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6段目 1層目と2層目の間 その2


 ♪~♪~♪~~~♪


 音楽室のピアノが勝手に音を奏でだす。

 これこそ学園の七不思議。


 そう銘打たれた校内新聞が掲示板に貼られた。


 その結果は新聞部が深夜に校舎に潜り込み

 一大スクープとしたのだが

 結果は本来、深夜に校舎に入ってはいけない筈の所を

 無断で入った、として学校の規則に則り

 1週間の停学処分を言い渡されただけだった。


 だが、深夜に校舎に入るのが禁じられている事。


 それと学園外に出る事が禁じられているだけであり

 学園内を散歩と称して出歩く位には寛容で

 新聞部の内容は、深夜にジョギングをしていた生徒によって

 事実だと騒ぎ始めた事で学園側はその対応を行ったものの

 結果としては音楽室を管理する音楽の先生曰く


「誰も居なかった」として、七不思議であると

 さらに生徒が騒ぐ一方で同様に

「ピアノの音なんてしていなかった」という発表もあり

 疑心暗鬼になった生徒たちが夜な夜な学園内を歩きだす事態となり

 すぐに学園内の散歩なども、申告制へと変わり

 主に体育会系の部活に所属している生徒くらいしか

 出歩く事自体が出来なくなった。


 しかし、これが事件の始まりを意味していた。





「ねぇ、音楽の長谷(ハセ)キョ―、おかしくなかった?」


「そうか?」


 渚と康太が話している長谷キョ―とは

 音楽を担当している長谷川先生の事だ。


 と、言うかゴリ先といい長谷キョ―と言い

 皆あだ名で呼ぶのが好きだな……。


 だが渚の言う通りだ。

 長谷川先生は確かにおかしかった。


 それを裏付けるのが、目の下の隈だ。

 前にはあのような隈は無かった事から

 実は鑑定で見てみた所、重度の睡眠不足と出た。


 特に吹奏楽部の顧問もしている筈だが

 ここの所部活動に顔を出していないという

 女子達の話が耳に入った。


 そして授業と授業の間にスマホの電源を入れると

 ゴッドラインにメッセージが入っていた。



 昼休みは渚も南海も居た事から康太には話さなかったが

 放課後、寮に戻ってから康太とそれについて話し合った。



「マジかよ……。」


「ああ、ゴッドラインにメッセージがあるだろ?」


「本当だ、気が付かなかったぜ。」


「授業中は電源を落とす事で所持が認められているからな。

 俺は授業の間の休みに電源を入れて気が付いただけしな。」


「って事は……。

 早くダンジョンにいかないといけないよな?」


「そうだな、今日の夜が良いだろうが

 寮の入口は事前にランニングなどの為に申請した生徒以外は

 通る事が出来ない。寮管が張っている。」


 寮管とは寮を管理する人、という意味だが

 この場合は寮の管理を当番で補助する生徒の事だ。


 俺や康太には回ってこないが、これに事前登録した生徒は

 周期的にこのような手伝いを行う変わりに

 寮費を安くしてもらう制度が存在する。



「ならどうすんだよ……。」


「俺に考えがある、鉄筋コンクリートだ。」


 俺は康太に考えを伝えた。

 1層で康太の足場に地中に鉄筋コンクリートを出した際

 そのまま上に飛び上がる手助けが出来た。


 だがそもそも視界内であれば、どこにでも出せるものであり

 数の制限などが無いかを確かめてみたが

 見つからないように試した結果としては

 100個程度出した所で出なくなるようなものではなかった。



「ここは寮の3階だ。」


「なら衣装着て飛び降りるか?

 俺は出来ると思うが、匠は無理があるだろ。」


「だから鉄筋コンクリートを複数召喚して

 階段を作って降りるんだ。」


 寮の窓側は、建築基準法に従って

 1.5メートル以上の空白地がある。


 それに夜中だ、大抵の部屋はカーテンを閉めて寝ている。


 そこに鉄筋コンクリートを階段状に出して

 それを降りて消せば良い、と考えた。


 ダンジョンに行っている間は消しておき

 戻る際にはまた積み上げて窓から戻る。


 この案が成功し易い理由としては

 俺と康太が寮で同室だからだ。


 寮は男子寮と女子寮とあるが、全て2人部屋だ。

 基本、名前順で組まれていて

 初日に申請すれば、入れ替えも出来る。


 俺と康太はそもそも出席番号順で

 1番と3番、2番は南海で女子だから順番通りのままだ。


 ただ渚と南は小学校から一緒だった事もあり

 出席番号順だと猪村いむら一尺八寸かまつか

 合わないので、初日に頼んで入れ替えてもらったそうだ。


 まぁ、だからと言って女子寮に行く訳でも無く

 ただ旧知だから一緒に居ると言う話なんだけどな。



「まぁ、匠がそう言うなら出来るんだろ。

 いいんじゃね?」


「いいのか?」


「そりゃ匠だからだな。

 お前、出来ない事を言ったのを見た事ねぇし。」


「そうか……。」



 俺と康太は夜を待たず、そのまま寝る事にした。

 そして日が出るか否かの時間に起き

 窓から鉄筋コンクリートを重ねて階段を作り

 そこから降り、校舎へと向かった。


 この時間を選んだ理由は、行く時と戻る時。

 2回リスクを負う位なら行く時だけのリスクを負い

 朝になれば食堂が解放される為、そこに紛れれば

 戻る際のリスクが回避出来るという考え。


 それともう1つはダンジョンと学園の時間の流れの問題だ。

 俺と康太はダンジョンに行っている間は学園は時間が流れない。


 だが俺達そのものの時間は普通に流れているから

 2層の踏破に時間が掛かれば、眠くもなってくる。

 先に寝て、起きてからの万全な状態で挑みたかったからだ。



「っていうか匠、1つ質問があるんだけどさ。」


「何だ?」


「校舎って鍵掛かってるよな?どうやって入るんだ?」



 康太の疑問は当然だ。

 しかも新聞部のせいで、校舎の鍵閉め確認の徹底がされていて

 昼間に開けていても閉じられてしまう。


 だからこそ、学園内の散歩やランニングと称して

 校舎外でその確認をする生徒が多かった。


 だが、それは俺には関係ない。



「匠、超鍵掛かってんじゃん……。」



 場所はダンジョンに行く為の階段が出来ているであろう場所。

 その裏側にあたる場所だ。


 元々行き止まりで窓すら存在しない。

 しかし1階から2階へと上がっていく踊り場の部分には窓がある。



 そこに鉄筋コンクリートの塊を重ねて階段を作り

 窓に届くようにした。



「まぁ、見てろ。」


 外とは言え、窓を覗き込めば中は見える。

 つまり、窓の内側も俺にとっては視界の範囲だ。


「こういう窓についている鍵はクレセント錠だ。

 しかもこの部分の鍵は1階部分と違って、何かを押しながらレバーを

 引き下げるといった少し高めの鍵でも無い。」


「それで?」


「まずこのレバーが真上に上がっている状態から

 レバーに掛かるようにしつつ鉄筋コンクリートの塊のサイズを調整して出す。

 すると塊はレバーに食い込んだ状態になるが

 実は食い込んだものを壊さないようになっているらしくてな。

 レバーだけが奥側へと動く事になるんだ。」


「………ならもう少し大きくても良いんじゃねぇか?」


「駄目だ、鉄筋コンクリートなどの召喚物の特性は

 食い込んだものだけは壊さない、というものだ。」


 実は何度か学園内で誰も居ない所で研究してみたし

 練習も何度か行っている。


「まず食い込ませるのはこのクレセント錠だけにしないといけないからな。」


「窓ガラスも一緒でいいんじゃねぇか?

 そうすりゃ壊れねぇだろ?

 食い込んでいるものが壊れないなら。」


「それだと鉄筋コンクリートの塊は俺達の方に来るんだ。

 これはあくまでクレセント錠だけを押し出すか、下に下げるのが

 今回の目的だからな。窓ガラスに食い込ませると

 内側はクレセント錠のレバーがあるだろ?

 これを壊さない為に、俺達の方に塊が進むんだ。

 そうすると、レバーが押したり下げたりより

 窓ガラス側に優先して飛び出してくるんだ。」


「なら窓ガラスに僅かに食い込ませるとか?」


「それならレバーだけ下げても同じだろ?

 それに僅かでも食い込んだ時点で、実は窓ガラスそのものを

 壊さないで突き抜けてくるんだ。

 今日の授業休みなどに試したんだが、これが一番素早く開けられる。」


「やけにトイレが多いと思ったらそんな事してたのかよ……。」


「自分の力位、どう使えるかを調べるのは当然だろ?

 何しろ俺達2人の命が掛かってるんだからな……。」


「そういやそうか……。

 下手すれば死んでたかもしれねぇんだな……。」


「だが、1層と2層では違いがある。

 俺達には自動販売機で手に入れた回復薬なんかがある。

 ゲームではないが、不慮の事故が起きた場合でも

 なんとかする手立てがあるってのは大きな違いだ。」


「そう言われればそうか……。」


 俺達2人は鍵を開けた窓から侵入。

 窓をとりあえず閉め、あの階段があるであろう場所へと向かった。





「あった……。」


「これが2層の入口か……。」


 俺と康太はその階段を降りていく。

 その時、思い出したように俺は指を弾いた。


 パチンと誰も居ない校舎に音が響いた。


 康太が非常に小さな声で「何やってんだ!」と怒ってきたが

 窓の外の鉄筋コンクリを消すのを忘れていた。

 それを消す為に仕方ない事だった、と言うと

 まぁ納得している感じではなかったが

 まぁ、それならとでも言うような顔をしていた。


 そして俺達は階段を降り切り、ついに2層へと足を踏み入れたのだった。









「あの2人、こそこそしたりと最近変だと思ったら……。

 しかもあの階段、消えちゃったし一体何なの……。」


 匠が消し忘れていたコンクリの階段を上り

 窓から侵入すると共に足場が消えた事にドキドキしながら

 踊り場に居たのは一尺八寸(かまつか)(なぎさ)だった。


 万年金欠の康太が飲料を口にしているのを見て

 渚はやはりおかしいと思っていた。


「あいつがやりくりとか、ありえないもの……。

 それにしてもなんでこんな時間に校舎に?」


 渚が2人の進んだ方向へと、進んでいったが

 渚はこの時、気が付かなかった。


 2人が降りていった階段は、本来存在しないものだと言う事を。

 しかもその階段が渚にも見えてしまっていた。


 渚は何1つ気にする事無く、ダンジョン2層へと繋がる

 階段を降り始めてしまっていたのだった。

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