5段目 1層目と2層目の間 その1
俺と康太は放課後、寮に戻り
ゴッドラインで神様とやりとりをした。
まず1層を踏破した事で、行方不明事件はこれで
ひとまず無くなるだろうとの事だった。
全部で13層あるダンジョンだが、最初から1層から13層まで
通して踏破出来る訳ではなかったらしい。
あくまでここ最近の行方不明事件などは1層の魔物によるもので
俺と康太はそれを食い止めただけであって
これからまた不思議な事件が発生するだろうし
その際にはまた階段が姿を現し、今度は2層目に挑めるようになるのだとか。
だが最も問題なのは、俺と康太に階段が見えた訳だが
あれが誰でも見えるのか、と聞いたみたのだが
ある一定以上の力を有していて
かつ俺や康太のように、力を受け入れ称号を得られる程でなければ
あの階段を見る事は出来ないのだそうだ。
「選ばれしなんとかってやつか?」
「選ばれたいとは思わないけどな……。」
ともかく、俺と康太はあのダンジョンを踏破した事で
無事、学園に戻れた訳だが
そうもいかない事もあった。
これまでの行方不明の犠牲者達だ。
彼らが戻ってくる事は現状無いのだそうだ。
その魂をダンジョン・コアと呼ばれる13層にある
ダンジョンの大元が力として保持している以上
完全なる踏破があった上で、さらに条件付きになるらしい。
少なくともダンジョンに攫われ食べられた人々であれば
13層踏破後であれば、元に戻るらしい。
しかしダンジョンの外で亡くなったりした場合。
それはダンジョン・コアの力として取り込まれていない為に
遺体などはそのまま残る上に、いずれ火葬場で焼却される事になる。
魂が解放され、地球の輪廻とやらに戻りいずれ次の人生を
転生と呼ばれる形で歩む事にはなるだろうが
元通りに戻ってくる事は無いとの事だった。
その為、ダンジョンの外でも俺と康太は
不思議な現象、それもダンジョンから出てきた魔物など
ダンジョン起因の出来事であれば対応しなければ
本当の意味での犠牲者が出る、と言う事でもあるらしい。
「あの力がダンジョンの外でも使えるって事か?」
そういう事らしい。
その為に俺と康太の顔の部分が見え難くなるように
神様が衣装を調節しておいたそうだ。
そしてそれと同時に、念押しもされた。
「学園やこの町でもし俺達に何かがあったり身バレしたとしても
一切が自己責任、か……。」
これからも不思議な出来事が起きるならば今以上に
警察など、国家権力の介入すら考えられる。
その中で、俺達がもし捕まったとしても。
それらは自己責任、というか……。
「警察だの、お役所だのが神様から依頼されましたで
納得なんかする訳ねぇよな……。」
康太の言う通りだ。
俺が召喚士で康太が盗賊という称号を得て
魔物を倒しているだなんて言っても納得はしないだろうし
何より見た目はただの不審者に他ならない。
「匠、時々言い方が辛辣だよな。
不審者はねぇだろ、不審者は……。」
「俺と康太の間ではそうだろうが、世間的に言えば
顔を隠している上に、魔物と戦える。
不審者と言うか、恐怖の対象にすらなりかねないんだぞ?」
「恐怖の対象ねぇ……。」
「俺なんて、この世界の法則を完全に無視した力だ。
何も無い所から物が出せるとかさ。」
「んー、手品だとか言えば納得されそうな気もするけどな。」
手品師、召喚士と言うよりは
確かに俺は手品師っぽいよな……。
「まぁ、とりあえずは暫くはダンジョンにもいけないんだし?
それよりさ!報酬報酬!」
俺も康太も両親から小遣いが多少出ているだけで
全寮制とは言え、3食を除けば
少ない小遣いでやりくりしなければならない身だ。
それが俺の自動販売機の能力と
ダンジョンで得たいわゆるドロップ品で
様々なものが買えると言うのだから
報酬、と言っても過言では無いのかもしれない。
「で、何が買えるんだ?いくらあるんだ?」
「ちょっと待ってくれ。
今からロッカーから出して数えるから……。」
数えた結果だけで言えば
まず異世界の硬貨とやらだけで大凡10万円少々。
それとアイテムの類が少々あった。
「10万!!そんだけありゃ暫く困らないだろうけどよ……。
むしろ何が買えるのかによるよな?」
自動販売機の召喚は種類もあった上に
並んでいる商品自体も選ぶ事が出来たが
主にダンジョンで使うものか、日常的に使うものが多く
飲料に食品、それにゲームで使うようなアイテム類があった。
「HP回復薬にMP回復薬、毒解消薬、麻痺解消薬とか
本格的にゲームみたいだな……。
まさか蘇生薬とかあったりしないよな?」
「HPやMPを全快するようなものはあるようだけど
そういうのは無いな……。
しかも全快薬だけでもとんでもなく高い……。」
「いくらだ?」
「1つ1000万。」
最早、この世界のものでは無い事は解るが
それでも笑うしか無かった。
それでも普段飲むような飲料すらある事から
小遣いの少ない俺達には喜ぶべきものだった。
だが、それがどうやらいけなかったようだ。
「康太!あんたまた無駄遣いしてる!!」
普段であれば万年金欠で大抵飲み物などを我慢し
水道水を飲んでいる康太が、飲料を飲んでいる所が
渚の目に止まったからだ。
「んだよ、これでもちゃんとやり繰りしてっから大丈夫だって。」
この言葉ほど信憑性の無いものは無い。
それは俺が良く解っている。
康太はどちらかと言えば浪費とも思える金遣いをする。
それこそ新商品があれば、真っ先に飛びついて
「不味い!」と大抵後悔している事が多い。
限定!と謳われていれば、真っ先に飛びついて
「不味い!」と大抵後悔している事もある。
非常に新発売、とか限定、とかに弱い。
「そう言われると珍しく新商品でも限定品でも無いわね……。」
但し自動販売機からは定番品しか出てこない。
これは渚の疑いを躱したか?と現時点では思ったが
これが実は後々、全く躱せてなかった事を意味するとは
思ってもみなかったのだ。
そして1層を踏破して以降。
行方不明のニュースは無くなった。
しかし、それはその行方を捜していた警察等にとっては
新たな事件が起きなくなった、という安堵と共に
これまでの事件で証拠らしい証拠もないままに
事件を追えなくなった事をも意味している。
立ち読みした週刊誌、定期購読している新聞などでは
連続事件、と銘打ってはいるが
あの日を境にパッタリと事件が起こらなくなった事で
犯人が行動しなくなった、警察の捜査の手際に対する
バッシングなどが苛烈化していた。
そして1層目の踏破から暫くして、俺達の目の前に
またあの階段が現れる、訪れのカウントダウンが始まるのだった。