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Airgun  作者: Ottack
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 イヤホンを付けボソボソと独り言を呟いている者を見て、同職の人達の影がちらつくのは立派な職業病と言える。イヤホンの裏にいる誰かと会話しているのか、曲を口遊んでいるだけか、将又その者にしか見えない友人でもいるのか。


 自身が知らない真実をたった一人知っている事への妬みと可能性にして二三程度なら切り捨てる思考を持った者達にとっては、これも恰好の憶測の材料となり、味方内を盛り上げる為だけに食い散らかされていく。


 そこにわざわざ割り入ってまで弱者を助けようとする人がいるとすれば、その者は正義のヒーローだ。


 明くる朝。出社した玄凪の顔の痣はすれ違う人々の目を引いたが、彼は正義の勲章としてそれを誇った。


 チームの今朝の話題としても彼の勇姿は取り上げられたが、テーブルを囲う輪に園恵はいなかった。会社への出欠連絡はされていない。満は祈る様に携帯端末を握り締めるも、平日の朝は必ず鳴っていた軽快な着信音が聞こえてくる事はなかった。


 いつに無く重苦しい雰囲気のまま解散したメンバー。予約帳が白紙でも、臨機応変に当日客を受け入れる心構えが身に付けられるからという園恵のアドバイスを、玄凪は今日も出社する事で実行している。


満「ゲンはソノが来なくて寂しくない? ――私この後一仕事入ってるから、見てるといいよ。終わったらすぐソノの家に行くから」


 満は長らく、早朝に出社し昼頃に退社するこの時間配分を変えていない。そんな彼女が寝不足気味に依頼を受ける姿は滅多になく、未明の仕事が入っていない今朝の様な日なら尚更だ。


 他者を心配する余り寝不足になってしまった彼女だが、それが祟って仕事ではらしからぬ失敗をしてしまい、客にすら言い訳をする始末だった。


 ただその言い訳には園恵の名前どころか仕事仲間への心配すら滲ませてはいなかった。


 依頼内容はどうであれ、客の99パーセントは彼等Airgunへ縋りに来ている。仮にそんな客へ職員が弱音を吐いてしまったとなれば、共倒れを招きかねない危険な行為となる。


 捏ち上げた事情で客の笑いを誘ってみせる満。決して客の前で崩れる事が無いのは、この職を本職とし駆け抜けてきた二十年からくる自負と、頼みの綱としての責任があるから。


 それはチームの中で最も新米の二人に足りない物だ。仕事をする先輩の背中を見ているだけでは身に付かないかもしれないが、それを持っている者の言動と自身との違いを比べる事も概念をより深く理解する為の一歩となる。


 昨年までの玄凪であれば見逃していたであろう、会話という在り来たりなきっかけ。彼がそれを確かに掴んだかは会話への積極的な姿勢が物語っていた。


 園恵に対して引け目を感じていた彼にとってそれは、彼女との間にある二週間など容易く埋めてくれる程に明白な強みだった。


 ――見舞いがてら園恵に自慢話を聞かせてやろう。


 用意出来た手土産の質に玄凪は満足げな様子。実際にそれが同期にとって発奮材料となるかは不明瞭だったとしても、彼は体調を悪くした相手に手ぶらで訪問する気になれなかった。













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