形だったらーーを書きたくて書いた話になります。

 そのため、少々ご都合主義の部分もあるかと思いますが、そこは大目に見ていただけると幸いです。特に魔導人形の部分とか。

 この作品を楽しんでいただけたのなら幸いです。

 

 ブックマーク、評価、感想等もお待ちしております。

 またいくつか新作も執筆中なので、新作もぜひご覧ください。

 (五月中には投稿する事を目標にしてます。)

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― 新着の感想 ―
[一言] ヘタレ皇子、一旦振られればいいのに。振られて反省して態度を改めるぐらいは見たいものです。 これだけ家族からお膳立てしてもらっていて逃げ出し、更に半年も待たせるとかアリエンティw
[気になる点] >カトレアの曽祖母は王家の姫である。王位継承権はないが、皇族と王族の血を持つ彼女 カトレアの曾祖母って帝国の姫だったのでは?それともここまで出ていませんが、それとは別の曾祖母(曾祖母…
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