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2段目 1層目 その1


「はぁっ!?」


「え……?」


 変わったなんてものでなかった。

 これまでコンクリ造の壁に階段を降りてきた筈の俺達が

 何故か下は土、壁と天井が石造りの場所に立っていたからだった。


 それと共に、後ろを振り返った時だった。

 真後ろが石造りの壁……。


 降りてきた筈の階段が見当たらなかった。

 俺は即座に石造りの壁に触ってみると、通り抜ける事も無く

 そしてひんやりと冷たさを感じた。



「おおおおお、ちょ!?

 匠!!これどうなってんだよ!!」


「俺も解らない……。」


 俺は左右の壁なども触れてみたがどれも石造りなだけに

 ひんやりと冷たさを感じる上に押してもびくともしなかった。


「解らないって……。」


「だが解る事もある。」


「解る事?」


「俺達が下りてきた階段が見当たらない。

 後ろも左右のこの石造りの壁はどれも冷たく硬く

 押しても動くような代物だとは思えない。」


「つまり………?」


「袋の鼠、って所かな………。」


「うっそ、マジで!?

 体育の後、昼飯ジャン!

 今日のA定、楽しみにしてたのに食えないの!?」


「いや、そこじゃないだろ……。」


「じゃあ何だよ。」


「これ、もしかしてこの辺で起きている行方不明。

 そのものじゃないのかな、ってさ……。」


 もし行方不明とやらがもしこんな感じで起きているのならば。

 確かにこの場に出口が無い訳だから、行方不明になるのではないか。


 但しここから進むべき道があるのだから

 それが正解とも間違いとも言えないが……。



「そういう可能性がある、って事だよな?」


「そういう事だ。」


 あくまでこれは可能性の域でしかない。

 俺達が考える机上の空論、それこそ

 前に進んで確かめてこそ、正解が見えるし

 そもそも進む以外、今の俺達に選べる選択肢自体が無い。


「なら、昼飯に間に合うようにさっさと行こうぜ!」


「えっ!?」


 凄いな、康太。

 怖いとかそういう躊躇は無いんだな……。



「いやいや、あっただろ……。

 そもそもお前が無い筈だって言う階段を

 勢いよく駆け降りるまでで躊躇なんてし終わってるだろ。」


「切り替えが早いな。」


「つー事で行こうぜ?

 早くしねぇと真面目にゴリ先の拳骨が頭に落ちるからよ。」


「………そうだな。」


 ゴリ先は体育の教師だ。

 ゴリラに似ているからゴリ先と言っているが

 正しくは五里山体育教諭、だが

 まぁ大体の生徒は裏でゴリ先と言っている。



「って危ねぇ!」


 康太のその声に、俺が顔を上げると

 目の前には矢………。


 それを康太が素手で握って、掴んでいた。



「って痛ぇ!どこのどいつだ!

 こんな危ねぇもん射った奴ぁ!!」


 その声に答えるように、なのかは知らない。

 だがその姿を見て、俺は驚いた。


 身長1メートルから1メートル20くらいだろうか。

 毛は一切なく、緑色の皮膚に弓矢を持った

 小さな二足歩行の生物。


 そしてその後ろから、同じような外見の生物が

 1、2、3、4と続々現れたと思えば

 それぞれが短剣や斧、こん棒のようなものを持っている。


「なんだありゃ……。」





 それと共に、1つの不思議な現象が起きた。

 目の前の5つの緑色の生物がビタっと止まった。

 微動だにする事も無く、それまで小さく聞こえていた

 ゲゲゲと言うような発声にも聞こえなくもない

 音も聞こえなくなった。


 そして気が付いた。


「おいっ、匠!なんか身体が動かねぇぞ!?」


 そうだ、康太の言う通り

 俺も身体が動かなくなっていた。


 多分、目の前のあの緑の生物も

 同じ状況だからこそ、動かないのかもしれない。



 だがこの身体が動かない状態は何なのかも解らなければ

 それ以上の進展も無い。


 これが行方不明になった人々が陥った

 不思議な現象の正体なのか………?





  『いや、違うぞ。』



 その声は、目の前にメラメラと燃えるような。

 宙に浮く、まるで火の玉にも見えなくもないが妙に青白かった。



  『我はお主たちが「神」と呼称する存在である。』


 神……?



  『この地下迷宮、ダンジョンに踏み入ってしまったか。』



 神とやらは俺の考えや言葉に一切反応する事も無く

 一方的に話を始めた。


 まず神と名乗っていたが、正確にはこの地球の神ではなく

 魔法の存在する世界の神様だそうだ。


 そしてこの地下迷宮、ダンジョンと呼ばれる代物は

 その世界からやってきたものなのだそうだ。


 そして驚愕の事実が俺達に伝えられた。

 今から5か月前、この周辺で起きた建物の崩壊にせよ

 人々が行方不明になる事件にせよ

 その根源はこのダンジョンそのものにある、と言う事だった。


 剣と魔法のファンタジーな世界であり

 魔物が跋扈する異世界から、この世界にダンジョン・コアなるものが

 紛れ込んでしまったのだそうだ。


 そして全ての事件はこのダンジョンで誕生した魔物の仕業であり

 行方不明になっている人々は全てこの目の前に居る

 緑色の魔物「ゴブリン」達に攫われたのだそうだ。


 ゴブリンは人間を捕食するそうで

 皆、食べられたそうでこの先には人の骨も一時期はあったが

 全てダンジョンに吸収され、微塵も残ってはいないのだとか。


 このダンジョンの最下層13層目にあるダンジョンコアは

 入った人を魔物に倒させ、食べ残した残り滓を吸収し

 力へと変え、徐々に成長を果たしているのだそうだ。


 しかし神様とやらは、あくまで地球の神様ではなく

 このダンジョンのダンジョン・コアが存在していた世界の神であり

 目の前に見えている火の玉は、神様の意識だけだそうで

 実体はここに無く、このダンジョンを何とかする事は出来ないのだそうだ。


 そこで、神様とやらは俺達に力を与えるので

 このダンジョンの全13層を踏破し、ダンジョン・コアそのものを

 壊して欲しい、と依頼しに来たのだそうだ。



『理由がどうであれ、我が世界から出でたものが

 他の世界に迷惑を掛ける訳にはいかぬからな。』


 ダンジョンは全13層。

 1層単位で入る事が出来るが、一度入ると

 層をクリアしなければ出る事が出来ないのだとか。


 しかも神様の力を得た俺達がもし、ダンジョンで敗北した場合。

 大きな力をダンジョン・コアが得る為に地球が崩壊しかねない。


 しかしこのまま放置しておいたとしても

 数年でやはり地球が崩壊する事になってもおかしくなければ

 その頃には日本に住む人々の大半が死んでいるだろう。


 1つの層には魔物が出るが、一番最奥にいるボス魔物を

 倒せばクリアとなるのだとか。


 眉唾な話だが、それが本当であれば俺と康太は

 この1層目とやらを踏破しなければならない事になる。


 そうしなければ、出られない。

 だが、目の前に居る化け物、魔物とやらをどう倒すのかと言えば

 神様とやらに力を貰う以外何があると言うのだろうか。



「選択肢がやけに無ぇってもんだな。」


  『仕方ないのだ、異なる世界に力を送る事や

   我が意志をこうして送る事にも多大な力を消費しておる。

   いくら神と言う存在と言えど、限界はあると言う事じゃ。

   無事にお主たちだけを出す、事は出来なくはないが

   その後に誰かに力を与える。

   そこまでの余裕が無いのじゃよ。』



 しかも放置しておけば、これ以上に行方不明者なども増えれば

 ダンジョン自体も早く踏破しなければ

 ダンジョン・コアが力を十二分に集め終われば

 世界は崩壊を始めるとの事だった。


 何より時間が無い。


 それが選択肢の狭さの理由なのだそうだ。



「爺さん、あとどのくらい持つんだ?

 このダンジョンとやらが力を溜めきるまで。」



  『予想では1年とない。

   精々あと半年持てば良い方じゃろうて。』


「今6月だから……今年一杯か。匠、どうするよ?」


「康太。」


「はっ、愚問だったか。

 いいだろう、爺さん!俺達がチャチャッと踏破とやらをして

 亡くなるまでにカタぁつけてやるぜ!」



  『別に儂は半年では死なぬぞ?

   それに崩壊するのはこの地球だけで

   儂の存在する世界には何一つ影響はないぞ?』



「チッ、きったねぇ。

 それじゃ高みの見物なのかよ……。」



  『だからこそ、我が力を与えようと言っているではないか。

   不満か?』



「当然、俺は格好良い力なんだろうな!?」



  『解らぬ、その者に合った力が選ばれる。

   最もそのものが扱うに合ったものであり

   最大限を引き出せる力が与えられる事となる。』



「いいだろう!じゃあその力、さっさとくれよ!

 俺と匠がこんな連中、さっさと蹴散らしてくれるからよ!!」



  『その言葉、努々忘れるでないぞ……。』



 俺と康太の目の前から青白く揺れる火の玉が2つに分かれた。

 そして俺と康太目掛けて飛んでくると共に

 俺達2人の姿が変わっていったのだった。

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