16段目 3層目と4層目の間 その2
俺達は事件が最も起こりやすいとされている
上平橋駅南口の商店街に4人固まる形で待機していた。
ここに来るまでも含め、渚のインビジブルで
姿を消し、南海の能力で出せる矢によって
監視カメラの機能を一時的に停止する事で
問題なく待機する場所へと移動が出来た。
「あと気を付けるべきは……。」
「野次馬のスマホのカメラ、それとマスコミのカメラね。」
「マスコミのカメラは大きいから狙い易いけど
野次馬の分は数も多くて小さいから難しいわね……。」
「いや、射る時に姿が見えてしまうからそれは避けた方が良い。」
一応、攻撃になるようで射った瞬間がカメラに限らず
肉眼でも見えてしまうのがインビジブルそのものの欠点だ。
一応、個人宅の監視カメラも出来る限り位置は把握しているつもりだが
それもあくまで俺達の手によって調べた限りであって
それが必ず、と言う訳でも無い事も承知の上だ。
だからこそ特に学園周辺に関してだけは
徹底的に調べ、見つからないように戻れるようにはしていた。
「だけど名前が悪くない?」
「死魔の事か?」
今回の事件を起こしている魔物の名前は死魔。
下半身が欠損した魔物で両腕を使い対象を死へと導く魔物で
そいつが人々の足を掴んでは引き摺り込んでいると言うのが真相だ。
「それより下半身が無いのに時速100キロで走るって
おかしくないか?足が異常に速いって事だよな?」
「康太、移動速度が速い。で良いと思う。」
「腕だけで時速100キロってのはなぁ……。」
「その為に私が居るんだから問題ないって。」
もしここで取り逃がす事があったとしても
南海の能力に相手に矢を刺し、それを追跡する事も出来るらしい。
渚は魔法の中でも無属性と呼ばれる魔法であれば
見えない衝撃を対象に与える事も可能だそうで
俺達は誰も居ないラーメン屋の屋上で、その時を待っていた。
特に渚は今回のようなケースに備えて
魔法の練習をしてきたそうで、特に探知をする魔法に関しては
駅から学園すら届く位の範囲までをカバー出来る位には
上達させてきたのだそうだ。
「そういえば匠も自動販売機を頑張ったとか聞いたけど?」
不思議な事に、自動販売機を呼んだり戻したりを
繰り返せば上達?するかと思ったのだけど
上達、と言うよりはレベルが上がった感じだった。
自動販売機の出せる数が増えたり
ラインナップが増えたりしただけであって
特に攻撃力が上がったとかそういう事は無かった。
「で、何が出来るようになったの?」
「……………大麦コーラが出せるようになった…。」
メ〇コールと言う、今は日本では売られていない筈の
大麦コーラがラインナップに並ぶ様になったり
ク〇アタブがラインナップに並んだりと
有用性が全く見いだせなかった。
「大麦コーラ?」
「あー、知ってる。あの銀と青の缶のだろ?
コーラ1にウーロン茶2にスポーツドリンク1を混ぜると
とんでもなく近いものが出来るんだよな。」
「康太、なんでそんな事知ってるのよ……。」
「手に入らないって聞いて作った事があるから?」
「味は?」
「……………可もなく?」
「不味いんだ……。」
「好きな人は好きな味……かな?」
「へぇ……………って来たよ!!」
雑談をしていると、その最中にどうやら死魔が現れたらしい。
即座に南海が追跡用の矢と共に、攻撃用の矢を放ち
渚も無属性魔法を放った。
俺と康太が見る限りでは、ホームの真ん中で待機していた
サラリーマンが線路側に足から引っ張られていて
それをすぐ近くに居た警官が腕を掴んで堪えていたが
力負けしたのかそのままゆっくりゆっくりと通過しようとしている
電車へと引き摺られている姿が見えた。
南海の矢はラーメン屋の屋上からは死角になる形だったが
どうやら矢の射線を曲げる事が出来るらしく
死魔に対しては真上から突き刺さる形になったようだ。
但し当たったのは追跡用の矢と攻撃用の矢だけで
渚の無属性魔法も曲げるように放ったらしいが
避けられたらしい。
だが駅にはありえない程大きな叫びが響き渡った。
南海の矢が死魔に当たった事で、死魔が出した叫びだ。
俺達の耳にもその劈くような酷い叫びが聞こえ
思わず耳を塞いでしまった。
「あっ、逃げた!?」
俺達に薄っすら見えるか否か。
どちらかと言えば俺達のインビジブルのような状態が
まもなく解けるか、といったような状態の死魔が見えるも
それはあっという間に商店街を南方向へと駆け抜けていった。
俺達は追跡が可能な事、さらに探知も合わせ
死魔の逃げた方向へと屋根伝いに一気に追いかけた。
南海が矢を指の上に乗せると、鏃が死魔の居る方向を指すと言う事で
矢を見ながら追いかけていくと、1つの懸念が生まれていた。
「おい、これって……。」
「学園のある方向だよね……。」
そして俺達が追いかけた後、その行先は確かに学園だった。
「なんだこれ……。」
「なんでこんな事に……。」
「それよりなんで既に警察が……。
いくらなんでも早すぎない?」
俺達は駅から10分ほどで学園の正門が見える位置に来ていた。
だがそこに見えた光景は異質だった。
校舎などはそのままだが、校内は所々に墓石や十字架のようなものが見え
そこにうろついているのはスケルトンにゾンビ達、アンデッド魔物。
そして学園全体を警察と自衛隊が封鎖している姿だった。
「まて、あれ何だよ……。」
康太が見かけたもの、それはSATだった。
「スペシャルアサルトチーム、特殊急襲部隊ことSATだ。
正式にはここは東京都だから警視庁特殊部隊だ。
主に対テロを担当していて、ハイジャックや重要施設占拠の重大テロ事件や
組織的な犯行、強力な武器が使われている事件の鎮圧を目的としている部隊だ。」
「なんでそんな連中が……。」
「解らない、だがそういった部隊が出てくるにしては
妙に動きが早すぎる気がする。」
だからと言って、この状況をただただ見ていると言う訳にもいかない。
俺達は「ゴッドライン」で神に確認をすると
この学園の状況は4層目による影響だと知った。
「死魔もそこに居るって事?」
再度、確認を取ると死魔そのものはダンジョンに戻ったものの
4層のボスに取り込まれてしまったのだそうだ。
「取り込まれた?食われたとか?」
その時だった。
1発の大きく乾いた感じの音がした。
「見て、あれ!」
それは警察官が真上に銃を構え、発砲。
いわゆる威嚇射撃、と呼ばれるものだった。
学園の正門は閉められていたが、そこにスケルトンやアンデッドが
次々と押し寄せていた事で、どうやら威嚇射撃をしたらしい。
「まさか……。」
そして始まってしまった。
スケルトンやアンデッドに対し、更なる威嚇射撃の末。
正門に手をかけたアンデッドが1匹、撃たれ
門から軽く吹き飛ぶ感じに倒れたのだった。
その後も、数匹のアンデッド魔物が倒れていくのに
俺は違和感を覚えると共に、鑑定をすると……。
「あれはアンデッド魔物の姿をした生徒と教師だ……。」
しかも誰もが呪われている……。
「呪い……?」
「ああ、どんな呪いかまでは解らないが
掛けられている事は間違いない……。」
ゴッドラインで確認を取ると、ダンジョンのクリアと共に
呪いは解かれるであろう事。
それに急かされつつも、俺達は封鎖の隙を探し学園に潜入。
4層ダンジョンの踏破を急いだのだった。