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7段目 2層目 その1



 俺と康太が階段を降り切ると、目の前にまたあの

 土の地面と、壁と天井が石造りのダンジョンが広がる。


 そう、思っていたのだがそれは裏切られる形となった。



「何だここ……。」


「音楽室だ……。」



 階段を降りたと共に俺達が立っていたのは

 音楽の授業で使われる、少し広めな感じの音楽室だ。


 少し広い感じなのは、吹奏楽部の部室でもあり

 一度に練習出来るようにと広く作られているからだ。


 そして聞こえてきたのはピアノの音だった。


「おい、匠!あれ、長谷キョ―じゃねぇか!」


 1台のピアノを弾いているのは長谷川先生だった。


「鑑定……確かに長谷川先生だ………。」


 魔物が成り代わっている、とかの類ではなく鑑定の結果

 正真正銘、長谷川先生その人だった。


 そうしている間に、音楽室の中に違和感を感じた。

 そしてその違和感が見えてきた。



「火の玉に水の球……!?」


 宙に火の玉や水が球状になって浮かんでいたのだ。

 そして火の玉や水の球が俺達に向かって飛び始めた。


 それと共に長谷川先生はピアノを荒々しく弾き始めた。



「チッ!」


「召喚!」


 康太はすぐに足を動かし始め、火の玉や水の球を避け始めた。

 俺には到底、それが出来る訳もなく

 自動販売機を召喚して、それを盾とした。


 鉄パイプに自動販売機、コインロッカー、鉄筋コンクリート。

 この4つには共通した特性があり、決して壊れる事が無い仕様だ。


 その為、俺にとってはどれもが盾にも等しかった。

 自動販売機を盾にし、すぐに鉄筋コンクリートを組み上げて

 壁などを作り、俺だけでなく康太も隠れられる

 即席の野戦築城を作った。


 だが、それだけでは済まされなかった。

 長谷川先生が弾いていたピアノ、それすらも動き出したのだった。


「なっ、なんでピアノが動いてるんだよ!?」


「康太、そいつはミミックだ!」


 ピアノの形をしているがミミックと呼ばれる魔物で

 屋根と側板の部分がどうやら口になっているらしく

 屋根をバンバンと上下に動かし、音を立てながら康太に迫っていった。



「でけぇし、ちょ!?怖ぇんだけど!?!?」


「ピアノが動いたのなら長谷川先生は……。」


 椅子に座った状態で、宙に浮いていた。

 火の玉や水の球がその周囲を回り、まるで長谷川先生を護るかのように……。


 今、この部屋に居る長谷川先生は本物だ。

 その周囲を回る火の玉や水の球はどうやら魔法らしい。


 そして康太を追い回しているピアノは魔物「ミミック」。

 しかしボス、という訳ではないようだ。


 ボスはこのミミックを倒せば出るのか?

 ゴブリンの時も、ゴブリンをある程度倒してから

 ボス魔物のレッドキャップが出てきた。


 なら、今はあのミミックに集中すべきだ!


 俺はそう思い、ミミックの行動の阻害に出た。

 自動販売機の陰から出て、ミミックの通る場所に

 鉄筋コンクリートの塊を出し、その進路を妨害した。


 あのミミックは宙に浮いていない。

 ピアノについている小さな車輪で動いている。

 なら、走路が妨害されるのは有効の筈だ。


 妨害を仕掛けた事で、ミミックが進路を阻まれ

 康太を追い回す事が出来なくはなったが

 俺が自動販売機の陰から姿を現した事で

 長谷川先生の周囲にある火の玉や水の球が俺に飛んできた。


 即座に自動販売機の陰へと隠れ

 その全ては自動販売機に当たるか、それすらも通り過ぎ

 音楽室の壁に当たっていた。



「曲がったりは出来ないのか……康太!」


「ああ、流石に気が付いてるよ!

 それよりミミックとやらはどこを攻めればいいんだ?

 ゴブリンみたいに喉を裂くにも場所が解らねぇ!」


 そう言われればそうだ。

 姿はピアノで、どう見てもガッチガチに硬そうだし

 それを短剣で切ったり突いたり、ってのはな。



 ミミックを再度一瞥すると、弱点は……。


「康太!ミミックの弱点は弦だ!!」


 つまり口の中、と言う事になる。


「はぁっ!?っていうかこれ多分だけど口だよな!?」


「ああ、口だな。」


「その中の弦を切れってか!?」


「そう言う事になるな。」


「いやいやいやいやいや、口だぞ!?

 しかもとんでもない速度で開いたり閉じたりしてるんだけど!?」


「……………頑張れ。」


「それだけかよ!コンクリでも突っ込んで開きっぱなしに出来ねぇのか!?」


「無理だ、食い込ませられるのは無機物であって

 魔物には食い込ませられない。

 それとその速度で開いて閉じてる所出そうとしたが

 速度が速すぎて、失敗してるんだ!」


「つか、もう試した後かよ!!」


「当たり前だろ、康太の支援役だからな。」


「ならどうするよ!」


 そう言いながらも康太はミミックの外側に

 短剣で攻撃を仕掛けているが、短剣で切れる事は無かった。


 かといって、短剣が折れる訳でも無い。

 恐らくだが、俺の鉄パイプと一緒で壊れる事は無いのだろう。


 それに弦が弱点、と言ってもあれはピアノ線という名の鋼線だ。

 ハンマー投げの取っ手と球体部分を繋ぐのにも使われたり

 人すら吊り上げるだけの強度がある。


 炭素鋼なら耐熱温度は550度に達するから

 沸騰寸前の熱湯でなんとかなるもんじゃない。


 それ以前にピアノの外板は木材だ。

 そこに刃が立たない時点でかなり硬い事になる。


 なら火、そのものか?

 と、言っても俺も康太もそんなものは出せない。


 色々と対策やらが脳裏を過っていると

 予想外の出来事が起きた。


「がっ!?」


「ぐっ!?」


 康太の声も聞こえた……。

 俺と同じか……、身体がとんでもなく重くなったんだ。


 突如、身体にとんでもない重さが圧し掛かったような。

 膝から崩れて、手で身体を抑えていないと

 このまま床にへばりつきそうな感覚だ……。


「ぐっ、がぁぁぁぁぁぁ!!」


「康太!!」


 そして康太がミミックに捕まっていた。

 どうやったのかは解らないがミミック、と言うかピアノの

 屋根の中に下半身が入っていて

 屋根が高速で開け閉めされていた。


 さらにそこに火の玉と水の球が今にも突っ込んでいきそうだった。


 俺は自動販売機を消し、即座にミミックの真下に

 自動販売機を召喚した。


 自動販売機はミミックの真下の床から生えるように

 一気に出現し、それによってダメージがあったのか

 口となる屋根と側板の部分から康太を吐き出すように放り出した。


 俺は無我夢中で康太の所へと急いだ。

 身体が重い、足が重い、だがこのままだと

 康太に火の玉と水の球が襲い掛かる!


 ミミックは自動販売機に持ち上げられ

 逃げる事が出来なくなっているから良い。


 だが、あの火の玉と水の球はまずい。

 俺は康太に覆いかぶさるように倒れ込んだ。


「がああああああああ!!」


 そして俺の背中側に火の玉や水の球が

 これでもかと降り注いできた。


「匠!」


「じっとしてろ、康太!まだ俺の方が耐えられる!!」


 あながち間違いでも無い。

 痛い、痛いが耐えられない痛さじゃない。


 召喚士が防御力一辺倒というのも頷けるが

 それでもこれは正直不味い。


 これまでの火の玉や水の球が

 それこそ手を抜いていたのではないか、と思う程に

 大量に降り注いできていたからだ。


 俺もそうだが、自動販売機に鉄筋コンクリートを

 呼び出すのは無料(タダ)じゃない。


 魔力、と呼ばれるものをしっかりと消費している。

 この火の玉や水の球が魔法なら、魔力と言う限界が存在するはず。


 しかしミミックそのものにそんな能力は無かった。

 なら長谷川先生……?


 いや、ゴッドラインで神様が言っていた。

 本来魔力とはこの地球に存在しないと。


 俺と康太は称号を得たからこそ使えているが

 ここにいる長谷川先生は、そういったものを持ち合わせていなかった。


 なら誰がこの魔法を……?


 ダンジョンそのものが罠を使う、と言うのは神に聞いたが

 避けられない罠、というのはおかしい。


 それに罠なら康太は「盗賊」の称号を持っているから

 真っ先に気が付いていて良い筈だ。


 盗賊は素早く戦えるが、本質は罠の回避などであって

 本来、前衛という前に出る立ち位置ではなく

 中衛という前にも出るが最前線を抜けてきた相手。


 それも少数に対して強い称号だと神は言っていた。


 何か、何かがこの部屋にはある。

 魔物がもしかしたら潜んでいる?


 康太を庇いながら、そんな事を考えているが

 正直、俺もかなりきつい。


 意識が少しづつ、遠くなり始めていた。



「匠、回復薬を飲め!」


 俺はそれにハッとして手の中に回復薬を出した。

 1本1万円と高額ながら、少し自動販売機から買ったものだ。


 だが、それをこの場が許さなかった。


「ぐぁっ!?」


「匠!!」


 手が回復薬の瓶で切れた。

 それは水の球が俺の手に当たった。

 いや、恐らく回復薬を飲むのを阻止しに来たんだ。


 回復薬の入っている小瓶は割れ、その破片で

 俺の掌が切れてしまった。


「チッ、こいつら回復もさせねぇつもりか!!」


 俺はそんな康太の声が徐々に聞こえなくなり始めていた。

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