12段目 3層目 その1
「それ本当か!?」
「確かよ……。」
「なら尚更、今夜決行で正解だったな。」
つい先程、次の犠牲者が寮から忽然と消えた。
名前は猪村南海。
このダンジョンが現れた当初くらいまでは
4人でよく教室で話をしていた。
そして渚とは寮が同室だ。
就寝直後、南海は渚の目の前で消えたそうだ。
それも光の塵のようなものが出る訳でも無く
一瞬にして消えたのだそうだ。
「時間が勿体ない、行こう。」
連日の神隠しのような出来事に学園内には
警察、そして学園が用意した警備員がうろついていて
監視カメラも増設されていた。
だが学園内の監視カメラの数は常に把握していた事から
あとは肉眼だけを避ければ良いと階段まで急いだ。
生物室のある校舎とは別だった事から
警備などは比較的手薄だった事から、難なく階段に辿り着き
俺達は3層目に挑む事となった。
「廊下……?」
3層目はこの学園の校舎そのものだった。
ダンジョンと言えば確かにダンジョンらしい感じがするが
階段がある校舎とは別の校舎だとすぐに解った。
「これは生物室があるC校舎だ。
階段があるA校舎じゃない……。」
「っつー事は生物室まで行けって事か?」
「らしいな、どうやら客が出迎えに来たようだ。」
それは骨格標本、ではなく鑑定の結果はスケルトン。
そして人体模型、ではなくゾンビ。
但しゲームや映画の特殊効果などで見るような
おどろおどろしいものではなく
スケルトンは骨格標本さながらだし
ゾンビは人らしい感じすら無い、プラスチック感が漂う人体模型そのものだ。
「見た目はあれだが、ゾンビにスケルトンだ。」
「アンデッドってやつ?なら私の出番よね!」
渚による聖属性魔法「ホーリー」
アンデッドに対しては非常に効果的な魔法、の筈だった。
「なんで殆ど効果が無いのよ……。」
再度鑑定し、細かく見ていく。
「渚、あれは名前はアンデッド系の魔物だが
構成しているのは骨格標本に人体模型そのもの。
つまりただのプラスチックだ……。」
「マリオネットのように操られているって事?」
「アンデッドなら闇の属性を持っているが、あれはどうやら無属性だ。」
「なら火属性ね、ファイアボール!!」
渚が火球を次々と撃っていく。
しかし火球が当たった事で燃え始め、骨格標本や人体模型といった
身体そのものがドロッと溶けはするものの
ゾンビにスケルトンはそのままこちらに歩いてきた。
「燃やして駄目なら、凍らせるまで!!アイススピア!!!」
渚が氷柱のようなものを撃ち出し刺さると
次々と刺さった場所から身体そのものが凍り始めていった。
だが、まだ完全には動きが止められないでいた。
「鉄筋コンクリート召喚!!」
俺が鉄筋コンクリートの塊をゾンビとスケルトンの上へと召喚。
そのまま重力に従い、落下するとゾンビとスケルトンは
鉄筋コンクリートの下敷きとなり、動きを止めたが
そこからはみ出している手などがまだカタカタと動いていた。
「何よこれ……まだ動いてるわよ!?」
「鑑定でも弱点らしい弱点が解る訳でも無い以上
これが限界だろう、それより先を急ごう!」
「そうだな、南海の事もあるからな。」
「………解った。」
俺は進路上のゾンビとスケルトンに対し自動販売機と鉄筋コンクリート。
さらには鉄パイプで殴りかかり
康太は短剣では身体をバラバラにするように切っていった。
「うぇ、切っても動くのかよ……。」
腕や足を切っても、それぞれが個別に動いている。
それこそトカゲの尻尾ではないかと思う位に。
「ウインドブレード!!」
渚もそれを見て、風の属性魔法で切り刻むように
戦い方を変えていった。
確かにバラバラになっても動きはしても
腕だけでは精々指を動かし、肘を動かして這いずるのが限度だし
足などは膝から下で切ってしまえば足の指が動く程度で
移動自体はほぼ出来ていなかった。
「全部無視で良いんだな?」
「当然でしょ!?南海がここにいるのよ!!」
「ああ、南海が優先だ。」
俺達はともかく生物室へ辿り着く事を最優先とした。
そして到着した生物室。
大学のような教室で、教壇へと向かい下がっている形の黒板の上部に
南海の姿が確認出来た。
「何これ、酷い……。」
それはバツ印のようなものに張り付けられた南海。
そしてその手前には巨大な骨格標本が居座っていた。
骨盤から下が存在せず、床から生えているようなスケルトン。
鑑定の結果は魔物「キングスケルトン」
名前以外は一切の詳細が表示されず、これまでに遭遇していない魔物の類だった。
「あれが恐らくボスだな!」
「南海が居るの!攻撃には気を付けて!」
「解ってるよ!!」
康太と渚がそれを見て、一気に駆けていった。
康太の短剣が当たれば、骨が砕けるもすぐに再生という言葉が
適当という程に元通りに戻れば
渚の風の属性魔法が当たり、骨が切れてもすぐに元通りに戻る。
だがキングスケルトンは声とも取れない、音を立てていて
再生はしても、そのダメージが通っていると俺達は誰もが思っていた。
「南海を還して!!」
「南海を放せ!この化け物野郎!!」
康太と渚の攻撃が徐々に苛烈になっていくのを
俺は何故か手も足も止めて凝視していた。
だが俺には違和感しかなかった。
キングスケルトンは攻撃している、と言うより
防御に徹しているようにしか見えなかった。
何より康太の渚の攻撃を出来る限り
掌で受けようとしている感じがした。
「まさか……。」
俺はキングスケルトンの上に居る南海を凝視した。
鑑定……結果は、キングスケルトンと出た。
何よりキングスケルトンに見えるあの骨より
詳細な情報が出たからだ。
すぐに俺は鉄パイプを南海「に見えるもの」へと伸ばすと
張り付けられていた筈の南海「に見えるもの」が即座に回避行動を取った。
俺の行動にも、そして南海が張り付けられている状態から抜け出て
回避した事に、康太も渚も驚いていた。
『気が付いたか、忌々しい連中め……。』
さらに喋った……。
確かゴッドリンクで神様は会話が出来る程の知能を持ち合わせる魔物は
相当上位の存在で強い、と言っていた事を思い出した。
キングという名を冠するのだから
相当上位の存在だと考えて良いのかもしれない。
「匠、南海は……。」
「2人が攻撃していた方が本物の南海だろう。
鑑定してみたが、南海の姿をしている方がより細かい情報が出た。
それに意識も無いかのように、目を閉じていたが
攻撃してみれば、さっと避ける辺りこいつがキングスケルトンだろう。」
俺の言葉に胡麻化すのを止めたのか
南海「に見えたもの」は金色の骨に変わった。
金色の杖を持ち、金色の王冠を被り、金色のマントをつけたスケルトン。
『貴様ら、2層まで踏破した者達だな?』
「たかが魔物の分際で、やってくれたもんだな……。」
『はっ!貴様ら人間などこの程度に簡単に騙される!
自らの同種ですら、敵と見えれば疑いも躊躇もなく襲い掛かる!!
これほど滑稽な人族如きが我をたかが魔物!?
面白い冗談を言える人族が居たとは滑稽な事だ!!』
「滑稽ねぇ……。
今のお前にぴったりの言葉だろ?」
『何?』
「それがどういう結果を招くかも深慮せずに行った。
そしてそれが俺達の怒りを招き
これからお前が地獄のような目に合うのではなく
地獄そのものに叩き落された方がよっぽどマシだった。
そう思える事になるんだからな。」
『言うな、人族如きが!』
「吠えるなよ、魔物如きが。」
それは康太と渚からすれば目から鱗だ。
これまで優勢に戦いを進めてきた相手が
俺達が救うべき南海だった事、そしてキングスケルトンが言う通り
見た目に騙され、南海に見えたキングスケルトンを
鑑定せずに、キングスケルトンに見えた南海を攻撃していた事。
だが、キングスケルトン。
お前は1つ、悪手を選んだんだ。
こうしてお前の本体が割れたんだ。
康太に渚、そして俺を怒らせたことがお前の悪手であり
失策だと、これから俺達が証明してみせるんだからな……。