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8段目 2層目 その2

「おい、匠!しっかりしろ!

 匠!返事をしろってんだよ!!」


 匠が俺を庇い、火の玉や水の球を一手に受けている中。


 今の自分に何もできない事に腹立たしかった。


 だが、それだけではなかった。

 つい先程まであった自動販売機が消えたんだ……。


「匠!おい、すぐにどけ!匠ぃ!!」


 俺自身も身体が重いが、匠が上に覆いかぶさっていて

 どかす事も出来なかった。


 だからこそ、ミミックとやらが俺達の所にまで

 やってきてしまった。


 鍵盤がこちらを向き、ピアノの屋根部分が大きく開き始めた。


「こいつ……2人まとめて食うつもりか!!」


 徐々に開いていく屋根は、これまでで最も大きく開いていた。


「こいつぁ……駄目かな……。」


 俺は覚悟した。

 匠を残していくなんて選択肢は俺には無ぇ。

 だが、それ以上に身体が動かねぇ……。


「すまねぇな、俺がもうちょいやれれば良かったんだが……。」



「こぉの馬鹿康太ぁ!!」


 聞き慣れた声。

 それと同時にミミックの大きく開いた口に

 これまで見た事も無いような巨大な火の玉が飛び込んでいった……。


 そして突然、爆発が起きた。

 その飛んできた方向を見ると、杖を持った女?が居た。


 だが、俺を馬鹿と呼ぶのはあいつしかいねぇ。


「なんでここに居るんだよ!!」


 渚だ。

 顔は良く見えないが、あのスタイルと言い方は

 間違いなく、小さい頃から知っている渚だ。



「あんた達がコソコソしているから

 追っかけてみていれば……何してるのよ!!

 っていうか匠!?ボロボロじゃない!!」


 渚は無防備に俺達に近づいてきた。


「駄目だ、逃げろ!!」


 渚は俺の言葉に耳を貸さなかった。

 俺達の下へと一直線に走ってきた。


 そして長谷キョ―の周りにあった火の玉と水の球が

 渚に向かっていった。


「危ねぇ!!」


 俺の出した言葉が言い切るかどうか位の時だった。

 渚に当たった筈の火の玉と水の球が

 渚の身体に吸い込まれていくように消えていった……?



「あー、もう。匠がボロボロじゃん!!

 なのになんであんたはこんな綺麗なの!!」


 そう、渚に言われつつ頭をぶん殴られた。


「痛ぇ!!っつーかなんで渚はあの火とか水とか当たらねぇんだよ!?」


「ふっふーん、何ででしょうね?」


 そういえば顔も碌に見えない、って事は……。


「渚……お前も称号を?」


「とーぜん!魔法使いなんだからね!!」


「あほーつかい?」


「魔法使いだっつーの、この馬鹿康太!!

 ディスペル!ヒール!」


 渚の力だろうか、俺の身体の重さが消えて

 匠が覆いかぶさっていた重さすらも軽くなった。


 それだけじゃねぇ。

 ボロボロだった匠の怪我、特に掌の傷が

 血の痕も残さず消えていったんだ……。



「さてと……。

 よくも匠と康太をやってくれたわね!!」


 渚は杖を振り回して長谷キョ―の後ろにあった

 なんだってっけな……ベー…なんとか?

 肖像画だかに杖を叩き込んでいた。



「康太、あんた気が付かなかったの?

 これがこの火やら水やら出してた奴だよ?」


 肖像画は叩き込まれた杖の一撃で割れて

 そのまま床に落ちると共に、浮いていた火や水が一斉に消えていった。



「……………なんで使いこなせてんだよ……。」


「ん?ここに入った時にスマホが鳴って?

 ゴッドアプリとか言うので全部聞いたからね!

 っていうか康太、立って!

 まだ終わってないみたいだからね!!」


 そういう渚の声に、俺は起き上がって匠を担いだ。

 渚が睨む先は長谷キョ―だ。



「マテリアライズ!」


 渚がそう叫ぶと、長谷キョ―の真上に魔物が見えた。


「アプレイザル!……へぇ、マリオネットね。

 操るのが得意、と。

 残念だけど、私には効かないわよ?」


 すると長谷キョ―が椅子から崩れ落ち

 床にドゴッという音と共に顔から落ちた。



「なぁ、渚……。」


「今良い所なんだから、邪魔しないでくれる?」


「いや、そういう事じゃねぇんだよ!」


「じゃあなんなのよ!!」


 渚が怒って俺に振り向いた時だった。

 ああ……遅かった。


 俺の手が渚の胸を鷲掴みしていたんだ………。


 勿論、俺の仕業じゃない。

 長谷キョ―が床に落ちた直後だ。


 俺の身体が上手く動かない、と言うか

 勝手に動き出したんだ。


 それを渚に言おうとしただけなんだ。

 邪魔した訳でも無いんだ……。


 で、この手は俺が動かしているんじゃないんだ。

 俺は無実だ、決して渚のナイスバディをもみもみしようとした訳じゃ……。



「恥ずかしいからそれ以上喋るな!!」


 そういって、俺は往復ビンタの嵐を渚から受けた。

 これ以降、俺の記憶は定かじゃないんだ……………。





「全く………言えばいくらでも揉んでいいのに……。

 ってそうじゃない!!

 よくも匠と康太をやってくれたわね!」



 私はあれから、匠と康太の後を追ってきた。

 そして階段を降り切る前にスマホが鳴ってしまった。


 やばっ、バレちゃうじゃん!!

 そう思って急いでスマホを見ると「ゴッドライン」という

 知らないアプリが入っていてメッセージがあった。


 知らないアプリだけに、メッセージは開かず

 そのまま消そうとしたけど、消す事が出来なかった。


 ウィルスにやられたかと思いつつもメッセージを開くと

 神?とか名乗る人物からこれまでの2人について説明された。


 2人はこの周辺で起きている不思議な事件の解決の為

 ダンジョンとか言う場所へ行っていると。


 信じられる?

 でも称号を渡され、私の姿が変わると

 信じざるを得なかった。


 私がこの称号の力を使って、2人を助ける事が出来る。

 もし2人がこのままダンジョンで倒れれば

 2人が死ぬだけでなく、この地球が崩壊する可能性すらある。


 私は決めた。

 こんな面白そうな事、だまって2人でやろうだなんて

 ちょっとビンタの1つでもしなければ気が済まない。

 だから私はこのダンジョンに挑む3人目となった。



「私にはあんたの操る力は効かないよ。

 それに2人をここまでにしたんだから

 その罰はしっかり受けてもらうからね!!」



 渚は格好良い事を少々言ったつもりだが

 少なくとも康太がこうなったのは渚のせいである。



『ギ……ギギギ……。』


「あら、喋れるんだ。」


 私の問いに、マリオネットと呼ばれる魔物は答えなかった。

 変わりに私に向けてきたのは魔力とやらが含まれた

 非常にか細い糸だった。


 これは私の特性、魔力を含んだものが見える。

 いくら細くても、それが光って見える!


 私にそれを素早く避けるだけの力は無いらしい。

 魔法使い、魔法の威力を決める知性と

 その魔力を操作する器用さが高く、素早く魔法が行使出来る。


 避けられずとも、対処法はある!



「ディスペル!」


 魔法効果の良し悪しを問わずに

 ありとあらゆる消滅させる魔法。


 これによって、マリオネットの糸は私に届く前に消える。

 避ける素早さは無くとも、魔法の出す速度なら負けない!


「だから効かないっていったでしょ?」


『ギギギギ………。』


「これでも今日は徹夜で2人を見張ってたから

 眠いのよね、さっさと終わらせて良いかしら?」


 私は杖に魔力を思いっきり籠めた。


「これは匠の分。」


 さらに魔力を籠めた。


「これは康太の分。」


 さらに魔力を籠めた。


「これは私の分。」


 さらに魔力を籠めた。


「これは馬鹿康太に私の胸を揉ませた罰……。」


『ギギ……ギギギギギギギギギギ!!』


 マリオネットはその膨大な魔力に驚いた。

 素早く音楽室の扉のある場所へと逃げ始めたのだった。



「もう遅い、エクスプロージョン!」


 渚の声に、マリオネットの身体がブクッと膨らんだ。

 ボコボコと身体のあちこちにタンコブが出来たかのように

 さらに膨れ上がった。


「火属性魔法『爆発(エクスプロージョン)』。

 身体の中から爆発するから、逃げられないよ?」


 マリオネットはそのまま更に膨れ上がり

 そして破裂、爆発し光の塵が一気に広がった。




 そしてダンジョン2層は

 マリオネットの死と共に、クリアとなったのだった。

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