小六先輩
空が気がかりなのは、部活戦や特殊な授業だけではなかった
(入学三日目で色々あったなあ )
学生寮の廊下を歩きながら考えていた。
(なんの力もなくてなんの知識もない僕がここでやってけるのかな
何がなんだか・・・
第一黒い獣って何!
魔窟って何!
わけわかんないよ~
結界術! 陰陽術! 呪術! 黒翡翠!
何なんだよ~
おじさん大変なとこ入っちゃったよ~ )
自室のドアを開けようと手を伸ばすがドアノブに触るのを躊躇した
(小六先輩戻ってるのかな?
挨拶しても返事ないし、おっかないんだよなあ~
いかにも不良って感じで、いかにも平気で人殺しますって感じなんだよな~
せめて部屋ではリラックスしてゆっくりしたいんだよなあ~ )
意を決したようにドアノブを回す
(まあ、いいか )
ガチャ
「・・・ 」
大きな黒いカバンをテーブルの上に置いて中身を取りだそうとしている小六先輩がいた
ギロリと空を睨む
(や、ヤバイ! 不味いものはいってんか?
拳銃? 麻薬の類いか? )
急いでカバンのジッパーを閉じようとするが、手を滑らせ中身を床にぶちまけてしまった
「・・・美少女魔法戦隊キュアキュア 」
大量の漫画本がぶちまけられた
日曜朝のアニメにもなっている有名な漫画だ
「見たのか・・・ 」
今にも殺しますって勢いで、小六は空の胸ぐらをつかんだ
「もちろん、観てますよ!
日曜の朝はキュアキュアなしじゃ始まりません!
三人の美少女高校生が魔法の力で世直しをするお話で子供から大人まで大人気じゃないですか~
僕は漫画の方が絵柄好きですね。子供向け漫画なのに、なぜがエロいです!
パンチラとかエッチシーンなんて全くないのに感じるエロチシズム!
作者は天才ですよね! 」
「お、おぉ そうだな 」
空の勢いに気圧される小六
「何よりも、単なる美少女漫画でなくて哲学してますよね!
ダイヤ(主人公の一人)は自分の正義に正直に行動してますが、たまにサファイア(主人公の一人:理性担当)がボソッとつぷやいてることって
戦いって何? 正義って何? 人生って?
考えちゃうじゃないですか。あれ絶対作者意図的に哲学してます! 」
「おめえ、スゲーな 」
小六の目は、既に殺し屋の目付きから尊敬の念のこもった瞳に変わっていた
「小六さんもキュアキュア大好きなんですよね~ 」
「ま、まあな 」
はにかみながら、小六が答える
「今のメジャーアニメの中では、神ですよね!
小六さんはどんなとこが好きなんですか? 」
「・・・」
小六は、暗い目をしてうつむいた
「あ、す、すいません。何か気にさわることでも・・・ 」
「・・・」
「い・・・ 」
「いや・・・ 」
「癒されるんだ! 」
明るさを取り戻した瞳で小六か空に視線を向ける
「うん、癒されますよね~ 」
「そうなんだ、俺にはおめえ見てえにこの漫画の良さを説明する事は出来ねえが、手にとって読むだけで、落ち着くし安心するんだ 」
「・・・」
「あまり人にいわねえんだが、何だかおめえには話したくなったから、聞いてくれ・・・ 」
「いつの頃からだか忘れちまったが、俺には暴力の衝動っていうか怒りの気持ちって言うのかそんなもんがあってな。
その衝動押さえらんなくてケンカ三昧だった。
そんな時、通りすがりの本屋で見知らぬ女にあってキュアキュア勧められて、読んでみたら癒された。
この漫画読むようになってから暴力の衝動を抑えられるようになったんだ。
だから、キュアキュアは、俺にとって聖書なのさ
変だろ? 」
小六は、慈しむように本をめくる
「変じゃないです!
僕も誰かを癒せる漫画が描きたいんです!
実は、僕漫画家志望なんですよ~ 」
「ま、まじか? 何か描いたのねえのか? 」
「実はあるのてすよ~ 」
日吉は、荷物の中からスケッチブックを取り出して小六に見せる
小六はスケッチブックのベージをめくり日吉を見る
「・・・おめえ、絵下手だな 」
「・・・ 」
「すまねえ正直に言っちまった。
まっ、癒される絵柄ではあるけどな・・ 」
「今、修行中ですので・・・ 」
日吉はがくりと肩を落とす
「まっ、とにかくおめえとは上手くやってけそうだな。あらためてよろしくな 」
「こちらこそ 」
ふたりは笑顔で握手をした
「ところで、おめえ何か能でもあんのかい? 」
「能ですか? 」
「ああ、能だ。
おめえ、三大一族の関係者じゃないだろ。
この寮に割り振られるのって一般人だからな。
なにかしらの能でもなければ、学園にに入学出来んだろ? 」
「・・・能ですかあ? 」
「もしかして、能知らんの? 」
呆れたように小六が空の顔を覗き込む
「あの、クッサメ! とかってやつですか? 」
空が歌舞伎の型を真似る
「それは、歌舞伎! 」
頭をかく空
「おめえ、なんも知らないで良くこの学園に入れたなあ~
ビーチ見せてみろ 」
ビーチとは学園の生徒が身に付けているバーソナルデータを読み込んでいる腕時計のようなものだ
ボタンを押すことにより、自分のステータスを見る事が出来る
「・・・能・・なしか・・・ 」
申し訳なかったと言う顔をし、小六が空から離れる
「ただの一般人ですから・・・ 」
「卒業できないんじゃないか? 」
「へっ? 」
「この学園実力が全てだから、授業も半分は実技だし・・・ 」
「ヤバイっすか? 」
「やばいな。最悪命捕られるまであるな・・・ 」
ずいっと、顔を近づける
「ま、マジですか? 」
「まあ、一生この街から出られなくなるくらいか 」
「どうしましょう 」
「卒業できるよう力つけるしかないな 」
「出来るでしょうか? 」
「おめえ、次第だな 」
「はあ 」
空が、がくりと肩を落とす